ノーベル賞候補・藤嶋昭が紐解く「古典と科学者の名言」

ノーベル賞候補に挙がる発明「光触媒」

藤嶋昭先生のことを初めて知ったのはいまから3年半前のこと。たまたま手に取った『Newton(ニュートン)』という科学雑誌に取り上げられている記事を読んだのです。

藤嶋先生はそれまで「水は電気でしかHとO2に分解できない」という常識があった中で、「光」で水を分解できることを発見された大科学者であるとのこと。科学的なことまでは深い理解に至りませんでしたが、その記事の最後に、先生が読書を通じて自己を磨き続けてこられたことや徳川将軍家の剣の指南役だった柳生家の家訓など古くから伝わる言葉を心の糧にされていることを知り、一気に先生の虜になりました。

藤嶋先生に『致知』にご登場いただきたいと企画を温めつつも、特集テーマとなかなか合致せず、実現化できませんでした。

光明が差し込んできたのは、2016年に藤嶋先生が『理系のための中国古典名言集』という本を出版されたことでした。これは本を読まないと言われる理系学生のために簡潔に書かれた中国古典の解説本で、日常生活での活かし方などがイラストを交えて分かりやすくまとめられていました。

読み込むうちに心が固まりました。
「藤嶋先生にノーベル賞級の発明に至った研究人生と、読書、特に中国古典から得た学びを合わせて伺いたい……!」

そうして思いを温め続けること2年。2018年12月号の特集テーマが「古典力入門」に決まり、その号で藤嶋先生に取材することが決まったのでした。

先生の魅力は何といっても、ノーベル賞級の発明をされただけでなく、その実用化にも尽力し、1千億円の光触媒市場を築かれたことです。
その発明に至るまでの経緯と実用化に関して、記事から抜粋します。

「『光触媒』という言葉をご存じでしょうか。消臭、防汚、抗菌の効果を持ち、セルフクリーニング作用に熱い期待が寄せられている技術です。空港などの大型建築物や高層ビルの外壁・窓ガラスのコーティングの他、トイレや工場など汚臭が発生する所の消臭・殺菌、がん治療、あるいはデング熱の撲滅など医療分野にも応用され、世界中が実用化に力を入れています。

 東海道・山陽新幹線の場合、全席禁煙化に伴い喫煙ブースが設置されましたが、一切におい漏れがありません。これは光触媒が活用されていることに因ります。また、2013年に完成した東京駅のグランルーフ(帆のような大屋根)が汚れず白いままなのも、光触媒で覆われているからです。
 この光触媒は1967年、私が東京大学大学院生の時に発見しました。それ以前からこの分野は世界中で研究されていましたが、私が酸化チタンという物質の有能性に着目し、光によって水を酸素と水素に分解できることを世界で初めて実証したのです。

『水は電気分解によってしか酸素を生成できない』というのが当時の定説だったため、新たな結果を導き出せた時の感動は一入でした。さらにこの発見は消臭、防汚、抗菌などにも応用できることが分かり、期待に胸を膨らませました。

 ところが、学会で成果を発表しても誰からも信じてもらえず、博士号を取るのさえひと苦労。成果が日の目を見たのは発見から五年後、世界一権威のある科学雑誌『Nature(ネイチャー)』に論文が掲載された時でした。海外で真っ先に注目を浴び、逆輸入する形で日本でも紹介されたのです」

科学者の名言と古典の名言の共通項

藤嶋先生が古典に出会われたのは東大の教授を定年退職した61歳の時だったといいます。光触媒の新たな活用法を求めて、JR東海と新幹線内での実用化の研究に乗り出した際に、当時社長だった葛西敬之さんの影響を受けたそう。葛西さんは無類の読書家として知られ、中国古典にも造詣が深い方。その人柄に魅了され、藤嶋先生も貪るように古典の書物を読み、見識を高めていかれました。

そして、先生は大変興味深いことに気づかれます。理系の科学者たちが遺した言葉の節々には、中国古典の名言と通ずる部分があるというのです。

「私は科学者として、世界中の偉業を成した科学者の書物にも触れてきましたが、中国古典の勉強を進めるうちに、興味深い事実に気がつきました。科学者が遺した言葉には、中国古典の教えと共通する点が多々あるのです。例えばアインシュタインの次の言葉です。

『自ら考え行動できる人間をつくること、それが教育の目的と言えよう』

 学校教育に馴染めなかったアインシュタインが研究人生で辿り着いた一つの結論ですが、中国古典と照らし合わせると、『中庸』にも同じような言葉がありました。

『博くこれを学び、審らかにこれを問い、慎みてこれを思い、明らかにこれを弁じ、篤くこれを行う』
(広く先人の知恵に学び、理解できないところは先達に尋ねて明らかにし、自分で繰り返し思索を重ねた上で、善悪の分別を加える。これらの段階を踏んだ上で、初めて実行に移すのである)

 この『中庸』の教えを身につけることは、アインシュタインの言う、〝自ら考え行動できる人間〟になることと同じです。
 他にも、私が科学に魅了されるきっかけとなったファラデーの書物にはこんな言葉があります・・・」

続きは本誌46ページからをご覧ください!

(本記事は『致知』2018年12月号 特集「古典力入門」より一部抜粋したものです。人間力・仕事力を高める記事が満載の『致知』、詳細はこちら!)

◇藤嶋昭(ふじしま・あきら)
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昭和17年東京生まれ。東京大学大学院博士課程修了、工学博士。42年に酸化チタンを使った「光触媒反応」を世界で初めて発見し、化学界で「本多・藤嶋効果」として知られる。53年から東京大学工学部助教授、教授などを経て、平成17年に東京大学特別栄誉教授。22年から30年3月まで東京理科大学学長。29年文化勲章を受章。長年ノーベル化学賞候補として名が挙がっている。著書は『時代を変えた科学者の名言』(東京書籍)『理系のための中国古典名言集』(朝日学生新聞社)など多数。

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