国民教育の師父・森信三が説く「仕事に取り組む方法論5か条」——人間学を探求した四大哲人に学ぶ②

国民教育の師父にして、20世紀最後の哲人といわれる森信三先生――。
代表的著作『修身教授録』をはじめ、その教えは教育者のみならず、経営者やビジネスマンまで、いまなお多くの人を魅了してやみません。一度しかない人生を、一人の人間として、いかに悔いなく輝かせて生きるか。人生と仕事に関わる原理原則と具体的な実践項目に、明日を切り拓くためのヒントをもらいます。

職業天職観

人間社会の巨大な仕組みを考える時、わたくしは西洋の卓れた思想家たちが、職業の意義を重視してきたことに対して、深い敬意を払わずにはいられないのであります。

それというのも西洋では、職業というコトバの原意はVocation(英)であって、「使命」とか、さらには神による「召命」という意味であります。すなわち西洋の社会では、職業とは人間が神から命じられたものという考え方が、その根底にあるのであります。

こうした深い職業観は、わが国の現状では、そのままにあてはまらない部分があるにしても、十分に敬意を払わずにはいられないのでありまして、先にわたくしが職業というべきところを、特に職分と申したゆえんであります。

このように職業というものが、その根源においては神に繋がるという考え方は、人によっては多少古いと思う人もあろうかと思いますが、しかしわたくしは、そこには実に深い永遠の真理のあることを信じて疑わないのであります。

同時に、われわれ人間がその個性を発揮するには、いついかなる時代にあっても、結局は各自の職分を通じてするほかなく、それはいわば永遠の真理であって、人は職業以外の道によって、その個性を発揮するということは、ほとんど不可能に近いとさえいえるほどであります。

仕事と立腰

「仕事」に取り組む態度の問題ですが、第1には何としても肝要なのは本気ということで、また積極的態度ともいえましょう。第2は集中統一、第3には耐久持続ということが問われると思うのであります。

しかもビジネスマン社会にあっては、単にそれだけではなく、方法なり結果が常に問題となるわけであります。

仕事に取り組む方法論としては、

①仕事の大小、軽重をよく認識し、仕事の手順を間違えないこと、とりわけ小事を軽んじないことが大事でありましょう。

②できるだけ迅速にして、しかも正確を期するよう努めること。

③常に問題意識を持ち、仕事の処理に関する創意工夫を怠らないこと。

④他との協調・協力を惜しまないこと。

⑤さらに結実の成果を上げることは必然であり、常に会社なり、組織体への貢献度の如何が問われるわけであります。

以上挙げてきた仕事の条件のほかにも、さらに複雑多岐にわたる人間関係がありますので、大変といえば実に大変なわけであります。洞察力と企画力と行動力を常に開店せねばならぬからで、少なくとも仕事に賭けるビジネスマンにとっては、心・身の中心軸をよほど強じんにしておかないと、その全力回転には耐えられなくなるということであります。

立腰の徹底

そしてその中心軸を強じんにする唯一の方法は「立腰」すなわち「腰骨を常に立て直す」ということなのであります。

この「立腰」については、わたくしは過去20年来学校の先生方や生徒に、またご父兄方に、ことあるごとに説き、「立腰教育」を提唱しつづけてきたものであります。わたくしとしては「人間に性根を入れる極秘法は何か」と問われたら、それは「常に腰骨を立て通す以外に道なし」と答えることにしております。

さて、この「立腰」につきましては、すでに『立腰教育入門』に詳しく述べておりますので、ゼヒともご一読いただきたいと思いますが、この書は、子どもの「立腰教育」について述べてあるだけでなく、人間としてその「生」を全うする上においても、いかに「立腰の習得」が大事な必須条件であるかを説いたものであります。

なおその原理の方法の概略を申しますと、「立腰」は、東洋古来の「禅」の伝統に繋がる修行道でして、これこそ人間の主体性確立の唯一の方途なのであります。なお、この「立腰」によって、集中力・持続力・実践力が身につくわけで、それは人間は身心相即的存在であるとの原理に基づくものだからであります。

次いでその方法ですが、腰骨を立てるといっても、旧軍隊式の直立不動の姿勢ではなくて、

①尻を思いきり後ろに突き出し、

②反対に腰骨をウンと前に突き出す。

③そして、下腹の臍下丹田に心もち力がこもるようにする、

ということであります。

コトバでいうと、ただこれだけのことですが、これを日常の起居動作において身につけるということは実に容易でなく、これも生涯を賭けての修道であります。これは座禅や静坐においては申すまでもなく、剣道や弓道から朗詠・舞踊ならびに茶道・華道に至るまで、すでに説かれるもので、およそ道と名のつくもののすべてに通ずる根本的な真理なのであります。

(本記事は『父親のための人間学』(弊社刊)より一部抜粋したものです)

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森信三(もり・のぶぞう)

明治29年愛知県生まれ。大正12年京都大学哲学科に入学し、主任教授の西田幾多郎先生の教えを受ける。卒業後、同大学大学院に藉を置きつつ、天王寺師範の専攻科講師となる。昭和14年、旧満州の建国大学に赴任。敗戦により新京脱出。21年6月無事生還。28年神戸大学教育学部教授に赴任。35年神戸大学退官。40年神戸海星女子学院大学教授に就任。50年「実践人の家」を建設。平成4年11月逝去。著書は『不尽叢書』『幻の講話』『人生二度なし』『修身教授録』『真理は現実のただ中にあり』など多数。

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