2018年08月25日
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心の状態が勝敗を決する
剣術に馴染みはなくても、映画『七人の侍』や柳生十兵衛の剣豪小説などで紹介された柳生新陰流の名称をご存じの方は多いのではないでしょうか。
柳生新陰流には他の剣術兵法にはない、ある大きな特徴があります。力で相手を圧倒して斬り殺すのではなく、心の「位」をもって相手の動きを引き出し、その動きに乗じて勝つという「活人剣」を教えるなど、心をとても大切にしているのがその一つです。
柳生新陰流の歴史は約450年前、室町時代に遡ります。
流祖・上泉伊勢守秀綱が生まれたのはまさに戦国時代の真っ只中でした。幼い頃から兵法や兵術の修行に明け暮れた伊勢守は、当時の代表的な剣術を学びました。中でも大きな影響を受けたのが常陸の国・鹿島の「陰流」で、伊勢守はそこに独自の工夫を取り入れて「新陰流」を生み出したのです。
ある時、畿内一の兵法家で名を馳せる柳生但馬守宗巌(後の石舟斎)は、伊勢守の噂を耳にして試合を申し込みます。但馬守は腕を試す千載一遇のチャンスとばかりに手合わせをしたものの、伊勢守の新陰流には全くといってよいほど歯が立ちませんでした。
但馬守の偉大さは、素直に負けを認め、プライドを捨てて、自分を打ち負かした伊勢守に礼服で弟子入りを願い出たことにあります。
「ここから四里ほど先にある柳生谷にしばらく留まって、私の修行が成就するまで稽古をつけてください」という但馬守の熱意にほだされた伊勢守は半年間、この草深い山里に滞在し新陰流をしっかりと伝授するのです。
強い心と身体を身につけるために
剣や技といった武術の言葉をご自身の仕事や生活に置き換えてみたら、日々の心構え、対人関係、交渉術などあらゆる分野に応用することが可能です。
実際、新陰流は「三摩之位(さんまのくらい)」という教えがあり、技の上達のために「習い」「稽古」「工夫」の三つのプロセスをとても大切にします。先達に学び、千鍛万錬の稽古に励み、剣をいかに使うかを自らで工夫する、ということですが、私はより現代風に
「生活と仕事と稽古の三位一体で自分の技と心を錬り上げなさい」
と指導しています。不思議なことに、平素の生活や仕事に真剣に打ち込む姿勢がリトマス紙のようにそのまま稽古に現れるのです。
戦国時代が終わり徳川の泰平の世となると、新陰流は実際の戦の技術というよりも、稽古や日常生活を通して武士の心魂を錬るための道となりました。これはまたストレスの絶えない現代の社会環境を生き抜く上でもいえることで、新陰流は現代人に対しても強い心と身体を身につけるヒントを指し示しているといえるでしょう。
ことに私は3年前の東日本大震災で真実の人を目指して歩み続ける大切さを感じ、会員にも強く訴えるようになりました。絶望的な環境にあってお互いを思い合う被災者の感動的な姿を通して、私自身、本来あるべき人間の生き方を忘れていたことにハッとさせられる思いでした。
私は「では、自分にいま何ができるか」を自問しました。
その結果、まず自分自身が真実の人となるように努め、兵法を通して一人でも多くの真実の人を育てることこそが役割ではないかと思い至ったのです。
昨日の我に、今日は勝つべし
新陰流は国内外に約150名の会員がいて、すべて私からの直伝という形で指導しています。日々向き合う会員たちと稽古に汗を流し、また口伝書とその解説を読む座学を通して、真実の人、正しい生き方とはどういうものかをともに探究していますが、特に若い人たちに伝えたいのは石舟斎の次の言葉です。
「一文は無文の師、他流勝つべきに非ず。昨日の我に、今日は勝つべし」
自分がまだ知らない有益な一つの思想があったら、知っている人に謙虚に学びなさい。兵法をやっているからといって自慢気に技を披露して相手を打ち負かすようなことをやってはいけない。ただ自身の成長のみを目的にして、日々人格や品性を高めていきなさい、という意味です。
いくら他人と競争して勝ったところで、真実の人にはなれません。真実の人となるには、ひたすら自己に向き合い日々成長を重ねる以外にないのです。儒教には「慎独」という言葉があります。これは自身の良心に照らしてやましいことがないよう、言動を常にコントロールすることを意味します。
他人が見ているところでは常識的に振る舞えても、誰も見ていないところではどうでしょうか。弱い心に打ち克って、いかなる時も良心に従って真実の人であり続けるのは至難の業です。新陰流がどこまでも奥が深く、修養を忽せにできない理由の一つはまさにこの点にあるのです。
(本記事は月刊『致知』2014年3月号 特集「自分の城は自分で守る」の「柳生新陰流に学ぶ我に打ち克つ生き方」より一部抜粋・編集したものです)
◇柳生耕一平厳信
(やぎゅう・こういちたいらのとしのぶ)
昭和27年東京都生まれ。大学在学中の18歳で第二十一世宗家・柳生延春厳道に入門。平成14年その養子となり、養父の逝去により二十二世を継承。名古屋、東京、大阪、ニューヨークで指導に当たる。著書に『負けない奥義』(ソフトバンク新書)。
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