外食産業の雄「すかいらーく」創業者・横川竟が明かす、繁盛店のつくり方

東京近郊を中心に展開する新感覚グルメカフェ「高倉町珈琲」。実は同チェーンを牽引する人物こそ、「ガスト」「バーミヤン」「ジョナサン」といった有名ブランドを抱えるすかいらーくグループの創業者・横川竟さんです。かつて業界の底辺と目されていた日本の外食産業を発展させた立役者である横川さんに、経営者としての半生を振り返っていただきつつ、経営と人生を成功へ導くための法則を伺いました。

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スピードには価値がある

御年80にして、いまも経営の第一線に立つ高倉町珈琲会長の横川竟さん。「すかいらーく」の創業者として、日本の外食産業を築いてこられた方でもありますが、その原点は幼少期の外地での生活にあったそうです。

〝僕が小さくまとまるのが嫌いなのは、3歳からの3年間を満洲の広大な土地で過ごしたからでしょうね。というのも、戦前、親父が横川中隊っていう開拓団を地元長野県でつくって、家族も一緒に連れて大陸へと渡ったんですよ。

男四人女一人の三男坊だった僕は、兄貴たちが学校に通っている時も、とにかく遊び回っていましてね。大人に交じってトラクターに乗っては、よく開拓の真似事もしていました。そういった日本とは異なる環境で育ったことが、僕という人間ができ上がる一つの要素になったのだと思います〟

 24歳にして「すかいらーく」の前身となる「ことぶき食品」を立ち上げた横川さんですが、その背景には3人の方の教えがありました。

〝一番大きいのは僕の親父ですね。というのも親父は開拓団の隊長として、満洲の地で約250名の男たちの面倒を一手に引き受けていました。それもこれもすべては国のためだからと、おふくろに対して自分の家のことはできないと言っていたそうなんです。これは後々知ったことではありますが、世の中のためにという思いが僕の生き方の一つになったのは、やはり親父の影響ですね。

2人目が伯父です。僕が中学を出て会社勤めをすると伝えたところ、横川家は士農工商の「士」なのに、おまえのやろうとしていることは「商」だから許すわけにはいかないって言い張るんです。だけどもう働くと決めたんだからしょうがないと掛け合ったところ、よし、分かったと。認めてやるから、その代わりに嘘をつくなと言うんですよ。

「商人」というのは嘘をつく人間の代名詞だから、おまえは「商売人」になれと。人を騙さないでいい仕事をするんだったら、同じ「商」でも許せるって言ったんです。ですから、この伯父との約束はずっと守ってきましたよ。

3人目は「伊勢龍」の親父さんですね。商売をするとはどういうことなのか、商売の基本をすべて教わりました。とにかく築地での教えは、いまも体に染みついていて、例えば『速く歩けない人間で仕事のできるやつはいない。おまえは遅い、速く歩け』って散々言われていました。
 
そのおかげでこの年になっても僕は歩くのが速い、喋るのも早い、食べるのも早い、ゴルフも早い、寝るのも早い(笑)。スピードって価値があるんですよ〟

自分の人生を変えるのは自分自身

「すかいらーく」の歴史は1970年に東京都内の国立に1号店ができたことから始まりました。もっとも、当初からうまくいっていたかと言えばそんなことはなく、何度も倒産の危機を乗り越えてきました。

〝当初はサクラなんかも随分やりましたけど、開店から1年半はとにかく倒産寸前の連続で、倒産の山を少なくとも3回は乗り越えましたね。

それまではとにかくずっと底辺を歩いていて、ようやく売れ出したのは1970年に1号店を出した2、3年後でした。そのきっかけになったのが、例えばよそではやっていなかった正月の営業を始めたことや、ある小学生が作文にお店のことを書いて学校で発表してくれたこと、それに八王子につくった4号店がイタリアンレストラン『ジロー』の100号店と戦って勝ったことなどが大きかったですね〟

創業期の苦しい時期を乗り越えると、次に訪れたのは「すかいらーく」の大ブーム。多い時には1店舗に一日で1,000名近くが訪れたとか。さらに店舗の急速な展開が進み、一日に3店舗開店させることもあったというから驚きです。

〝そうなると、もう戦争ですよ。社員も大変だけど、僕なんか一日に20時間は働いていた。でもね、僕はいくら働いても苦でも何でもなかった。商売っていうのはお客様が喜んでくれるから、苦労が苦労でなくなるんですよ〟

また、横川さんは繁盛店になった要因について次のように述べられています。

〝『ことぶき食品』をつくる時には、『いつも新鮮、いつも親切』をキャッチフレーズにしていました。『すかいらーく』では「価値ある豊かさの創造」と言いました。

そうやっていつでもお客様が喜ぶものを創り続けようとしたことが、これまで手掛けてきた店がどれも繁盛店になった一番の要因ではないかと僕は思いますね〟

お客様の喜びのためにという姿勢は、現在展開している「高倉町(たかくらまち)珈琲」でもいかんなく発揮されていることもまた、本インタビューで伺うことができました。


(本記事は『致知』2018年10月号 特集「人生の法則」より一部を抜粋したものです)

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◇横川 竟(よこかわ・きわむ)
昭和12年長野県生まれ。長野県諏訪市立四賀中学校卒業後、修業時代を経て、37年ことぶき食品を設立。45年「すかいらーく」1号店となる国立店を出店。ことぶき食品から「すかいらーく」に商号変更。取締役、子会社ジョナス(後にジョナサン)社長、会長などを経て、平成18年「すかいらーく」会長兼最高経営責任者に就任。20年に退任後、25年高倉町珈琲1号店を東京八王子に出店。翌年、高倉町珈琲を設立し、会長に就任。

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