2020年03月21日
没後約30年を迎えるいまなお多くの人々の心を励まし、癒やし続けている書家・詩人 相田みつを。その作品の魅力と私たちが学ぶべきことについて、相田みつをとご縁の深い、足利大学理事長・牛山泉さん、高福寺住職・武井全補さん、相田みつを美術館館長・相田一人さんに語り合っていただきました。
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本物、本気、真実
〈武井〉
相田みつをさんの言葉や作品で、私が特にいいなと思っているのは本気、本腰、本物、あるいは本願といった「本」のつくものですね。それと、「自分が自分にならないで/だれが自分になる」「真実/眞実だけが/魂を打つ」という作品も好きです。そうした作品に接したことで、私は改めて本気で仏教を勉強し直しました。
というのも、道元禅師に「仏道をならふといふは、自己をならふ也。自己をならふというは、自己をわするゝなり……」という言葉がありまして、相田みつをさんの作品と通じるものを感じたんです。それに、いまの日本は役所から企業まで本当に嘘が多いと言いますか、社会全体が偽善的になっているような気がします。私は日本の将来を心から憂えますね。
ですから、相田みつをさんが求めた「本物」や「本気」、「真実」の生き方、虚飾や偽善でなく本当の自分らしさを求めていく姿勢が現代人には必要だと思います。
(相田)
父は(生涯の師である)哲應老師から学んだこととして、「書を書く以前に、自分が充実していないとしょうがないんだ」と言っていました。書には人間のすべてが出る。だから書を書く時だけ一所懸命になってもだめで、普段の生き方そのものが充実していなければならないと。
(牛山)
本当にその通りで、自分自身に嘘をつかない、何事にも本気・本腰になって向き合うことで初めて、自らの夢や目標、意志は実現していくと思います。
私はガスタービンの研究で学位論文を書いたんですが、1970年代にオイル・ショックが起こって、石油などの天然資源は無限ではない、有限であることを思い知らされましてね。いつまでも大量の石油を使う分野の研究をしていてはだめだと、アメリカのマサチューセッツ工科大学に渡り、我われの世界では神様のような存在だったデービット・ウィルソンという先生の研究室に短期間滞在しました。
そして先生といろいろ議論をしていく中で、「自分もあなたと同じことを考えている。まだ日本では誰もやっていないかもしれないけど、あなたは日本で再生可能エネルギー、特に風力発電の研究をやりなさい」と言われたんです。
(相田)
それから風力発電、再生可能エネルギーの道に進まれた。
(牛山)
ただ、日本で風車をつくっても、台風が来て飛ばされちゃうでしょう? 600年前から風車をつくっていたオランダなどのヨーロッパと違い、日本には風車、風力発電の歴史や文化がほとんどありませんでした。本学で日本風力エネルギー学会を立ち上げて研究を始めても、最初はほとんど相手にされませんでしたね。
それでも、相田みつをさんの本気、本腰、本物、「自分が自分にならないで/だれが自分になる」の気概で、コツコツ、コツコツ、一所懸命に風力発電の研究・開発を続けていると、次第に共感してくださる方も増え、「WREC国際再生エネルギー会議パイオニア賞」など様々な賞をいただくことができたんです。
毎年6月末に本学で開催する風力エネルギーセミナーには、いまでは毎年日本中から300人近くの方が集まってくださって、日本で最も大きな風力発電の会になっています。やはり自分の道を定めて一所懸命に努力していれば、必ず周りに人が集まってくるというのが実感です。
ですから、いま学生たちにも「自分に与えられたことにとにかく全力を尽くしなさい。必ず見ている人はいるし、よい師との出逢いもやってくるよ」と伝えています。
(本記事は『致知』2020年3月号「意志あるところ道はひらく」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら)
◇牛山泉(うしやま・いずみ)
昭和17年長野県生まれ。46年上智大学大学院理工学研究科博士課程修了。48年工学博士。足利工業大学(現・足利大学)講師、助教授を経て60年より教授。平成10年同大学総合研究センター・センター長。20年より2期8年学長を務める。26年より現職。WREC国際再生エネルギー会議パイオニア賞および功労賞、日本機械学会畠山賞、文部科学大臣賞など受賞多数。
◇武井全補(たけい・ぜんぽ)
昭和24年栃木県生まれ。47年秋田大学鉱山学部卒。同年渡欧し、北欧にて空手道を指導。53年帰国、曹洞宗大本山總持寺に掛搭。現在高福寺住職。足利大学理事。
◇相田一人(あいだ・かずひと)
昭和30年栃木県生まれ。書家・詩人 相田みつをの長男。出版社勤務を経て、平成8年東京に相田みつを美術館を設立、館長に就任。相田みつをの作品集の編集、普及に携わる。著書に『相田みつを 肩書きのない人生』(文化出版局)などがある。