【川島隆太×齋藤孝】 読書が人を育てる――日本人の読書離れをどう防ぐか

日本人が読書をしなくなったといわれて久しい中、脳科学者の川島隆太さんと斎藤孝さんは、科学と実践を踏まえて読書、素読の必要性を訴えてきました。どうすれば人々に読書の大切さを伝え、読書習慣を取り戻すことができるのか。語り合っていただきました。

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親や教師の意識が読書離れを助長している

〈川島〉
それにしても気になるのは、日本人の読書離れです。このまま手をこまねいていたら手遅れになるのは間違いありませんね。

〈齋藤〉
本に親しんでもらうきっかけとして、私のゼミの学生たちにはそれぞれ10冊ずつ好きな本を選んでブックリストを作成してもらっているんです。それを相互に発表し合うことによって読書への関心が高まっていきます。

それ以外では、課題図書を決めて読書会を開きます。『福翁自伝』と『学問のすゝめ』を一つにした「諭吉祭り」だとか、『カラマーゾフの兄弟』を読んで「ドストエフスキー祭り」だとか、『方法序説』を読んで「デカルト祭り」だとか。

〈川島〉
随分とレベルが高いですね(笑)。

〈齋藤〉
はい。祭りといいながら、やることはものすごくハードなんですが、難しい本を読んでくることで熱気が高まり、実際、読書会は祭りのように盛り上がるんです。

一方、小さな子供たちに読書に親しんでもらうには、好きな本を何となく読むよりも、やはり素読の習慣をつけるほうがいいように思います。もちろん、自由な空気の中で好きな本を好きなように毎日読むのもいいのでしょうが、それだけの蓄積ができているかというと、やはり疑問ですね。

〈川島〉
僕はこの問題を学校における努力と、家庭における努力と2つに分けて考えているんです。

あるアンケート調査によると、多くの小学生は1週間に1冊のペースで本を読んでいると言われます。ところが、中学校に進んだ途端、見事に読まなくなるんですね。そこに何が起きているかをきちんと解析しなくてはいけないのですが、恐らく中学校の先生方が読書の大切さに気づいていないような気がするんですね。「読書をするくらいなら、もっと部活に精を出せ」「勉強をしろ」と子供たちを追い込んでいるのではないかと。

〈齋藤〉
なるほど。

〈川島〉
いま中学校教育に求めたいのは、小学生の時に身についた読書の習慣を失わせないでほしい、ということです。中学生まで読書習慣が継続できれば、その子たちは必ず本好きになります。

一方、家庭についてですが、いま家に本がない家庭が増えていて、改善すべきはそこからでしょうね。ただ、子供を授かった親御さんには教育に対する意欲がありますから、まずはしっかりと読み聞かせを行う。そうすれば、子供は本が好きになります。

次のステップは家庭の中に本があるのが当たり前という環境をつくることです。幸い僕の両親は読み終わった本を僕の部屋の本棚に置くという戦略を立てました。退屈すると本を読むしかない環境に追い込んでいったんですね(笑)。それで僕も、家内が暇な時に、子供たちの前で読書をしてもらう、という戦略を立てました。そうすると「そんなものかな」と思って子供たちも自然と本を引っ張り出して読むようになったんです。

だけど、いまの家庭はそうじゃないでしょう? 親は本を読まない。それどころか子供と食事をしている時まで親たちがスマホをいじっている。そこを解決するのは並大抵ではないと思っています。

〈齋藤〉
それだけ家庭の責任が重要だということですね。

〈川島〉
かつて教育界では、家族のコミュニケーションを促進するためにノーテレビデーを設ける話がありました。頑張っている自治体もありましたが、どこも頓挫しているんですね。理由は単純で「野球中継を見たい」「ニュースを見たい」と親が嫌がるからです。

家庭では既に抑制が難しくなったという意味では、僕はこれからスマホを規制の対象にすべきだとさえ考えています、それはもうアルコールやタバコのレベルではなく、麻薬と同じ扱いでいいのではないかという危機感を抱いているわけです。

素読は日本人の精神文化を育ててきた

〈齋藤〉
おっしゃるとおりスマホ中毒は深刻なわけですが、スマホを手にしていると勉強をしたり本を読んだりする時間が中断されるんですね。だから、精神的に深く潜っていくという作業ができずに、浅瀬でずっと生きている魚のような感覚の人が増えているように思うんです。

本当に読書で鍛えられた人は、たとえテレビがついていたとしても、それに惑わされずに深く高度な勉強や読書ができるでしょうが、鍛えられていない人はいつまでもお喋り空間のまま終わってしまう。それだと精神力も弱くなるでしょうね。

武士道精神もそうですが、日本人の精神は1つの文化であり、それは決してお喋りで継承されることはありません。その意味では素読は人を育てるとともに、精神文化を継承する上で重要な役割を果たしてきたわけです。

〈川島〉
確かにそうでしょう。

〈齋藤〉
家庭でも組織でも学校でも「皆、一応読んでいるよね。『論語』くらいは」というような精神文化を共有できるベースがあると、「昔の人もこうやって頑張って乗り越えたんだ」というストレスに対する耐性が生まれます。

だから私は古典的な書物を学生と一緒に読んだり、読書会を開いたりすることで、精神文化の基礎を上げることを続けているんです。このことは私が学生を育てる上でのベースにもなっています。

〈川島〉
人を育てるということでいえば、大変難しい時代になったなというのが正直な実感です。かつてはこちらが背中を見せることで、後進は育ってくれていました。頑張る背中だけ見せておけば、多少軌道修正するくらいで勝手に育って独り立ちしてくれていたんですね。

ところが、僕はいまその信念を曲げなきゃいけないと考えるようになりました。手取り足取り教えないと、育ってくれない子がそれだけ多くなったんです。だけど、そんなことをやっていたのでは僕を越える人材はいつまでも育たないわけでしょう? そこにも読書をしてこなかった世代とのギャップを感じざるを得ないわけですが、それだけに、素読や読書というものの意義を真剣に考えなくてはいけないという思いは強くなるばかりです。


(本記事は月刊『致知』2016年12月号 特集「人を育てる」より一部を抜粋・編集したものです

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『致知』はただ情報として話を目で追うのではなく、心を動かしながら自分の生き方に照らして読む人間学の読み物です。誌名の由来にもあるとおり、「ただ知識として取り込むのではなく、生き方に照らして学んでほしい」という想いを込めています。また、脳科学の視点からデジタルの文章は「(情報として)見る」もの、紙に書かれた文章は「(五感を働かせて)読む」ものとも言われています。
脳力開発の第一人で、脳の機能にアプローチする『スーパーブレイントレーニングシステム(SBT)』を構築した西田文郎氏も、「インターネットで情報を得ることは、単に左脳で知識を知ることに留まるが、『致知』のような紙媒体では、五感に訴えかけて情報を理解するため、脳全体の活性化に繋がる」と述べています。詳しくはこちらからご覧ください。

◇川島隆太(かわしま・りゅうた)
昭和34年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学系研究科修了(医学博士)。同大学加齢医学研究所所長。専門は脳機能イメージング学。著書に『脳を鍛える大人の音読ドリル』『脳を鍛える大人の計算ドリル』(ともにくもん出版)『さらば脳ブーム』(新潮新書)『〈川島〉隆太教授の脳力を鍛える150日パズル』(宝島社)『やってはいけない脳の習慣』(青春新書)など多数。

◇齋藤 孝(さいとう・たかし)
昭和35年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『子どもと声に出して読みたい「実語教」』『親子で読もう「実語教」』『子どもと声に出して読みたい「童子教」』『日本人の闘い方~日本最古の兵書「闘戦経」に学ぶ勝ち戦の原理原則~』など多数。新刊に『子どもの人間力を高める「三字経」』(いずれも致知出版社)。

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