大阪桐蔭高校野球部は、なぜ圧倒的に強いのか

高校野球界において圧倒的な強さを誇る大阪桐蔭高校野球部。この強豪を率いる西谷浩一監督は、監督歴19年(掲載時)、歴代1位タイの甲子園優勝6回の記録を持つ名将でもあります。いかにしてチームを全国屈指の強豪に導いてきたのか、その要諦に迫ります。

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一球同心

〈西谷〉
大阪桐蔭高校野球部の1日は午前7時の朝礼で始まります。その後、寮の食堂で朝食を取り、8時10分にバスで学校に出発。授業を終え、午後3、4時から夜9時頃まで練習を行う。帰ってから夕食を取り、お風呂に入って就寝する。睡眠も大事なので朝練習は自由にしていますが、一番早い子は5時半から練習をしています。

このように全寮制を取っており、近所に実家のある子も他県から来ている子も皆が生活をともにすることで、全部員一丸となって日本一の目標を追いかけ、日々練習に励んでいるのです。

野球だけ頑張っていて、寮ではだらしないという子は周りから認められませんし、強くなれません。集団生活というのは自分のすべてがさらけ出されるごまかしの利かない世界であり、その点がチームづくりにプラスに働いているのではないでしょうか。

寮は自己を鍛錬する場であると位置づけ、「自分のことは自分でする」というルールを設けています。洗濯にしても掃除にしても、1年生が3年生のお世話をすることは一切ありません。

15歳で親元を離れて集団生活をするわけですから、最初は苦労もありますが、その分、家にいては学べないことも数多くあります。顕著な例は、毎年4月に入部してくる約20名の1年生のほとんどが野球ノートに親への感謝の言葉を綴っていることでしょう。

いままでは家に帰るとご飯が食卓に並べられていて、食べ終わったら食器を下げて洗ってくれていたり、汚れたユニフォームや下着をカゴの中に放れば綺麗に洗濯してくれて、畳んで鞄の中に入れてくれていた。

そういう状態で寮に入り、食事はつくってくれるとはいえ、自分たちで配膳して、食べ終わったら食器を洗って、洗濯物を干して、部屋の掃除をして、布団を自分で上げて、スパイクを磨いて、道具の手入れをして、学校に行く用意をする。この時に初めて、「お母さんは僕のためにこんな大変なことを嫌な顔一つせずやってくれていたのか」とありがたみに気づく。

それだけでも大きな成長ですが、3か月ほど経つと、1日24時間をいかに有効に使うか、無駄な時間をなくすか、隙間時間を見つけて練習するかを自分で考えて行動する自己経営の習慣が身につくようになるのです。これは野球で勝つために、あるいは将来社会に出て活躍するために、非常に大事なことだと思います。

「野球のダイヤモンドは90度。大事なのは残りの270度、つまりグラウンド以外のところ」

とよく言われるように、最後の最後はやはり野球の技術よりも人間性やチームワーク力が勝敗を決するのでしょう。ゆえに、我われは「一球同心」という言葉をスローガンに掲げています。

リーダーとしての2つの心掛け

大阪桐蔭高校に23歳で赴任し、今年ちょうど26年目を迎えました。赴任して間もない頃、当時の校長先生に言われた言葉がいまも忘れられません。

「教えられる教師はたくさんいるけど、育てられる教師は少ない」

勉強や野球の技術を教えるだけではなく、そのことを通じて子供たちを成長させるためには何が必要か。それはやはり信頼関係です。子供たちから「この人の言うことなら間違いない」と思ってもらえる存在になること。そういう信頼関係を構築するには、一人ひとりといかにコミュニケーションを取るか、つまり話を聴くかが重要だと思います。

かく言う私自身、かつては子供の言動を否定し、一方的に自分の意見を伝え、延々と説教をするようなダメ教師でした。

転機となったのは、32歳の時です。不祥事があって半年くらいグラウンドに出られなかったことがあるのですが、その時コーチングに関する本を読んでいると、そこにはこう書いてありました。

「あなたはコーチをしている対象の人の話を聴いていますか?」

目から鱗でした。自分は面談をして子供たちとコミュニケーションを取っているつもりになっていたけれども、本当の意味で子供たちの話を聴いていなかったと気づかされたわけです。

以来、指導者としてのあり方を勉強し直し、子供たちの話を聴くことに徹していきました。そうすることで、少しずつ子供たちが自ら考え、行動できるようになっていったのです。

もう一つ、監督として心掛けているのは、「日本一」という言葉を日々の練習の中で使い続けることです。実際、私は1日に最低10回は「日本一」と口にしていると思います。「いまのキャッチボールで日本一になれるんだろうか」「いまのノックで日本一になれるんだろうか」「こんな掃除の仕方で日本一になれるんだろうか」と。

日本一と言ったから日本一になれるわけではありませんが、意図的に繰り返すことで、本気で日本一を目指す風土が醸成されていくと感じています。

指導者が常日頃どのような態度で子供たちと接し、どのような言葉を発しているか。それによってチームの成長、勝負の分かれ目が決まる――。

20年近く監督を続けてきたいまの私の実感です。


(本記事は月刊『致知』2017年12月号 特集「遊(ゆう)」に掲載された西谷浩一さんのインタビュー「チームを日本一に導くもの」より一部抜粋・編集したものです)

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◉《関連情報》『致知』2022年9月号の特集テーマは「実行するは我にあり」。監督として7年間でチームを5度日本一へと導いた球界の雄・工藤公康さんを筆頭に、不断の実行で道を開いてきた各界の先達にご登場いただきました。

◇各界より『致知』へメッセージをいただきました◇

『致知』と出会ってもう10年以上になる。人は時代の波に振り回されやすいものだが、『致知』は一貫して「人間とはかくあるべきだ」ということを説き諭してくれる。人生において、そうしたぶれない基軸を持つということがいかに大事であるか、私のような年代になると特に強くそう感じる。最近では若い人の間にも『致知』が広まっていると聞く。これからは私も『致知』に学ぶだけでなく、その学びのお裾分けを周りの方にしていきたいと考えている。
 ――王貞治/福岡ソフトバンクホークス球団会長

『致知』と出合ったのは2002年、プロ野球の村田兆治さんと対談をさせていただいた時から愛読しています。最近の若者は本を読むことを嫌う人が多いんですけど、『致知』は若者こそ読むべきだと思います。誌面に登場される方々の生き様、考え方を自分の中でシェイクして、自分に必要なものを心に刻んでいく。ぜひそういう読み方をしてもらいたいと思います。
 ――井村雅代/アーティスティックスイミング日本代表ヘッドコーチ

知人の紹介で初めて『致知』を読んだことを今でも良く覚えています。まだまだ駆け出しの監督として答えのない決断、非常の決断に苦しんでいた私を勇気付け背中を押してくれました。それから長い時間経った今も目の前の事で視野が狭くなっている自分に本質を思い出させてくれ、新しい気づきと成長を与えてくれる大切な師、それが『致知』です。ありがとう。
 ――岡田武史/サッカー日本代表元監督


◇登場者紹介
西谷浩一(にしたに・こういち)
昭和44年兵庫県生まれ。報徳学園高校、関西大学で野球をプレー。平成5年大阪桐蔭のコーチとなり、10年11月から監督に就任。13年にコーチに戻ったが、14年秋に監督復帰。これまで甲子園出場15回(春8回、夏7回)のうち、優勝6回(春3、夏3)で歴代最多タイ。西岡剛、中村剛也、中田翔、藤浪晋太郎ら、幾多の逸材をプロに輩出している。

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