石坂産業・石坂典子社長が一日も欠かさない、会社を変革するある業務とは??

 

1999年、テレビのダイオキシン報道で矢面に立たされた埼玉県の石坂産業。しかし、以後、「脱産廃屋」を掲げ、掃除教育を軸とする様々な改革の道を一貫して歩み、いま大きな注目を浴びています。その改革の要諦、経営の神髄を石坂産業社長の石坂典子さんと、日本そうじ協会理事長・今村暁さんに語り合っていただきました。

社員の意識をどう変えるか

 

(今村) 

お聞きしたところでは、石坂さんが12年前に社長を継いだ頃は、そこら中に成人誌が落ちていたり部屋にヌードポスターが貼ってあるような職場だったとか。

(石坂) 

ええ。仕事中にたばこは吸う、ヘルメットは被らない、突っかけで仕事をする、2日酔いのまま出勤するという社員がたくさんいました。ただ、それは戦後からの、安全衛生面での配慮があまりなかった時代の名残で、それはそれでいい部分もあったのだと思うんです。しかし、それをそのままにしておいては、産廃屋というイメージをいつまでも払拭できないのも確かでした。

(今村) 

社員教育をどのように進めたか、というお話もお聞かせください。

(石坂) 

ダイオキシン問題が叫ばれた後、環境省が環境元年ということを言い出しました。その一環として企業に対してISO14001(環境マネジメントシステムに関する国際規格群)の取得を呼びかけたんです。私は「これだ」と思いました。そこで早速、父にそのことを伝えると「うちの社員に取れるわけがないだろう。第一活字なんか読まねえぞ。社員たちにそういう規格事項をどうやって分からせる気なんだ」と。実際、年配の男性コンサルタントの先生に来ていただいて試行的に講義をしてもらったところ、社員のほとんどが寝ていましたからね。

このままではISOは無理だと思いましたから、今度は有名な若い女性講師に「うちの教育は漫画でやってください」とお願いしたんです。そうしたら社内がちょっといいムードになりましたので、ある時私が朝礼で「皆でISOを取ろう。ただのISO14001だけじゃ面白くないから環境と品質と労働安全と三本統合マネジメントシステムを取ろう」と呼びかけました。

(今村) 

皆さんの反応はどうでしたか?

(石坂) 

私は皆が賛同してくれると思って言ったんですが、駄目でしたね。「やってらんねえよ」と資料を叩きつけて帰る社員が続出したんです。結果的に約4割の社員が改革についていけずに辞めていきました。だけど私もこのままじゃ会社は生き残っていけないという危機感があったものですから、辞めたきゃ辞めたら、という一種の開き直りで新しい社員を入れていったんです。

(今村) 

社員が4割もいなくなってしまったら、普通の経営者は慌てますが、ぶれることはありませんでしたか。

(石坂) 

それしか選択肢がなかったんですよ。ISOのほうも教科書どおりに基本方針をきちんと立てて実績をチェックしていって、最初の1年間で取得できました。

私は最初、ISOの「品質」を取得するのはすごく難しいと思っていたんですね。リサイクル品を再生する過程で高度な品質の製品を作る自信がなかったためですが、そのことを女性講師の先生に相談したら「品質ってね、〝会社の品質〟という捉え方もあるのよ」とアドバイスしてくださったんです。

「なるほど、だとしたら我が社でも品質は取れるな」と、その時、初めて不安が確信に変わって、まずは挨拶や整理整頓、掃除をしっかりすることからスタートしたわけです。

これだけは欠かさない

(今村) 

石坂さんがお話しされなかったことで、私が感心するお話をいくつかつけ加えさせていただくと、石坂さんはこの12年間、1日も欠かさず社内の「巡回指導報告書」というものをチェックされていますね。これもなかなかできないことだと思うんです。

(石坂) 

これは社員が社内を巡回し、気づいたことを書き入れるもので、日報とは別に提出を義務づけています。なぜそういうことを始めたのかというと、挨拶、整理整頓、掃除に取り組み始めて最初の5年間は私、毎日現場を歩いたんですね。ロッカーや引き出しを開けて、要らない雑誌などは捨てさせる。だけど社員は社長にばれないようにそっと隠す、それを叱って捨てさせる。その繰り返しでした。

だけど、そもそも隠す場所があるのがいけないわけでしょう。「いっそ見えるようにしてしまえ」というので、不要なロッカーや棚は取り払い「見える化」を図りました。そして、7、8人の幹部社員を毎日連れて社内を巡回し「ここを見るんだよ、こういうところが駄目なんだよ」とチェックするポイントを教えていったんです。そのポイントを30項目くらいにまとめて1日のどのタイミングでもいいからチェックして提出させるということをずっとやってきたわけです。

人事的な視点で見る社員もいれば、機械装置の安全という視点で見る社員もいて、普段分からないところに気づくことができる。私はそれを机上でチェックし、社としての改善策を考えていくわけです。これは掃除が社内に定着する上で大きな力を発揮しました。

(今村) 

今回のテーマ「長の一念」とも関係することですが、12年間1日も休んでいない、というのはトップであってもなかなか真似できないことです。僕が強く感動した1つはまさにこの部分でした。

それから、いま「見える化」とおっしゃいましたが、会社のプラントの中に見学者のための通路を造ったりされたのも画期的な取り組みだと思います。僕も実際に見ましたが、外にはカワセミが顔を覗かせる庭園風遊歩道、アスレチックなどがあって、まるでアミューズメントパークに来たようなワクワク感に包まれました。

(石坂) 

それだけで2億円かかりました。でも、造るだけの意味はあったと思います。第1に多くの見学者が来られることで、その方々の産廃業というものに対するイメージを大きく転換することができました。またそのことで社員の意識が大きく高まりましたから。

最近では会社の一帯の広大な農地をお借りし、「石坂ファーム」と名づけた農業も行っています。「地産地消」を合言葉に、昔の循環型農法の中島式といわれるもので地元野菜の生産から里いもパウンドケーキなどの加工販売まで6次産業化の取り組みを開始しました。

(本記事は月刊『致知』2014年6月号「長の一念」から一部抜粋・編集したものです。各界一流の方々のご体験談や珠玉の名言を多数紹介。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

石坂典子(いしざか・のりこ) 

昭和47年東京都生まれ。高校卒業後にネイルアーティストと語学を学びに米国に留学。石坂産業入社後は事務や営業の仕事を経て平成14年父の後を継いで社長に就任。「脱産廃屋」を掲げリサイクルメーカーを目指して社内外で様々な改革を実践。24年「くぬぎの森」里地里山プロジェクトがJHEP認証における日本の最高ランクAAAに認定。26年日本そうじ協会の掃除大賞を受賞。

今村暁(いまむら・さとる)

昭和46年神奈川県生まれ。北海道大学法学部卒業後、日本長期信用銀行を経て独立。感性教育や習慣教育の研究と実践を続け、自らも人材育成をテーマにした会社を経営。コンサルティングなどを行う。平成23年日本そうじ協会を設立。著書に、『10秒 朝そうじの習慣』(ワニブックス)『習慣力』(角川出版)『親が子どもに教える一番大切なこと』(三笠書房)など。

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