タサン志麻さんが「伝説の家政婦」と呼ばれるまで

 

「予約の取れない伝説の家政婦」として、様々なメディアを賑わせているタサン志麻さん。もともとは、料理人になりたいとの夢を抱き、一流フランス料理店で働いていたタサンさん。タサンさんはなぜ家政婦となったのでしょうか。その原点ともいえるエピソードをお聞きしました。

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葛藤の日々

(タサン)

2軒目に働いたお店はシェフも料理も本当に大好きで、自分のお店のように思って10年間仕事をしていました。ただ、常に予約でいっぱいの人気店だったので非常に忙しく、勉強する時間がなかなか捻出できず、次第にストレスが溜まってしまったんです。

その時私は30代半ば。自分のお店を持ちたいとは思わなかったものの、同期の料理仲間が次々と独立していく中、一人取り残されたような虚無感に襲われました。

自分が本当にやりたいのはレストランの高級な料理ではない。フランスの家庭料理のような食事をつくりたい。日に日にその確信が強まるにつれ、シェフとの関係性もぎくしゃくするようになりました。それまで同志のように様々なことを共有してきたにも拘らず、仕事以外のことを一切話さなくなってしまったのです。そんな関係性が3年も続くと、遂に限界がきました。

(――ああ、限界が……。)

(タサン) 

自分の気持ちを正直にシェフに伝えようと心に決めたんですけど、たまたまその日、シェフが忙しくて伝えることができませんでした。すると私は短いメモを書き残して、自分の荷物と共にお店を後にしてしまったのです。「長い間お世話になりました」と。

これまで何人もの人が突然辞めて、大変な思いを経験してきたので、10年間も働いたお店でこんな辞め方をすれば、どれだけ迷惑が掛かるかはもちろん自覚していました。それでも、その場から逃げ出さずにはいられないほど、精神的に追い込まれていたのです……。

天職と出逢う

(――とても辛い状況でしたね。)

(タサン) 

最低なことをしたと思いますし、辞めたからといって特にやりたいこともありませんでした。

とりあえずフランスに行こうと思っていましたが、給料のすべてをフランスに関する勉強に費やしていたため貯金さえない状態。仕方がないのでお金を貯めるべく、フランス人がたくさん働いていた飲食店でアルバイトを始めたところ、15歳年下のフランス人の男性と意気投合し、結婚することになったのです。

年齢差があったため私も働く必要がありましたが、妊娠した時のことを考えると長時間立ち続ける飲食店の仕事は続けられません。料理の仕事ができてフランスに関する勉強もできる仕事と考えた時に思いついたのがベビーシッターでした。そしてインターネットで探している中で見つけたのが家事代行の仕事だったんです。

(――家政婦への転身に迷いはありませんでしたか?)

(タサン) 

家政婦の仕事を軽んじるつもりはありませんでしたが、やっぱりそれまでフレンチの世界で働いていた私がなぜ、家の掃除や雑用をするのだろうという葛藤があったのは事実です。でも、レストランで再び働くつもりがないので、とにかくいま自分にできることをして稼がなければという思いが勝っていました。

当初は料理だけで依頼してくれるお客様は少なかったんですけど、掃除など目の前のことを一所懸命にやっていると、次第にリピート客や料理だけで頼んでくださる方がどんどん増えてきたんです。

(――タサンさんの料理に対する思いが伝わったのでしょうね。)

(タサン) 

私が家政婦としてつくっていたのは高級フレンチではなく、どこの食卓にでも並ぶようなご飯です。しかし、忙しいお母さん方が料理をつくるストレスから解放されて、家族皆とリラックスして食事をしている様子を見たり、お客様から「久しぶりに家族と一緒にゆっくり食事を摂れました」なんて声が届くたびに、これが私が本当にやりたかった仕事だという確信を深めていきました。

そこには私が憧れていたフランスの家庭にある家族の温かさがあり、レストランで働いていた時には味わえなかった満足感や達成感があったのです。

(本記事は月刊『致知』2019年12月号「精進する」の記事から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇タサン志麻(たさん・しま)

辻調理師専門学校、同グループフランス校を卒業後、フランスの三ツ星レストラン「ジョルジュ・ブラン」での研修を修了。帰国後、日本の有名フランス料理店等で15年間働く。平成26年にフリーランスの家政婦として独立。各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び、〝予約が取れない伝説の家政婦〟と呼ばれるようになる。著書に『志麻さんのプレミアムな作りおき』『厨房から台所へ』(共にダイヤモンド社)など多数。

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