2019年04月28日
漢方薬と入浴剤の大手メーカー、ツムラの加藤照和社長は、入社早々試練に直面します。希望外の経理部門、発熱のため入院……。そんな新入社員を救ったのは、たまたま書店で手に取った経営の神様「松下幸之助の本」だったと言います。
私の20代は激動の時代
私が入社したのは昭和61年。大学の卒論の研究事例で、入浴剤と漢方の2つの分野でトップシェア商品を持つ優良企業として取り上げたことが機縁でした。
ところが、営業職を志望していたにもかかわらず、配属されたのは経理部門でした。実は大学1年の時に簿記・会計を勉強したもののあまり関心が持てず、2年時から専攻をマーケティングに切り替えた経緯があり、最初は随分落胆したものです。
しかし、経理部門では所属していた9年の間に、種々の伝票処理から有価証券報告書の作成、さらには新しい会計システムの立ち上げまで、様々な業務を担当する機会に恵まれました。
そこで得た経験は私のビジネスのベースとなり、後に子会社の整理・清算や、アメリカでマーケティング会社を立ち上げる際に大いに役立ちました。そして現在、社長として当社の経営を担う上でも計り知れない力となっているのです。
目の前のことに全力で向き合う
入社後の研修が終わり、配属先の経理部門で挨拶をした翌日、私は高熱のため救急車で病院に運ばれ、そのまま入院することになりました。
ただでさえ志望していた営業職に就けず落ち込んでいる上に、大切な業務開始時からの躓き。その時は、出社しても自分の席はもうないのではないかと、とても不安な気持ちになりました。
入院4日にしてようやく退院を果たし、その足で立ち寄った書店でたまたま目に留まったのが『松下経理大学の本』でした。
その本には経理のことばかりでなく、経営の神様と謳われた松下幸之助の経営のエッセンスが記してありました。
「松下電器は社会の公器である」「家電をつくる前に人をつくる」「衆知を集めて経営をする」……ひと言ひと言が心に響き、配属先への不安も払拭されていきました。
これから社会人として第一歩を踏み出そうという時に、そうした一流の仕事観、経営観に触れることのできた僥倖に、感謝せずにはいられません。
以来私は、松下幸之助の本を買い求めては仕事に対する見識を養ってきました。その原点である『松下経理大学の本』は、いまも座右にあり、紐解く度に新たな発見があります。
よき出会いを求めよ
こうした私の足跡を踏まえて、若い方々にぜひとも心掛けていただきたいと思うことは、自分の成長に繫がるよい習慣を身につけていただきたいということです。
本を読むことでも、規則正しい生活をすることでも、自己投資をすることでも、何でも構いません。自分がこれだと思うよいことをいかに実践し、習慣化して、自分の軸(価値観)をつくることが、リーダーとしての力量を問われる50代に大きな差となって現れるのです。
よい習慣は、素直な心がなければ身につきません。挨拶然り、整理整頓然り、身の回りの小さなことを疎かにしていては、決して大きなことは成せないことを理解する必要もあります。
よい習慣は、早く身につけるほど自分をより高い位置に導いてくれることを、20代の皆様にはぜひとも意識して実践していただきたく思います。
(本記事は月刊『致知』2017年2月号「二十代をどう生きるか」から抜粋・編集したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら)
加藤 照和(かとう・てるかず)
昭和38年愛知県生まれ。61年中央大学商学部卒業後、津村順天堂(現・ツムラ)入社。米国法人社長、コーポレート・コミュニケーション室長などを経て、平成24年社長に就任。
「誰からも信頼される人格」の形成、「志・情熱」「使命」をもって、「プロフェッショナル」「自立」「利他」の精神で行動できる人財の養成を「終身の計」とし、そのための「終身」の書として『致知』に多くを学ばせていただいております。
――ツムラ社長 加藤照和