「自分は囲碁を本当に少ししか分かっていない」囲碁7冠・井山裕太はなぜ強いのか

選りすぐりの天才たちが鎬を削る囲碁界で、初の7大タイトル制覇を2度達成し、国民栄誉賞を受賞した井山裕太さん。令和4年春の褒章で、学問や芸術分野で功績を残した人に贈られる紫綬褒章を受章されました。頂点を極めてきた勝負師に、勝運を引き寄せる秘訣について伺った。※対談のお相手は将棋永世名人・谷川浩司さんです

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負けて涙を流しているだけではいけない

〈谷川〉
勝負で一番大切なのは、優勢の時に焦らないということ、劣勢の時に諦めないことだと思います。
 
優勢の時は早く勝って楽になりたいし、劣勢の時もやっぱり負けて早く楽になりたいという気持ちというのがあります。けれども負け将棋の時でも、あるいは辛い時期でもとにかく自分の最善を尽くしていくこと。その積み重ねがやっぱり長い目で見ると大きな差になって表れてくると思います。
 
もっとも井山さんの場合は、そういう経験はあまりないでしょうけれども(笑)。

〈井山〉
とんでもないです(笑)。子供の頃はしょっちゅう負けては涙を流していましたから、負ける辛さは本当によく分かっています。

ただ、師匠から「負けて涙を流しているだけでは何万回打っても強くなれない」と、なぜ負けたのかを反省することの大切さを諭されました。
 
プロになってからは、正直言って自分がどこまでやれるかという不安が結構ありましたし、最初に張栩さんに名人戦で挑戦して負けた時というのは、この人に勝つのは本当に大変だろうなとも痛感しました。

それぐらい大きな差を感じて、ショックを受けたんです。でも、それをこれからの自分に生かせばいいと気持ちを切り替えてまた対局に臨み続けたんです。

タイトル戦ではもちろん負けもたくさん経験していますし、その度に辛い思いもしますけど、すぐ次の対局が来ますので、塞いでいる暇もないというのも正直なところです。とにかくタイトル戦という最高の舞台で、最高の相手と濃密な時間を過ごすことが一番勉強になるわけですから、せっかくそういう機会を得たからには最大限に生かさなければなりません。

勝運を呼び込む秘訣

〈谷川〉
私は最近「心想事成」という言葉が好きでよく揮毫させていただくんです。

心に想うことは成るという意味ですが、そのためには平素からどれだけ本気で勝負に打ち込んできたかということが大切だと思います。真剣に、本気で打ち込んできた時間が長く、思いが強い人ほどよい結果を得ることができるし、そのための運も呼び寄せられるのではないでしょうか。
 
勝負の神様はそういうところをきちんと見ておられるし、それはその対局の時だけでなく、普段の生活すべてを見ておられると思うんです。もちろん人間ですから一日中将棋のことを考えているわけにはいきませんが、体の中心に将棋というものが軸としてあるか、そこが問われると思います。

〈井山)
囲碁の神様がいらっしゃるなら、その神様と比べて自分は囲碁のことを本当に少ししか分かっていないと思うんです。

対局をしても本当に分からないことだらけですから、いまはそれが少しでも分かるように成長したいという気持ちが一番強いですね。
 
勝負というのは勝ちたいと思って勝てるものでもないし、負ける時は簡単に負けたりします。本当にどうなるか分からない中で、とにかくその局面で自分なりに最善を尽くす。そこに専心していくことに尽きるかなと思います。

僕が心掛けていることはそんなにありませんけれども、囲碁の作法では対局前に碁盤を清めるというのがあります。これを僕は普段も、勉強を始める前と終えた後に必ず行うようにしています。

いつ頃からそういうことをするようになったのか覚えてはいないんですけど、やっぱり神聖な碁盤には、自分の心をちゃんと整えた上で向かわなければならないという思いがあります。


(本記事は月刊『致知』2014年2月号 特集「一意専心」から一部抜粋・編集したものです)

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◇谷川浩二(たにがわ・こうじ)
昭和37年兵庫県生まれ。11歳で若松政和七段に入門し、14歳で四段。58年史上最年少21歳で名人。平成4年に四冠、9年には十七世名人として永世名人の資格を得る。21年日本将棋連盟棋士会会長。24年日本将棋連盟会長。九段。

◇井山裕太(いやま・ゆうた)
平成元年大阪府生まれ。14年日本棋院関西総本部所属のプロ棋士に。21年史上最年少20歳で名人。25年棋聖位を奪取し囲碁界初の同時六冠、3人目となる通算での7タイトル制覇(グランドスラム)を達成。

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