詩は私のいのちそのもの——脳性麻痺の詩人・堀江菜穂子さんはなぜ詩をつくるのか

脳性麻痺のため話すことも体を動かすことも思うようにできない堀江菜穂子さん。しかし、堀江さんはベッドに寝たきりの生活を送りながら、これまで筆談により数多くの詩を紡いできました。堀江さんはなぜ詩をつくり続けるのでしょうか。

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詩をつくるのは魂の解放のため

(堀江)

詩を書き始めるようになったのは、私と同じような障碍がありながら詩を書いている人がいることを知っていた自主スクールの先生の薦めによるものでした。私はパソコンの画面に一文字ずつ打ち込み、心の声のままに詩をつくりました。自分で驚いたのは、いくら文章で書いても分かってもらえなかったことが、詩にした途端、たちまち人に伝わるようになったことです。

「きたからのこえ」はその頃につくった詩の一篇です。

きたからのこえ

きたのそらからきこえている こえにむかって/わたしは さけぶ/すてきなくには どこにありますか/しっていたら おしえてください/つみぶかいめをした なきむしのすめるくには/どこにありますか/しっていたら おしえてください/くしんしているけど/このからだでは さがすことができません/きっといいくにが/どこかにあるとおもうのですが/きぼうのくには みつかりません/いいくには どこにありますか/きたのほうからきこえるこえに/わたしはたずねる/いつまでも

私は自分が言いたくても口にできないことを詩にしています。言いたいことはいつも心の中に残ったまま、岩のように固まって私の心を重くしています。その岩を砕いて言葉にしたものが詩です。詩を書くと、心に少しだけ隙間ができて、その隙間に首を突っ込んで必死に息をしている感じです。詩を書くと心が少しだけ柔らかくなって軽くなるのです。

私はテレビを見ながら「面白い」と感想を言おうとしても、それを話すことができません。朝起きて寒いと感じても、それを伝えることができません。「言いたくても言えないこと」とは、例えばそのようなことです。だから、詩は私にとって意思そのものなのです。自分の詩を誰かに読んでもらおうというようなことは全く考えていません。

思いはすべて自分の心の中のこと。私が詩に何か思いを込めているとするなら、それは私の魂の解放、苦しい自分から逃れることです。

たびだちのとき

たくさんのじぶんとたたかってきた/だいすきなじぶん/だいっきらいなじぶん/こどもみたいなじぶん/どれもじぶんであって じぶんではなかった/わたしというにんげんは/いったい どれがほんものなのだろう/じもんじとうのまいにちだった/いまわたしには こたえらしきものがみえてきた/それはじかんがおしえてくれた/いまこのときにおもうのは/けっきょく すべてはじぶんだったのだと/じぶんでじぶんをみとめてやったら/ボロボロとおとをたててくずれていった/じぶんがつくりあげていただけの じぶんじしん/ひとりぼっちになったわたしの/これが たびだちのとき

自分の意思を人に伝えることができない時、あまりの苦しさに私の心は音を立てて割れました。バラバラになった心は自分のものなのに、思春期の私にとってそれを認めるのはとても難しいことでした。時間が経って、その一つひとつを認められるようになった時、すべては自分だと気づいたのです。

(本記事は『致知』2020年1月号「自律自助」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生や仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇堀江菜穂子(ほりえ・なおこ)

平成6年茨城県生まれ。出産時のトラブルで重度の脳性麻痺を患う。東京都立特別支援学校中学部の頃に詩作を始める。詩集に『いきていてこそ』(サンマーク出版)。

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