「スキンシップ」が子どもの脳と心を育てる——山口創が語る最新科学が明らかにした子育のヒント

いま最新の科学によって子育ての方法が次々と見直されています。どうすればいまを力強く生き抜いていく子どもが育つのでしょうか。親子のスキンシップを通じて子どもの脳と心を育む方法を、身体心理学者で桜美林大学教授の山口創さんに語っていただきました。

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親子の触れ合いが子どもの人生の基礎を築く

(山口)

研究を続ける中で、次第に人と人とが直接的に接触する「タッチ」が、人の心や体の成長にどのような影響を与えるかに関心が移っていきました。そして人間が生まれて初めて触れ合うのは両親、特に母親であることから、親子関係に注目して様々なデータを集めていったところ、予想以上に次々と興味深い結果が得られたのです。 

例えば、幼児期に母親から添い寝などを通じて肌にたくさん触れられて育った子どもは、成長してからも情緒が安定しており、社交性が高く、他人を攻撃する傾向も低い。反対に母親とのスキンシップが少なかった子どもは、人間不信や自閉的傾向が高く、自尊感情も低いことなどが分かりました。 

それには、肌に触れた際に脳内に分泌される「オキシトシン」というホルモンが大きく関わっています。オキシトシンにはストレスへの反応を和らげたり、他人への信頼感を高めるといった様々な作用があるのですが、特に子育てにおいて重要なのは、親子の間に深い愛情の絆が生まれる「愛着の形成(アタッチメント)」です。

子どもがストレスや不安を感じた時に、親に抱き締めてもらうことで安心する、泣き止むということがよくあるかと思います。こうした肌の触れ合いによって、日頃からオキシトシンがたくさん分泌されている子どもは、次第に親のことを自分を絶対に守ってくれる安全基地として認識するようになり、親との安定した愛着関係を築いていくのです。 

この時期の触れ合いが不足し愛着の形成が不十分だと、後に親や他人に近づきたくても近づけないなど、人間関係に様々な問題が表れてくる傾向があります。

ただ、このオキシトシンの分泌量は、幼い時期にほぼ決まってきます。それは脳が最も発達する一歳前後に、オキシトシンをつくる脳内の細胞数なども決まってくるからです。

もちろん、それ以降のスキンシップにも効果はたくさんありますが、できれば最もオキシトシンが分泌される一歳前後までに意識して子どもと触れ合うことが大切です。この時期の親子の密な触れ合いが子どもの脳と心を育み、後の人生を支える「一生の宝」になっていくのです。

子育てには母親と父親、両方の関わりが必要

(山口)

特に戦前・戦後の日本では「男は仕事、女は家庭」といった考え方が一般的であり、育児は母親の役割だと考えられてきました。

しかし近年の研究で、母親のスキンシップと父親のそれとでは、子どもの脳と心に与える影響が異なることが明らかになってきました。

母親によるスキンシップには、子どものストレスを和らげたり、情緒を安定させたりする効果があります。その一方で、父親によるスキンシップでは、子どもの「社会性」などを育てる効果があるのです。これは、母親と父親の子どもへの関わり方の違いから来ていると考えられます。

母親は授乳やおむつ交換など子どもの日常の世話を通じたスキンシップが多いのですが、父親の場合は「高い高い」や「肩車」といった遊びを通じたスキンシップが多くなります。例えば「肩車」では、子どもは父親と同じ目線で世界を眺め、父親の体とともに同じ空間を移動するため、共感的に物事を把握する能力が育つのです。

母親が一人でいくらスキンシップを頑張っても、父親のそれが不足していれば子どもの社会性が十分に育たず、将来的に不登校や引きこもりに発展してしまう可能性もあります。子どもの成長のためには、母親と父親の両方のスキンシップをバランスよく行うことが大事なのです。 

いま、日本では育児に積極的な男性「イクメン」が注目されていますが、これは科学的にもよい傾向だといえるでしょう。


(本記事は『致知別冊「母」VOL.2』に掲載された対談より一部を抜粋・編集したものです)

 ◇山口創(やまぐち・はじめ)

昭和42年静岡県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。平成26年桜美林大学リベラルアーツ学群教授。臨床発達心理士。『幸せになる脳はだっこで育つ。』(廣済堂出版)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)などの著書がある。

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