【コロナウイルスに負けない免疫力をつくる(全3回)】 四股〈しこ〉を踏んで健康を取り戻す——明治大学教授・桑森真介

コロナウイルスが猛威をふるっています。コロナウイルスに限らず、様々な感染症の危険から身を守るには、何よりも自分自身の免疫力を高めることが非常に大切です。そこで『致知』の記事の中から、免疫力を高める情報が満載の記事を精選して緊急配信いたします(全3回)。最終回は、日本の国技・相撲が持つ長い伝統の中で培われた「四股」を日常に活かし、誰でも自宅で実践できる健康を取り戻す方法を明治大学教授・桑森真介さんに教えていただきます。

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相撲独自のトレーニングを日常生活に生かす

〈桑森〉
誰もが知っている伝統的な相撲のトレーニングとして、四股を挙げることができるでしょう。何十回、何百回と踏むこともある四股ですが、数十秒で終わる競技なのに、どうしてそんなに長時間を要するトレーニングが伝統として伝わっているのか理解できない部分もあります。

しかし、四股をウォーミングアップやクーリングダウンの観点から考えてみると、とても理に適っているのです。どのような時に四股を踏むかというと、通常は激しい稽古前や、稽古の最後に行うぶつかり稽古が終わった後に踏みます。

つまり、稽古前であれば四股を踏むことで股関節や筋肉を軟らかくし、全身の血液の循環をよくするウォーミングアップ効果が、稽古後であれば無理なく徐々に体を落ちつけていくクーリングダウンの効果があるといえるでしょう。

四股は、踏み方によっては非常に負荷の大きい筋力強化に有効なトレーニングになりますが、負荷を軽くして何百回でも踏めるようにも調節ができます。若い力士が、激しい稽古の後ふらふらの状態で、つい楽な四股を踏んでいると、親方から「もっときつい四股を踏むんだ!」と叱責される姿をよく見かけます。

このように四股は負荷を自由に変え行うことができます。これは四股が、子供や女性、お年寄りなどでも、ゆっくりした動作で無理なく安全に行えるエクササイズとして活用できる可能性を示しています。

実際、四股を踏むことで、特に「股関節」周りの筋肉やその柔軟性を無理なく鍛えることができるのです。股関節周りの筋肉は、姿勢の維持や、体の重心を安定させる大切な働きをしているのですが、肩凝りや腰痛、膝痛などは、股関節の周りの筋肉が衰えることによって起こるケースが少なくありません。

加齢などによって股関節の周りの筋肉が衰えると、うまく体の姿勢を支えることができなくなり、肩や腰、膝などに負担を掛けてしまうのです。股関節を鍛えられる四股は、それらの症状を防ぎ、改善する効果が見込めます。

また、全身を使って四股を踏むことで、体がほぐれ、全身の血行がよくなるので、特に女性に顕著な冷え症や、夏場の冷房などによる冷えを改善する効果も指摘されています。

ただし、力士が行っている四股は、一般の人がまねをしてみようとしても、腰を低くした状態から足が上がらない、バランスをとってゆっくりと足を上げることができない、きつくて何回もできない、といったことになるでしょう。そこで、四股を健康増進に取り入れるためには少し工夫が必要になります。

誰でも実践できる相撲のトレーニング法

ではここで、私が考案した、相撲の四股を取り入れた、誰もが実践できる簡単エクササイズをご紹介しましょう。

大切なのは、年齢や体の状態に合わせて四股の踏み方を変え、無理なく続けることです。

◆ステージⅠ
【体力に自信がない人】

①足を肩幅程度に開いてつま先を外に向け、120度ほど両膝を曲げます(基本の構え)。
②少しずつ、左足のほうに重心を移動させ、膝を伸ばしながら、右足を左足に引きつけて立ちあがり両足を揃えます。
③両膝を少しずつ曲げながら、右足を滑らせるように外側に移動させ、基本の構えに戻ります。
④今度は、少しずつ右足のほうに重心を移動させ、膝を伸ばしながら、左足を右足に引きつけて立ちあがり、両足を揃えます。
⑤両膝を少しずつ曲げながら、左足を滑らせるように外側に移動させながら、基本の構えに戻ります。

注意点は、上体が前かがみにならないように動くこと、特に立ちあがる時には腰を前に出すように意識してください。基本の構えの際に負担を感じる場合には、膝を曲げ過ぎないよう調整してください。①から⑤をゆっくりとした動きで、一日10回程度繰り返すとよいでしょう。

◆ステージⅡ
【一方の足を上げて、一秒程度、片足立ちが維持できる体力の人】

①足を肩幅程度に開いてつま先を外に向け、120度ほど両膝を曲げます(基本の構え)。
②少しずつ、左足のほうに重心を移動させ、膝を伸ばしながら、右足を左足に引きつけて立ちあがり両足を揃えます。
③バランスを保ちながら、ゆっくりと右足を右上にもち上げ、そのまま下におろして、両膝を少し曲げた基本の構えに戻ります。
④今度は、少しずつ右足のほうに重心を移動させ、膝を伸ばしながら、左足を右足に引きつけて立ちあがり、両足を揃えます。
⑤バランスを保ちながら、ゆっくりと左足を左上にもち上げ、そのまま下におろして、両膝を少し曲げた基本の構えに戻ります。

注意点は、上体が前かがみにならないように動くこと、特に立ちあがる時には腰を前に出すように意識してください。基本の構えの際に負担を感じる場合には、膝を曲げ過ぎないよう調整し、足が上がりにくい場合には、無理をせずステージⅠを行ってください。①から⑤をゆっくりと、一日10回程度繰り返します。

◆ステージⅢ
【運動する機会があり足腰の強さに自信がある人】

基本の構えを、より深く腰を下ろした構えにして、ステージⅡと同じ動作の順番で四股を踏んでください。なるべく膝関節の角度が90度になるまで深く腰を下ろすと効果的ですが、無理をせずできる範囲で腰を下ろしてください。

注意点は、深く腰を下ろした際に前かがみにならないように、腰を前に出すよう意識することです。

また、股関節や筋肉を無理なく鍛える相撲のトレーニング法としては「腰割」も有効です。やり方は次のとおりです。

◆腰割
①壁を向いて背筋を伸ばして立ち、肩幅以上に足を開きます。
②つま先を外側に向け、腰を膝の高さまでゆっくりと下ろします。
③背筋を真っすぐ伸ばしたまま、少しずつ膝を伸ばします。

注意点は、深く腰を下ろした際に前かがみにならないこと。そして、自分の体の状態に合わせて、最初は腰を下ろし過ぎず、慣れるにしたがって深く腰を下ろしてください。①から③を、一日10回を目安に行うとよいでしょう。

筑波大学の白木仁先生の研究では、30~50歳の運動経験がない男女8名を対象に、腰割を一日10回を目安に3か月実施してもらったところ、股関節が軟らかく、なめらかに動くようになり、それに伴い脚筋力、バランス能力および反復横跳びなどの運動機能が向上し、体重や体脂肪率が減少したという結果が出ました。

座りっぱなしで仕事をする人は股関節が硬くなりがちです。腰割はこうした硬くなった股関節を柔軟にする最適なエクササイズなのです。

(本記事は『致知』2016年7月号 連載「大自然と体心」から一部抜粋・編集したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載! 詳しくはこちら

◇桑森真介(くわもり・まさすけ)
昭和30年福井県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。56年筑波大学体育研究科修士課程修了、東京医科大学にて博士号取得。埼玉大学非常勤講師などを経て、明治大学教授。明治大学相撲部元コーチ。明治大学相撲部在籍中に全国学生相撲選手権大会個人2位・団体優勝メンバー。長年にわたり、相撲の体力学的、運動生理学的研究に従事。中学校武道必修化にあたり、(財)日本相撲連盟・中学校相撲授業指導法研究委員会座長として、指導の手引や視聴覚教材などの作成にも携わった。

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