30点以下→100点に。読み書き計算、古典の音読で脳の働きを劇的に高める〝陰山英男メソッド〟の秘密

読み書き計算の徹底反復によって子供たちの能力向上を実現してきた陰山英男さん。この30年の研究実践の中で分かったのは、古文や漢文の名文音読が子供たちの脳の働きを劇的に変えてしまうということでした。陰山さんの「陰山メソッド」の効果について、実体験を交えて語っていただきました。

読み書き計算と脳の関係

〈陰山〉
私はその子たちを3年から6年まで4年連続で担任する機会に恵まれ、その間に名文の素読を含めた読み書き計算の徹底反復の実践を続けました。すると、6年の終わり頃には皆驚くほど賢くなってきました。

教えていない問題を与えても解いてしまうし、国語以外の教科の成績も上がっている。これは何かが起きていると確信し、その子たちが卒業する時に過去のデータを全部チェックしてみると、知能指数が劇的に上がっていることが分かりました。4年間の実践が脳の働きを変えていたのです。
 
余談ですが、2007年から始まった全国学力テストには基礎問題のAと応用問題のBがあります。読むことは基礎基本ですから、Aが上がってBは上がらないと思う方が多いのですが、実はBも上がります。

音読をすると語彙が増え、長い文章がさっと読めて頭の中に具体的なイメージをつくることができるようになるからです。
 
最近、子供たちの読解力不足が指摘されています。その原因の一つは語彙が少ないことです。漢字を覚えるのと、漢字を使った熟語を覚えるのは次元が違います。

「下」や「水」は一年生で習いますが、これが「下水」となった瞬間に子供は分からなくなる。汚水が流れるパイプが地下を通っていると説明しても、知識がないと理解できません。「げすい」という読み方は分かっても、それが何かイメージできないため「下水」という言葉の入った文章はすらすら読めないのです。

ところが、マンホールを開けて「ほら、水が流れているでしょ。これが下水だよ」と教えてあげると二度と忘れません。子供はそうやって言葉を媒介にしていろいろな知識を習得していくのです。
 
だからこそ音読の教材は名文でなければいけないのです。読みやすくて面白いだけなら一回読めば終わりですし、すぐに忘れてしまいます。しかし、素読では同じ名文を何度も読みます。そのうちに難しい言葉への抵抗がなくなり、文章を覚えるとともに語彙も増えて、理解力が高まっていくのです。

音読指導を始める前、私は書店で見つけた『名文素読暗唱法』という本の中にあった古典の文章のいくつかを子供たちに読ませてみました。中でも一番食いつきのよかったのは『論語』でした。あの「子曰く」というのが面白いらしいのです。

文章の意味は分からなくてもリズムがよいので、皆で「子曰く」「子曰く」と読んでいくと元気が出てきて、だんだん声も大きくなってきます。そして繰り返し読むうちに、すっかり覚えてしまうのです。

本気さが脳を変える

〈陰山〉
また最近分かったのは、書き写しが子供たちの学力を非常に高めるということです。きっかけは漢字の書き取りでした。漢字学習は「何回書きなさい」と書き取りをするのが普通ですが、それだと逆に子供は漢字を覚えません。回数をこなすことが目的になってしまい、頭を働かせず鉛筆だけ動かすようになるからです。

漢字の勉強で最も効果的なのは何かというと、お手本をよく見てきちっと書き写すことなのです。これは文字の観察に繋がり、偏や旁、とめ・はね・はらいをしっかり身につけることができます。

同時に分かってきたのは、一文字5秒以内、画数が少なければ3秒以内に書けない漢字は、覚えたことにはならないということです。

昨年12月に新潟県糸魚川市のある小学校に漢字指導に行きました。3年生の男子で、漢字テストで30点以上とったことがないという子がいました。私は黒板に漢字を四文字書いて、みんなに書かせてみました。その子は全く書けません。ようやく書いた字も形になっていませんでした。

私はその子が一所懸命書いた漢字を消しゴムで消しました。「何すんねん」と言うので、「間違った字を書いたら消すのは当然だろう。正しく書けば次に行かせてあげる」と書き直させました。

しかし、書き直した字をまた消しました。「ちゃんと書いたやないか」と文句を言うので、「そんなトロトロ書いたのは書いたうちに入らないよ」と、また書き直させる。

7、8回繰り返してようやく書けるようになったので二文字目に行くと、今度は3、4回で書けました。お手本通り書かないと消されるので、よく字を観察して書いていました。それでコツを掴んで三文字目、四文字目はより速く正確に書けるようになりました。

実はこの時、その子の中で瞬間的に重要なことが起きていました。何かというと、速く書くことに夢中になって漢字が苦手だということを忘れていたのです。

低学年は別ですが、中高学年になると自分が駄目だと思い込むと頭が働きません。だから、できない子を伸ばす第一条件は学習に夢中にさせて、できないという気持ちを忘れさせることなのです。

その子が四文字書けたのを見て、すぐに漢字テストをしました。8人の児童のうち、彼は3番目に書き終わりました。全問正解です。私が「君は漢字大好き少年に変わったね」と茶化すと、「ほんまや」と嬉しそうでした。そして翌日の漢字テストで、彼は百点をとりました。

本気で学習すると子供の脳の働きが活発になって劇的に学力が向上するのです。やり方を工夫すれば、一瞬でレベルアップできることも分かりました。必要なのは、簡単なことを本気になってやること。音読、漢字、百ます計算は最適の学習法だったのです。(本記事は月刊『致知』2018年12月号 特集「古典力入門」に掲載の「古典の音読が脳の働きを劇的に高める」から一部抜粋・編集したものです。人生や仕事、人材育成のヒントが満載、月刊『致知』の詳細・ご購読はこちら

◇陰山英男(かげやま・ひでお)
昭和33年兵庫県生まれ。55年岡山大学法学部卒業。城崎郡内の小学校を経て平成元年より兵庫県朝来町立山口小学校教諭。公募により15年広島県尾道市立土堂小学校の校長に就任。18年京都市の立命館小学校副校長就任。現在は陰山ラボ代表。教育クリエイターとして全国各地で学力向上アドバイザーを務める。著書に『陰山メソッド徹底反復「音読プリント」』(小学館)『陰山英男の読書が好きになる名作』(講談社)など多数。

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