陶芸家・北川八郎が説く、運を高め「徳のレンガを積む」生き方

かつて2度にわたる40日以上の断食をやり遂げ、宇宙の叡智に触れたという陶芸家の北川八郎さん。防衛大学校を中退後、サラリーマンとなるも人生の真理を求めて退社、インドを放浪するなどして辿り着いた熊本県阿蘇郡で窯を持ったその半生はまさに波乱万丈です。壮絶な精神遍歴の末に〝人生繁栄の法則〟を掴まれた北川さんに、多くの先賢が口を揃える「徳」の大事さ、その積み重ね方について伺いました。

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会社を倒産させる経営者の3つの共通点

九州・阿蘇山中に工房を構え、陶芸に勤しむ私のもとに、不思議な縁で全国のいろいろなところから講演の依頼があります。

私はその話の中でよく、

「徳のレンガを積む人生が大切」

という話をします。小さいことでも良きことを積み重ねておくことで、その人の人生も周囲も豊かに、笑顔の多いものになっていくと知っているからです。

では、徳とは何でしょうか。現代人に分かりやすいように、私は、

「人を救う勇気を持つこと」
「人に悲しみや苦悩から脱出する勇気を与えることができること」

と説明しています。またさらに、徳の人とは、不満と怒りを人生から取り除いた人と言えましょう。

その現れ方は職種や役職によって様々です。例えば、経営者にとっての徳は、社員の生活と安らぎを保障し、能力を引き出し、いまの仕事が人々の幸せに役立っている喜びを感じさせることにあります。

反対に社員を消耗品のように使い捨てたり、悲しませたり、貶めたり、その上自分だけがいい思いをしたりというようでは、徳のある経営者とは言えず、その人はやがて失敗の縄にからめとられるという神のワナにはまるでしょう。

私は長年、多くの経営者に接し、会社を倒産させる経営者には三つの共通点があると気づきました。

 一つは限りなくお金が好きという点です。とても欲が深いのです。

 二つはあらゆる苦情・失敗を景気や銀行、部下の能力のせいにして責任転嫁してしまう。そして他人を責めてしまうことです。

 三つには見栄っ張りで自分の都合や所有欲を優先させて生きるという点です。

そういう人は往々にして「経営者が利益を追求するのは当然だ。快楽を楽しむことのどこが悪い」という考えに固執しています。そういう自己繁栄の考えで会社の舵取りをしている限り、大衆の心や時の流れが見えなくなり、時代の激しい波に流されてしまいます。

自分の利得や快楽のために使うお金を「死に金」といいます。「死に金」は戻ってこない資金です。人の喜びや救済のために使うお金を「生き金」といいます。「生き金」はまたいつか自分や会社や家庭に戻ってくるお金です。

徳のない経営者は「死に金」で自分の身を滅ぼし、徳のある経営者は「生き金」をたくさん使って、さらなる繁栄に繋げていくのです。

次に医者の場合の徳とは、人々の心身の病を癒やし、ただ患者に生きる勇気を与えること、教師であれば子供の本来持つ天分を見出し、引き出すことといえるでしょう。

最初から校長職を目指して教壇に立つ人もいますが、そういう人はいつの間にか目が生徒から離れ、出世に向いて人間が濁ってしまうものです。生徒の心は離れてゆくでしょう。まず人として立つことが最初になす徳と言えます。

サラリーマンに知ってほしい徳の話

会社員などサラリーマンにとって徳とは何でしょうか。その話に入る前に、最近私がふと感じたことを述べてみたいと思います。

昨年、若い経営者ら7人と一緒にアメリカを旅しました。日本を発つ前、私は3つのことを自分に課しました。

一つは不安を口にしない、二つには誰かが道に迷ったり失敗しても責めない、三つにはこの旅の苦も楽も楽しもう、風雨や車の故障やいろいろなことがあっても全部楽しんでしまおう、ということでした。そして、結果的にとても楽しい旅行になったのです。

実はこの3つはサラリーマン、特に経営幹部たちの大切な心得ではないかと思っています。

業績が落ちそうな時、「これからどうなるんだろう」と不安や怯えばかりを口にする経営者や上司に部下はついていこうとは思いません。「おまえのせいでこうなった」と自分のことは棚に上げて部下を咎めてばかりの上司もまた徳があるとはいえません。そういう人たちばかりの集団では、仕事が順調に回るはずがないのです。

私は人間の徳の大本にあるのは、「人を許す心」、「稀なるほど寛容な心」ではないかと思います。

しかし、そういう稀なるほど寛容な心は一朝一夕に培われるものではありません。何度も失敗し、苦しみ、反省を繰り返した後、あるいは病気やトラブルや中傷など諸々の試練を経た後、他人の痛みが心から分かるようになってこそ得られるのではないでしょうか。

釈尊のこういう詩があります。

 光に生まれて 闇に沈む者
 光に生まれて 光に入る者
 闇に生まれて 闇に沈む者
 闇に生まれて 光に入る者

私はこの中で「闇に生まれて 光に入る者」という一節に心惹かれます。様々な挫折を通してカネや地位や名誉で自分を汚す愚かさを知り、人に喜びと優しさを与える充実感を知るようになった人こそが本当に目覚めた人であり、徳のある人といえるのです。


(本記事は月刊『致知』2010年5月号 特集「精進の中に楽あり」より一部抜粋・編集したものです)

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◇北川八郎(きたがわ・はちろう)
昭和19年福岡県生まれ。防衛大学校中退後、カネボウ化粧品に入社。退社後失意のうちにインドを放浪し、59年阿蘇外輪山の小国郷に移住。作陶や農業を続ける一方、断食をとおして得た「繁栄の法則」を伝える講演活動、経営指導などを全国で展開。著書に『繁栄の法則』(その一、その二)』(致知出版社)『無敵の経営』(サンマーク出版)など。

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