「エアウィーヴ」「バーミキュラ」を大ヒットさせた笹木郁乃さんが語るPRへの思い

寝具の「エアウィーヴ」や鍋製品「バーミキュラ」などを大ヒットさせてきた、PRのプロ・笹木郁乃さん。平成28年に独立後も、PR塾やセミナーの主宰、中京テレビ、経済界など様々な分野のPRに携わっています。その笹木さんに、ご自身のご体験談と共に、PRを成功させる秘訣をお話しいただきました。

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PRで人も会社も幸せに

(――エアウィーヴではどのような仕事に取り組まれたのですか。)

〈笹木〉
入社後は、営業兼PR担当を任されて店舗を回ったり、売り子として店頭販売に携わりました。ただ、いくら頑張っても製品を買ってもらえず、物を売ることの大変さを痛感させられましたね。 

ところが、ふと隣の有名メーカーの販売コーナーを見ると、売り子が頑張っていないのに、「これテレビで見たやつだ」と、お客様が勝手に購入していくんですよ。

 それをきっかけに、営業が頑張るのも必要だけど、PRして製品の認知度を上げていくこともすごく大事なんじゃないかと思うようになって、そのことを社長に伝えたら、だからPRも頑張ってほしいと最初から言っていたんだよと。

 (――そうしてPRの世界に本格的に携わるようになったと。)

 〈笹木〉 
とはいえ、PRなんてやったことがないですから、社長に相談して、自分なりに工夫しながら形にしていきました。それこそ雑誌社の編集部に電話をしてアポを取り、「面白いマットレスをつくっているので、取り上げていただけませんか」と、ひたすら回るところから始まったんです。

 その中で、ある野球関係のスポーツ誌が取り上げてくださることになったのですが、私にとって初めての実績ですから、「PRってこういうふうにやっていけばいいのかな」と、ドミノ倒しの最初の小さな一個が倒れたという感じがして、すごく嬉しかったですね。

 (─自信がついたのですね。)

 〈笹木〉
ええ。それで勢いがついて、いろんな方にお会いし、相談していく中で、地元のニュース番組などを手掛ける制作会社の方を紹介してもらえたんです。で、実際にお会いしたら、製品に興味を持ってくれて、番組で取り上げていただけることになったんですね。

 この時に、一見無駄に思えることでも、諦めないで種を蒔き続ければ、最後に必ずどこかで花が咲くということを実感しました。

 (――実際にテレビで紹介されて反響などはいかがでしたか。)

 〈笹木〉
初めてテレビに出た時の反響には、ものすごいものがありました。それまで店頭に何時間も立って1枚のマットレスを売っていたのに、テレビに出た翌日にカスタマーセンターがパンクして1日で100枚くらい売れたんですよ。

 何より会社の皆がすごく喜んでくれて、社内に活気が出てきたんですね。それを見た私は、PRは結果が分かりやすいし、会社や製品の認知度が上がることで皆が幸せになれるんだと、PRの面白さにどんどんはまっていきました。

 (――PRの魅力、素晴らしさを実感していかれたわけですね。)

 〈笹木〉
2010年には新製品の記者発表会にも挑戦しました。会社としても大きな決断でしたが、結果的にメディアの方が100名くらい集まってくださり、テレビ出演に繋がったり、とても意義のある発表会になったんです。

 そのようなPRを地道に続けることで、当初1億円だった年間売り上げを、5年で115億円の急成長に貢献することができました。

 その後も、自分の経験を活かして企業の成長に貢献したいと、鍋メーカー「愛知ドビー」へ転職。PRを強化することでバーミキュラという鍋製品を12か月待ちの予約殺到商品に変えることに貢献し、2016年に独立したんです。

自分に対して素直に生きる

(――PRを成功させる上で特に大事なことは何だと思われますか。)

〈笹木〉 
PRは営業と違って物の売り買い、お金のやり取りがないので、紹介してくださる雑誌社やテレビ局の方に直接メリットはないんです。ですから、相手にメリットを感じてもらえる人にならないとだめだということは常に意識していて、人に会う時にも、相手の方が喜ぶ情報を持った情報屋さんでいようと、できる限り事前のリサーチをして臨んできました。

また、PRを成功させるためには、相手の方と一緒にいて楽しいと感じてもらい、〝仕事を超えた関係〟を築いたほうがよい気がします。お金のやり取りがない中で相手の心を動かすのは、やっぱり「笹木さんが言うなら」と思わせる人間同士の信頼関係が必要です。

(――PRは人間同士の心の通った信頼関係が大事だと。)

〈笹木〉 
あとプレスリリースも随分工夫してきました。普通のプレスリリースは、「いついつに新商品を発売します」のようなお知らせになりがちですが、大企業と同じような内容では効果はありません。

特に知名度のない中小企業では、お手紙風の文面にしたり、主語を「私」にして、「私はこういうことを知らせたい」といった思いを伝えたり、自社の取り組みが社会にとってどのような意義、意味があるのかという社会性を入れないと注目してもらえないんです。

(――まさに笹木さんが体験から得たPRの秘訣といえますね。)

〈笹木〉 
私の人生を振り返ってみると、転部や転職をしたり、自分の気持ちに素直に真っ直ぐ、とことん向き合ってきたことでいまがあるという気がしていますので、これからも、自分に素直に生きていくことは大事にしたいですね。

それから、従来のPRは、高いお金を出して専門会社に依頼するのが当たり前でしたが、本来PRって身近なもので、勉強すれば誰でもできることなんですね。そもそも、情熱を伝え相手の心を動かす必要があるので、自社愛がある社内でやるほうが絶対に効果が出やすいと思います。


(本記事は月刊『致知』2018年10月号「人生の法則」の記事から一部抜粋・編集したものです)

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◇笹木郁乃(ささき・いくの)
昭和58年宮城県生まれ。山形大学工学部機械システム工学科を首席で卒業し、自動車部品メーカー・アイシン精機入社。平成21年寝具メーカーのエアウィーヴに転職、独自のPR戦略で会社の急成長に貢献する。その後、鍋メーカーのPR戦略に携わり、28年に独立。現在はPR塾やセミナーの主宰、中京テレビ、経済界、サンマーク出版など多くの企業の企画・立案、PRプロデュースに携わっている。著書に『ゼロ円PR』(日経BP)がある。

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