俳人・夏井いつきが教える「今日はうどんを食べました」を俳句に変える技術

俳句の先生として、その辛口がお茶の間で人気の夏井いつきさん。俳句をつくった経験のない芸能人の句を、解説を交えながら添削して見事な句に変えてしまう様子に驚きや感動を覚えた人も多くいらっしゃることでしょう。俳都・松山にある伊月庵を訪ねて、日々の何気ない出来事を情緒あふれる一句に変える、ちょっとしたコツをお話しいただきました。

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「俳句は高尚な文学ではありません」

「あなたのイメージを打ち砕いて申し訳ないですけど」

夏井さんは取材中に幾度となく、この言葉を繰り返されました。その一つが、俳句は何となく清らかで高尚なもの、という編集者の先入観でした。夏井さんはこのように話されています。

〈夏井〉
「俳句は決して高尚な文学ではありません。平安時代や鎌倉時代、貴族や武士は和歌を嗜みました。和歌には使ってはいけない言葉があり、雅なものという考えもおそらく当時からあったに違いありません。
 しかし、連歌から“俳諧の連歌”ができる江戸時代になると、次第に庶民のものになりました。その段階で生まれた俳句は猥雑なエネルギーに満ちているのです。
 
 私は“俳句にはやってはいけないことは何もない”といつも言っていますが、どのような醜悪なもの、痛々しいもの、醜いもの、汚いものでもすべて句材としてOKです。
 反対に芭蕉や子規を神格化してみたり、俳句は美しく清らかなものだと考えたりした瞬間に俳句は根腐れしていくというのが私の考えです」

初心者が俳句を読む上での心構えを聞いた時も、「抽象的なアドバイスや心掛けで俳句はつくれません」とピシャリ。俳句には「型」があって、季語を体感しながらその型を身につけていく、いわば筋トレのような訓練を積み重ねる以外にないと教えてくださいました。

〈夏井〉
「ご存じのように俳句は五七五の十七音からなっていますが、五音ほどは季語に取られますから、残りは十二音。この十二音を呟くことができたら誰にでも俳句をつくることができます。
 例えば“きょうはうどんを食べました”という十二音はそのままでは単なる呟きにすぎません。これに季語をつけることで呟きが俳句に変わります。

  秋の風 きょうはうどんを 食べました

 この句には“いつもなら、もっといいランチを食べているんだけど、忙しいしお金もないからうどんにしたんだ”という、どこか切なさが感じられます。
 
 では、季語を“秋うらら”に変えたとしたらどうでしょう。

  秋うらら きょうはうどんを 食べました

 “秋うらら”とは春のようなうららかな秋の日という意味の季語ですが、うどんの味が変わってこないでしょうか。“この店のおいしいうどんがずっと食べたかったんだ”という思いがきっと感じられるはずです。これが俳句の最も基本的な型です」

「俳句の種まき」に生きる

辛口のコメントを連発される夏井さんですが、その俳句に賭ける執念にはただ圧倒されるばかりでした。夏井さんはもともと中学校の国語の教師でした。シングルマザーになった時、「俳句だけで生計を立てる」と決意し、今日までその思いを貫いて歩んでこられました。

〈夏井〉
「2人の子供たちを気にかけてくださったのでしょう、元同僚や先輩の先生方から国語の講師の仕事を紹介されることもありましたが、啖呵を切った以上、信念を崩すのがただ悔しい一心でせっかくの話を断り続けました。
 
 しかもシングルマザーとなれば、状況はより厳しくなります。俳句の仕事など簡単に舞い込んでくるものではありません。おまけに、その頃の松山は保守の鉄板のような土地柄で“若い女性がペラペラと語りながら俳句を飯の種にしている”という冷たい空気もありました。
 私は“俳句で食べていく以上、世間様のお役に立つ仕事でなくては通用しない”と考えを変え、それがその後の種まきへと繋がっていったのです」夏井さんが静かに始めた「俳句の種まき」は、20年以上の歳月を経て、いま大きく花開いています。テレビ出演や高校生の俳句甲子園、全国各地での句会ライブなど夏井さんの活動が、国民的な俳句ブームに繋がったことは、まさに賞賛に値します。

誌面では紹介できませんでしたが、夏井さんは、「御幸(みゆき)ハウス」と称して様々な事情を抱えた子供たちを自宅で預かっていた時期があります。俳人でありながら、優れた教育者という一面も垣間見ることができた取材でした。

(本記事は月刊『致知』2018年12月号 特集「古典力入門」の「俳句は人生を楽しくする」から一部抜粋・編集したものです)

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◇夏井いつき(なつい・いつき)
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昭和32年愛媛県生まれ。8年間の中学校国語教諭を経て、俳人へと転身。俳句集団「いつき組」組長。平成27年「俳都松山大使」に就任。『プレバト!!』の俳句コーナーをはじめ多くのメディアに出演。著書に『世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)『寝る前に読む一句、二句』(ワニブックス)など多数。

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