2021年09月09日
「従業員の無限の可能性を引き出してあげるのが経営者だ」との思いから、心をベースとした組織づくりを行う宮田運輸(大阪府)。社長の宮田博文さんが、よき社風づくりに邁進しているその想いの原点には、それまでの経営を悔い改める契機となった、悲しい出来事があったといいます。月刊『致知』との出合いを交えて語っていただきました。
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事故の悲しみの底から
◉本記事は月刊『致知』2018年6月号 連載「社内木鶏会で我が社はこう変わった」より抜粋・編集したものです
〈宮田〉
当時、祖父が創業した宮田運輸の専務だった私が、『致知』を購読し始めたのは2008年3月。京セラの稲盛和夫名誉会長が塾長を務められる「盛和塾」のある例会にて、致知出版社の藤尾秀昭社長にご講演いただいたことがきっかけでした。
しかし、「自分には難しい」というのが『致知』を初めて手に取った印象でした。周囲から『致知』を活用した社内勉強会・社内木鶏会を勧められた時も、「本も読まない当社のトラック運転士には無理だろう」と考え、導入を見送ったのです。
数年後の2012年、私は父の後を継ぎ社長を拝命、社員数も業績も順調に伸びている時でした。ところがその矢先、当社のトラックが死亡事故を起こしてしまったのです。運送業を天職だと思っていた私は、トラックが深い悲しみを招いた現実にショックを受け、苦悩しました。
その苦しみの中で湧き上がってきたのが、人の心、従業員の心を信じたい、心をベースにした経営をしていきたいという思いでした。そしてちょうどその頃、盛和塾の小池由久さんに改めて社内木鶏会を勧められたことで、「従業員の無限の可能性を引き出してあげるのが経営者だ」と、導入を決断したのでした。
全従業員でやらなければ意味がないと、私は最初から迷いなく12営業所、約280人で全社木鶏会を開始。導入に反発する従業員もいましたが、「『致知』に学び、人間性を高め、お互いを思いやる心をつくっていきたい」との思いを伝えながら一人ひとり説得していきました。
運送業では従業員全員が同じ時間に集まることが難しいのですが、参加できなかった従業員を別の日に集めるなど、確実に実施することを心掛けました。社内木鶏会を続けるには、まず経営者である自分自身が従業員の成長を信じて、絶対やり抜くんだという意志を持つことが大事です。
「こどもミュージアムトラック」秘話
その中でも忘れられないのが、同じ営業所で親子3人で働いてくれていた従業員のことです。社内木鶏会に反発し、父と兄が弟1人を残して当社を飛び出していったのでした。
しかしその1年後、「他社で働いてみて、初めて宮田運輸の仲間の温かさに気づいた」と2人は戻ってきてくれたのです。そして社内木鶏会の時に、父と兄が人間学を学ぶ大切さを発表し、弟がそれに応える形で「父と兄と一緒に学びを共有できて嬉しい」と発表すると、会場全体が涙に包まれました。そのように、社内木鶏会を続けていく中で、従業員同士の絆、会社全体の絆もどんどん強く深まっていくのを感じました。
また、死亡事故の後、私はある従業員が自分の子供の絵をトラックのダッシュボードに飾っているのを目にしたことをきっかけに、子供たちが描いた絵でトラックをラッピングする「こどもミュージアムトラック」を始めました。
子供たちが一所懸命に描いた絵は人の心に真っ直ぐ届くようで、当社のトラックを見ると、手を合わせて拝んでくれる方もいます。もっと多くの「こどもミュージアムトラック」が走る社会になれば、人間が本来持っている美しい心、思いやりの心を存分に発揮できる社会を実現していけるはずです。
そのために、私はこれからも『致知』に学び、社内木鶏会に学び、従業員たちが美しい心を発揮できる会社、そして運送業を通じて美しい心が響き合う社会を目指し、さらなる努力を重ねていきたいと思います。
宮田博文(みやた・ひろふみ/宮田運輸社長)