2020年06月26日
「大人は自分の感情に責任を持とう」。そう語る島田妙子さんは、幼少期に6年間にもわたり壮絶な虐待を受けた経験をもとに、児童虐待防止の活動を行っています。子どもの救出だけでなく親の支援をも行う過程で学んだアンガーマネジメントの重要性について、お話しいただきました。
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誰もが加害者になる可能性がある
虐待する人(加害者)もされる人(被害者)も救いたい――。そんな思いで児童虐待防止の活動を始めて10年目に入ります。
私は7歳の時から兄2人とともに実母と継母から虐待を受けるようになり、3度も死にかけました。中学1年生の時には自ら命を絶とうとしたこともあります。幸い、1986年に中学2年生で児童養護施設に保護され、こうして今日まで歩むことができました。
最近、わが子を死なせてしまうという痛ましい事件が立て続けに起こっています。今年(2019年)1月、10歳だった栗原心愛ちゃん(千葉県野田市)が命を落としました。学校が実施した「いじめ調査アンケート」で自ら助けを求めていたにも拘らず、です。昨年3月には児童養護施設に一時期保護されたことのあった船戸結愛ちゃん(東京都目黒区)が、5歳で儚い生涯を終えました。
虐待をしてしまう親の支援にも力を入れている私としては、「彼女の親たちが私に出会っていれば……」とやるせない気持ちでいっぱいです。
残念ながら、モノが溢れて豊かになればなるほど、心の豊かさが失われてきた感がしてなりません。職場や地域コミュニティーではよい顔ができていても、仕事や家事の忙しさから一歩家の中に入ると、感情のコントロールができなくなってしまう。虐待とまでいかなくとも、イライラして家族に当たったこと、感情のままに怒ってしまったことは誰にでもあると思います。
心愛ちゃんの父親も、外では穏やかだったといいます。しかし、自分の感情を抑えることができずに、虐待という形で子どもに当たってしまいました。子どもであれば感情のまま行動しても許されるかもしれませんが、大人は自分の感情をコントロールできなければ取り返しのつかないことになります。子どもの命を奪ったり、逮捕されてからでは遅いのです。
私自身も虐待を受けていた過去があったため、子どもが生まれた時、「絶対優しいお母さんになる」と心に決めていました。にも拘わらず、子育てに介護が重なり、多忙ゆえに家族にきつく当たってしまったことが何度もあります。
自分が大人になり、母になって初めて、誰もが加害者になり得る恐ろしさを知りました。
「怒ってしまうのは、お母さんのせいじゃない」
人間である限り怒りが生ずるのは当たり前で、大事なことはどう対処するか。そう学んでから一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定のファシリテーターの資格を取り、アンガーマネジメントの指導に力を入れるようになりました。
アンガーマネジメントとは、1970年代にアメリカで生まれた怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングで、2011年頃から日本でも広まり始めました。
アンガーマネジメントを直訳すると「怒りの管理」になりますが、怒りを我慢したり抑え込むことではありません。私は「怒ることに後悔しないためのスキル」と表現していますが、怒った時に適切にその感情に対処し、自分の感情に責任を持てるようにするためのプログラムです。
では怒っている時に身体の中では何が起こっているのかというと、心拍数と血糖値を上昇させるアドレナリンというホルモンが大量分泌されることで、脳や身体が緊張し、興奮状態になっているのです。
特に女性の場合は、出産や育児などライフスタイルの変化によって精神の安定を司るセロトニンと呼ばれるホルモンが激減しやすいといわれています。その上、日常生活のストレスが加わることでアドレナリンまで付加されてしまうのですから、感情表現はどうしてもきつくなりがちです。子育ては思い通りにならないことのほうが多く、「怒りたくないのに怒鳴ってしまう」「一度怒り出したら止まらない」という悩みを抱えるお母さんが大勢いるのはそのためです。
そうしたお母さん方に、私はこう伝えています。
「怒ってしまうのは、皆さんのせいではありません。アドレナリンの仕業なんです」
この言葉を聞くと、多くのお母さんが安堵の涙を流します。
怒りと上手に付き合う方法
アンガーマネジメントは怒ることを禁止しているのではありません。アドレナリンの働きを知って怒りの感情と上手に付き合うことが大事です。
その代表的な対処法が「数を数えること」です。
アドレナリンは一気に分泌されるものの、長くても6秒経てば減少傾向に入るといわれています。イライラを感じたら、心の中で数字を数えてひと呼吸おいてみることが、最も早く効果が表れる方法です。
とはいえ、子育て中のお母さんの中には「いいえ!6秒では怒りは収まりません!」と感じる方もいると思います。そんな時の脳は、絶えずアドレナリンが出続けている状態。カチンと怒りがこみ上げてきた時にまず1回目のアドレナリンが出、そのあと舌打ちや机を叩いたりすると立て続けに2度目のアドレナリンが分泌されます。さらに大きな声で怒鳴ることで3度目が加わる……。このように、常にアドレナリンが出続けているために怒りが静まらないのです。
アドレナリンを上手にやり過ごす方法としては、「深呼吸」がお勧めです。呼吸を整えて自分を落ち着かせたら、感情的に怒りをぶつけずに済み、相手に対してより適切な言葉を掛けられるようになります。
また、気分転換に入浴したり、一旦その場を離れてみるだけでも気分を落ち着かせることができ、本当に怒るべき問題かどうかを冷静に判断できるようになるでしょう。
(本記事は『致知別冊「母」』(致知編集部・編)から一部抜粋・編集したものです)
島田妙子(しまだ・たえこ)
昭和47年兵庫県生まれ。4歳の頃、両親の離婚で兄二人と児童養護施設に入所。7歳の時に父の再婚で家庭に復帰したが、継母と実父による壮絶な虐待が始まり、3度も命を落としかけ、中学1年生の頃には自殺未遂も経験。中学2年生で虐待が発覚し、養護施設へ。中学卒業後は独立し、住み込みで働く。平成22年次兄が白血病で亡くなると、次兄の思いを引き継ぎ、児童虐待防止への活動を開始。著書に自伝の『e love smile1・2』と『虐待の淵を生き抜いて』(朝日新聞出版)がある。
島田先生のインタビューも掲載!『致知別冊「母」』
お母さんのためのアンガーマネジメント
ついに書籍化!
「明日こそは子供を怒らない!」そう決めたはずなのに、いざ子供と向き合うとどんどんイライラ。最初は優しく注意していたのに、ついにはドッカーン!そしてまた、寝顔を見ながら後悔する……。
お子様をお持ちの方なら、一度は経験があるのではないのでしょうか。
自身も3児の育児を経験し、日本アンガーマネジメント協会認定
叱り方トレーナーとして多くの母親を救ってきた著者は「怒ってしまうのは性格のせいではない」と断言します。
本書では、怒りの要因を明らかにすると共に、6秒ルールや深呼吸など、
怒りのホルモン「アドレナリン」をやりすごすための10のトレーニング、
怒る時の7つの注意点といった具体的な怒り方も紹介。
何度注意してもやめてくれない、決めたルールを守らない、
口答えばかりで腹が立つ……。
日常の「イラッ」とくるシーンにいかに対処するかも、漫画つきで解説されています。
アンガーマネジメントとは、「怒らないようになる」のではなく、「怒りと上手に付き合うためのトレーニング」だと著者は言います。本書には怒りから自分を解放するヒントが詰まっています。