2022年02月11日
本日2月11日は「建国記念の日」。「建国をしのび、国を愛する心を養う日」として、1966(昭和41)年に定められた、国民の祝日の一つです。憂国の士として知られた中條高徳さんと渡部昇一さん(共に故人)の二人に、『古事記』や『日本書紀』を学ぶ意義、日本人としての誇りをもって生きることの大切さを語り合っていただいたお話をお届けします。
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神話を学ぶ意義
(渡部)
ジェフリー・アーチャーの『ロスノフスキ家の娘』という小説があります。ポーランド出身の男がアメリカへ渡り、知恵と能力を発揮してホテル王になるのですが、このホテル王にはフロレンティナという変な名前の娘がいます。このフロレンティナは学校へ行くと、ダム・ポーラック(ばかなポーランド人)とバカにされるんですね。アメリカでは「ポーランド人はバカだ」と思われていたんです。
そこでホテル王は、娘にすばらしい家庭教師をつけてやろうと考えた。家庭教師の本場といえばなんといってもイギリスですから、イギリスの名門女子学校の立派な校長先生を超高額で呼んで家庭教師にするんです。
そのイギリスの女性家庭教師の指導で成績は上がるのですが、クラスの中ではやはり相手にされない。そのときに家庭教師が父親のホテル王にいうんです。
「ポーランドの歴史を教えなさい。ただ、これはあなたが教えてください。自分の国の誇りを、自分の民族の誇りを、他の国の人が教えるわけにいきません」と。
そういわれたホテル王はポーランドの歴史を娘に教えていきます。すると自国の歴史を知ったフロレンティナはプライドを持つようになって、バカにしたアメリカ人に「あなたの国なんか、たった200年にも足りない。ポーランドには……」といってポーランドの歴史を滔々とぶって尊敬されるようになるんです。
この話からわかるのは、やはり自分の国の誇りがなければダメだということです。そして「それは外人が教えるわけにはいかない」といったイギリス人の女性教師の見識ですね。
(中條)
それに準じた話ですが、中南米にホンジュラスという国があります。あそこはかつてマヤ文化が栄えていましたが、スペインに侵略されました。今は独立をして、海の美しさを象徴するブルーを国旗にしているのですが、特筆すべきは国歌なんです。七小節からできているらしいのですが、歴史を国家に歌い込んである。これを理解しないと学校で進級できないというのです。
このことを教えてくれたのは山口出身で青年協力隊としてホンジュラスに行った男性です。彼は現地の娘と恋愛をして結婚したのですが、私の『おじいちゃん戦争のことを教えて』の愛読者なんです(笑)。
彼の話によると、その伴侶となった女性のお母さんは娘に「あなたは日本人なのですから、日本の歴史をきちんと勉強しないといけませんよ」と教えたそうです。
こんな話を聞くと、私は感動するんだね。それに比べると日本は政治家でも日本の建国の歴史を知らない人が多い。嘆かわしいことだと思う。
(渡部)
日本人が建国の歴史を知らないのは、占領軍が日本の神話を否定しようとしたこととも関係しているでしょう。歴史には絶対に神話を関与させなかった。
もちろん神話ですから、その通りの歴史的事件があったとは誰も思いませんよ。しかし、日本は神話から成り立っている国ですからね。そういう神話を自分たちの先祖の話として伝えてきた国なのですから、これは無視するわけにはいかない。
ところが戦後教育では『古事記』『日本書紀』といったものを全部省いてしまいました。その代わりに何が入ってきたかというと、石ころを見る考古学が入った。考古学が悪いわけじゃないけれど、考古学では歴史の代わりにはならないのですよ。
私はよく夏目漱石の家に入った泥棒の話を例に挙げるのですが、当時は泥棒が入って逃げていくとき、そこのうちの庭にうんちをすると捕まらないというジンクスがあったというんです(笑)。
(中條)
へえー(笑)。
(渡部)
それであるとき、漱石の家に泥棒が入った。庭を見ると、案の定うんちがしてあった。すると、庭にある足跡のくぼみから泥棒の歩幅とか足の大きさ、体重がわかり、うんちを分析すれば、ゆうべ何を食べたか、その人間の生活水準がわかるわけです。それはそれで意味がある。
ところが、もし……ということで、ここからは私の付け足しですが、その泥棒の手帳が落ちていたらどうだろうか、ということなんです。その手帳には、今まで盗みに入った家はどこで、これからこの家に入る予定だと書いてあったり、あるいは、泥棒に俳句の心得があって何句か書いてあったりすると、がぜん泥棒像が変わってくるんですよ。その泥棒が頭の中で考えていることまでわかってくるのです。
(中條)
なるほど。
(渡部)
要するに、考古学というのは、うんちであり、足跡なんですよ。『古事記』『日本書紀』というのは手帳なんです。
もう一つ例を挙げれば、『旧約聖書』がなければパレスチナのあたりの歴史は何もわからなかったはずです。いくら土を掘り返したところで、ユダヤ人の歴史がわかるわけではないでしょう。
だから、『古事記』や『日本書紀』は神話ではあるけれど、その国の歴史を知るためには一応知っておくべきものなのです。それをどう解釈するかは考古学の発見とすり合わせて考えてもいいでしょう。しかし、日本の戦後教育は神話を教えるのをやめて考古学だけにしてしまった。だから、とくにその成り立ちの部分で、こじつけになってしまっている場合が多いんですよ。
男系相続だからこそ系統が途絶えなかった
(渡部)
最近、イギリスの歴史家トーマス・マコーレーの本を読んでいて「へえ」と思うことがありました。彼はこういうんです。議会というのはイギリスで始まり、諸国がまねしたことになっています。でも、「中世にはフランスにもスペインにもスウェーデンにも、みんなちゃんとした議会があった。ところが、一つひとつ駄目になってしまってイギリスだけが残った。そして、残ったイギリスの議会がよかったから、また他の国がまねをしはじめたのだ」と。
そうすると、神話から続く王朝が日本だけ残ったというのは、非常に意義深いと思うのです。マコーレーは「イギリスに議会が残ったのは島国だから」といっていますが、日本も恐らく島国だから残ったんですね。
そして、残った原因は明らかに男系相続だからです。このごろ「天照大神は女神だから、日本の天皇は男系でなくてもいい」という人がいますが、それは誤りなんです。
『古事記』『日本書紀』をちゃんと読めば、オオヒルメノミコト(アマテラスオオミカミの別名)の配偶者はスサノオノミコトだとわかります。そして、この2人の間から男の神様が5人、女の神様が3人生まれた。
ところが、そのうち2人の仲がまずくなって、スサノオノミコトが高天原から追われる。このスサノオノミコトに属したのが女の子3人、オオヒルメノミコトに残されたのが男の子5人なんですよ。
このごたごたのためにオオヒルメノミコトは、今でいえば、うつ病になって隠れてしまう。隠れられて困ったものだから、他の神様たちが神楽をやって出てきてもらった。このオオヒルメノミコトが、アマテラスオオミカミと後にいわれるようになるのです。
オオヒルメノミコトの五人の男の神様の長男はマサカアカツカチハヤビアメノオシホミミノミコトといいます。この長男の配偶者はタカギノカミ(タカミムスビ)の娘です。タカギノカミ(高木神)は木の神様ですね。ここから生まれたのがニニギノミコトです。
ニニギノミコトは、皇祖ニニギノミコトですよ。このニニギノミコトが天孫降臨で日向国にやってくる。だから実際の日本の神話の最初に登場する神はニニギノミコトですね。この配偶者はコノハナサクヤヒメノミコトです。これは当時北九州を支配したオオヤマツミ(大山津見神)の娘という意味に解釈していいでしょう。
ここから生まれたのが山彦、海彦ですが、山彦のほうが跡を継ぎます。山彦命の奥方はトヨタマヒメノミコトです。これは海の神様の娘。そこから生まれたのがウガヤフキアエズノミコトで、この神様と結婚したのがタマヨリヒメです。そして、そこから生まれたのが神武天皇。
(中條)
そういうことですね。
(渡部)
つまり神話の中でも男系が続いているんですよ。神武天皇以下は、疑いもなく全部、男系です。男系だから続いたんです。途中で女系に渡していたら、訳がわからなくなる恐れがあったと思います。
このように、『古事記』や『日本書紀』を教えると、皇室は神代から真っ直ぐ続いていることがわかる。それを中心として日本人はこの島に住んでいたから、皇室からいろんな家が分け出でた。源氏も平家もみんなルーツは皇室につながります。そうすると、日本人全員が親類になって、その総本家が皇室なんだというふうな見方ができるわけです。
このように日本の本質は神代から絶えることのない系統を中心とした国であるということなんです。しかも、そういう形で残っている国は世界に1つもないということは、誇りになると思いますよ。
(中條)
これは子供たちにぜひ教えたいことです。
(本記事は弊社刊『子々孫々に語りつぎたい日本の歴史2』〈中條高徳&渡部昇一・共著〉から一部抜粋・編集したものです)
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◇中條高徳(なかじょう・たかのり)
昭和2年長野県生まれ。陸軍士官学校(60期生)を経て学習院大学卒業後、アサヒビールに入社。57年、「アサヒスーパードライ作戦」を展開し大成功を収める。63年、同社代表取締役副社長に就任。同社名誉顧問、「英霊にこたえる会」会長を歴任。平成26年12月逝去。
◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。平成29年4月逝去。著書多数。最新刊に『渡部昇一の少年日本史』(致知出版社)。