東京オリンピックでいまこそ問われる「おもてなし」の心(掃除の神様・鍵山秀三郎)

新型コロナウイルスの影響で開催が延期となった東京オリンピック・パラリンピックがいよいよ開幕します。2013年のIOC総会で日本での開催招致の鍵になった日本人の「おもてなし」の心を、私たちはどのように表していったらよいのか――。イエローハット創業者で「日本を美しくする会」相談役、掃除の神様・鍵山秀三郎さんのお話は、困難な日々の中で忘れかけていた、コロナ以前・以後に関わらず大切なことを思い出させてくれます。(内容は2014年当時のものです)

◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
 ※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

東京五輪は日本を変える好機

ソチ冬季五輪で活躍した選手の姿にただ頭の下がる思いがしました。それは日本の選手に限らず、また入賞した、しないにかかわらず、この日のために永い間刻苦精励(こっくせいれい)を続けてきた姿に、等しく同じ思いを抱きました。

日本の選手に限っていえば、スポーツの世界では高齢の域にある葛西(紀明)選手、史上最年少の平野(歩夢)選手、取り組んだ種目や年齢の違いはあっても、〝一所懸命〟という美しい姿に差はなかったと思いました。

明るいニュースが少ないいまの世の中にあって、世界の人々の心を明るく爽やかにしてくれた大会でした。世界中の注目を浴びた選手たちが、舞台に登場する日のために、何年もの間厳しい練習を積み重ねてきたことに敬意を表します。

この日、偶然出場した選手は一人もおらず、皆大変な努力をした人ばかりでした。

東京五輪を招致する主題に〝おもてなし〟が取り上げられました。日本が古(いにしえ)から培ってきた文化であり、世界に誇れる伝統を主軸に据えたことはよかったと思います。

しかし〝おもてなし〟という5文字には、とても深くて重い意味が込められています。無限とも言えるほど、たくさんの意味があり、文字や言葉に表すことは簡単でも、広く行き届かせることは容易ではありません。

絵を描こうとして、キャンバスの前に立って筆を持つと描くのが難しいのと同じです。こうしたことから言葉どおりのことが、果たしてできるのかと危惧しております。

それは、いまの日本の姿を見ると〝おもてなし〟とは程遠いと思うことが多いからです。

〝おもてなし〟の第一歩は、美しい心の人が暮らす美しい街であると思います。それなのに日本の道路にはゴミが散乱し、植栽は本来の植木が何であるのかさえ分からないほど草が生い繁っています。特に夏は草が植栽を覆い尽くして、見苦しい姿を晒している様子はご承知のとおりです。

五輪で来日する人たちが大勢通ると思われる羽田空港と都心を結ぶ国道357号線は、見るに堪えないほど汚れた道路になり果てています。

さらにもう一つの〝美しい心〟となりますと、〝おもてなし〟に反する人が多くなりました。こちらのほうは街を汚しているゴミ以上に、人の心を汚し不快な思いをさせています。

限られた道中で行き交う時に、全く譲らないで自分の持ち物や体をぶつけていく人、乗物の乗り降りで、前の人を突きとばすようにして先を争う人が多くなる一方です。

もちろんそうした人ばかりではなくて、美しい所作や〝しぐさ〟の備わった人もおられます。ただ、そのような人が少なくなっているのが事実です。

開催国としてのマナーと約束

東京五輪に向けて、出場を目指す選手たちは、既に厳しい練習に励んでいることでしょう。その人たちに私たちは大いなる期待を抱いております。

しかし五輪は、選手の活躍に感動したり期待するだけではいけないと思います。

五輪を招致して歓喜した国民にも、選手と等しく責任があります。それは開催国に相応しいマナーを身につけて、招致の条件として約束した〝おもてなし〟を果たすことです。

このようなことは、五輪の年になってから急にできることではありません。

五輪に出場する選手が、1年や2年の練習をしただけでは間に合わないのと同じで、日本が自信をもって〝おもてなし〟の態勢を創り上げるためには、選手の練習と同じようにいまから、美しい街づくりに取り組んでいかなければ間に合わないと思います。

こうした国を挙げての努力が、はっきりとした形になって現れてこそ、選手の人たちも自信と誇りをもって練習に打ち込むことができると確信します。

東京五輪は〝おもてなし〟を高く掲げた日本が約束を守り、果たしたことを証明する場でもあります。獲得したメダルに熱狂歓喜するだけに止まらず、日本の国土をきれいにするという行いをもって、選手への応援歌にいたしましょう。

(本記事は『致知』2014年6月号「巻頭の言葉」を再編集したものです)

◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

◇鍵山秀三郎(かぎやま・ひでさぶろう)
昭和8年東京生まれ。27年疎開先の岐阜県立東濃高等学校卒業。28年デトロイト商会入社。36年ローヤルを創業し社長に就任。平成9年社名をイエローハットに変更。10年同社相談役となり、22年退職。創業以来続けている掃除に多くの人が共鳴し、近年は掃除運動が国内外に広がっている。著書に『凡事徹底』『あとからくる君たちへ伝えたいこと』『鍵山秀三郎 人生をひらく100の金言続・凡事徹底(いずれも致知出版社)がある。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる