2019年06月22日
京セラ名誉会長・稲盛和夫氏を囲む勉強会「盛和塾」の立ち上げに携わり、氏の教えを経営、人生に生かしてきたフェリシモ社長の矢崎勝彦さんとファミリーイナダ社長の稲田二千武さん。稲盛氏の教えの神髄を引き継ぐお2人に、そこから培った経営、人生信条を語り合っていただきました。
好評記事、『稲盛和夫が即答した「人生で一番大事なもの」』はこちら
【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】
2022年8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。
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稲盛哲学を人生・仕事に生かす
(矢﨑)
私は「盛和塾」での20年の学びを通じて、まさに稲盛哲学を実心・実学してきたなという思いがあります。塾長の一言一句を金科玉条にしていくという学び方もあると思いますが、私はその言葉の持っているより本質的な意味を、自分の良心と重ね合わせて判断や行動の基準にするという学びをずっとやってきたつもりです。
その中で実感するのは、塾長のおっしゃることはいつも方向性がはっきりしていてぶれないということです。私自身も、良心に忠実に従っている時は、判断、行動基準が一貫したものになるということを、この20数年の学びの中で強く実感しています。やはりトップ自らが良心を意識して方向づけをしていくことが非常に大事なことだと、いま振り返って改めて感じています。
(稲田)
私が最も影響を受けたのは、塾長の「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉ですが、やはり塾長がその真摯な問いかけを、ぶれることなく一貫して自身に投げかけ続けておられる姿勢に感動を覚えます。
人はこうあるべきだとか、正しく生きるべきだという思いを持っていても、それを血肉にした哲学にしているか、経営の芯として貫いているかというと、お恥ずかしい話ですが、私はなかなかできていなかったと思います。
例えば税務の問題でも、業界の陋習でも、みんながやっているから多少いいじゃないかということがありがちじゃないですか。だけどそれは違うと。やっぱり貫くべきものは貫かなければならないし、過去のしがらみに流されて妥協してはならないと。
最初はショックでしたね。本当にそんなきれいごとでいけるのだろうかと。しかし、20年以上実践を続けてきて、やっぱり正しいな、貫けるなという確信を持てるようになりましたから、いまでは迷いがなくなりました。
(矢﨑)
私はもともと音響メーカーに勤めていたんですが、父が会社を起こす時に一緒に経営に携わるように言われて、23歳の時に定款づくりを一からやりました。
創業前、父はカネボウに勤めていて、従業員が自社のつくる繊維が最終的にどういう商品になっているのか、どこで買えるのかを知らないことに着目して、個人で商売を始めていたんです。
ところが父の判断というのが、日によってあっちこっちにぶれることがあるんです。父にしてみれば、その時の情勢に応じてやっているわけですが、私からすると、首尾一貫していないことがずっと気になっていたわけです。
それで、15年後の38歳の時に父からバトンを受けて社長になった時には、輝ける未来を展望できる流通のあり方を追求していこうと考えたんです。そこでそれまでメーカー寄りだった経営姿勢を180度逆転させ、生活者寄りに切り替えて、「100万人の固定客づくり」を目標に掲げたんです。
100万個の商品を売るにはヒット商品をドンドンつくればいいので、それはだんだんできてきたんですが、ずっとヒット商品をつくり続ける構造をつくらなければなりません。しかし100万人の固定客を持てば、1つのヒット商品に頼らなくてもいろんな商品を扱っていけるはずだと考えたんです。
それで、当時19万8000人だった固定客数を、5年で100万人まで持っていこうと目標を掲げて、4年11か月で達成しました。
(稲田)
それはすごいことですね。
(矢﨑)
塾長からはよく目標を立てることの大切さを説かれますが、明確な目標を掲げてチャレンジしたことが功を奏しました。
ところがそれを達成した後に、理念の大切さというのに気づかされたんです。論理は決めた枠組みの中で展開するもので、やっぱりその枠組みとなる理念が大事だと。
神髄は「誰にも負けない努力」
(稲田)
私が稲盛哲学から学んだ人生信條を整理したいと思います。
まず塾長から1番初めに学んだ「動機善なりや、私心なかりしか」ですが、私はもともとやんちゃで正義感が強く、商売でもどんな戦いでも、後ろから突いてはならない、正面から戦うという信條を持っていましたが、どんな小さなことであっても「動機善なりや」と自分に問うということ。
例えば社員1人を動かすにしても、「動機善なりや」と思うとなかなか難しいことなんです。利己的な本能は無意識のうちに働くので、それを理性でコントロールするというのは半端な気持ちではできない。「動機善なりや、私心なかりしか」というのは、そういう御しがたい自分を制御するために自分の中で反芻しなければなりません。
それから、「考え方」というのが稲盛哲学の中では常に出てきますね。その「考え方」のベースは心、愛です。「正しく」ということもよくおっしゃるけれども、その前提になっているのは人間愛です。その愛そのものが原点になった考え方、それが生き方、ビジネスの仕方をすべて左右するということを心得ておかなければなりません。
次は「努力」。稲盛哲学の努力というのは、すさまじい、誰にも負けない努力であって、これこそ稲盛哲学の神髄だと思うんです。誰にも負けない努力を続けて、ついに限界まで達した時、神からの言霊が降りてくると。ひらめきと捉えるのが普通ですが、そうじゃない、それは神からのささやきなんだと。しかしそのささやきを聞ける域に達するためには、普通の努力では無理だということです。
そして「パーフェクト」ということ。塾長と食事をご一緒させていただくと、米粒1つ残さず隅から隅までお食べになる(笑)。ビジネスの仕方も同じで、やっぱり徹底しておられます。組織が大きくなればなるほど難しいことですが、常にパーフェクトを目指して経営していくということ。自分の生き方についても、まだ問題はないか、ここに問題があるんじゃないかと、問題の芽を全部潰していく。
稲盛塾長という方はそういう自分との戦いに打ち克つものすごく強い意志を持っておられるのだと思います。信念と哲学によって己の弱さを見事に制覇されている。その姿勢を私も学んで、自ら実践していくことを改めて心に誓います。
(矢﨑)
私も稲盛哲学を学ぶことで非常に深い気づきをいただきました。それが本を読んで得られるような学びと重みが違うのは、塾長ご自身が生き様でそれを見せてくださっているからだと思うんです。
それを我々自身も、血の通った人間としてどう受け止めるか。ですから1回でも多く塾長例会に出かけて行き、できるだけ塾長の謦咳に接しながら、その学びを受け取り直し続ける。そこに非常に大事な塾生としての学びの姿勢があると思っています。
また、そこで得た学びを社内で共有し、さらに地域社会と共有しなければ、せっかくの気づきが一代、一社で終わってしまう。ですから、自分の得た学びをできるだけこの大阪の地域社会と共有していきたいというのがいまの私の思いであり、信條とも言えます。
(本記事は月刊『致知』2010年1月号「人生信条」から一部抜粋・編集したものです。)
矢崎勝彦(やざき・かつひこ)
昭和17年福井県生まれ。35年大阪市立東商業高校卒業。大阪音響(現オンキョー)入社。40年父親が創業した通信販売のハイセンス入社。専務、副社長を経て、55年社長就任。62年会長。平成元年社名をフェリシモに改称。
稲田二千武(いなだ・にちむ)
昭和15年鳥取県生まれ。34年米子商業高校卒業、大阪の鉄工所に就職。37年中央物産創業、社長に就任。45年ファミリーに社名変更。平成10年上海に発美利健康器械、13年アメリカにFAMILY INADA INCをそれぞれ設立。17年米子国際ファミリープラザ開業。19年シャトー・おだか開業。ファミリーイナダ社長。