明治の偉人たちを育てた吉田松陰の人材育成力

松下村塾で僅かな間に、多数の明治の偉人たちを育てた吉田松陰。その人材育成の秘訣はどこにあったのでしょうか。作家の童門冬二さんと京都大学名誉教授の中西輝政さんに語り合っていただきました。

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長短を組み合わせた松陰の人材育成

(中西)
地方の名もない松下村塾がなぜあれだけ多くの逸材を輩出できたのか、関心が尽きませんが、入門時、既に師を迎える心の準備ができていた意識の高い弟子たちがいたことは確かでしょう。久坂などは松陰と出会った途端、すぐに師弟の深い絆を結んでしまった印象すら受けます。

(童門)
そうですね。

(中西)
久坂は強烈な憂国の情にかられて松陰の門を叩いている。そして松陰と問題意識を完全に共有している。先ほどの法然と親鸞もそうですが、劇的な機縁と申しますか、火花が散るような出会いがそこに生まれたのでしょうね。
 
これは久坂に限ったことではありません。他方、直接薫陶を受けなくても松陰の魂に感奮興起する人たちがいました。私は松陰の弟子で日本法律学校(現・日本大学)を創設した山田顕義の研究によって明治の政治家や外交官を学ぶ機会が多かったのですが、乃木希典も兒玉源太郎も、山田をとおして間接的にしろ松陰の教えに触れ啓発されているんですね。

松陰が強調してやまなかった国家の柱石を担う人間としてのモラルを乃木も兒玉もしっかり身につけている。それが日露戦争を勝利に導いた一因と申し上げても過言ではないでしょう。

(童門)
高杉や伊藤が松陰に惹かれた理由の一つには、藩校の講義が面白くなかったこともあると思います。句読点がどうとか解釈がどうとか、型どおりのことしか教えないことに高杉は呆れるんですね。一方で、アンチ藩校で型破りな彼には、松陰の教育はピタッとはまるものがあった。

(中西)
高杉のあの滾るような行動力を、学問をとおして一つのチャネルに向け、国の未来を考えられるような人間に育て上げたところにも松陰の偉大さがありますね。

(童門)
しかも、人間の長短を見事に組み合わせるんです。高杉が入門してきた時、松陰は「高杉君は社会常識は身につけているが、学問が足りない。足りない学問は久坂君に補ってもらいたまえ。久坂君に足りない社会常識は君から教えるようにしたまえ」と言ってコンビを組ませるんですね。松陰は門人同士の切磋琢磨によって新しい人格を生むことの妙を知っていたのでしょう。

松陰の「士規七則」には「徳を成し材を達するには、師恩友益多きに居り」(人としての徳を身につけ才能を開かせるには、師の恩や友からの益が多い)とありますが、味わい深い言葉です。

(中西)
その松陰は、まだ20代の若者でありながら、まさに人間観察の達人と言うべきですね。自分の学問だけでも手いっぱいなはずなのに、一人ひとりの弟子を実によく見ている。弁に長けた伊藤博文に「君は周旋に向いているよ」と言ったのもその一例です。伊藤は師の言葉のとおり、政治や外交の場でその天分をいかんなく発揮しましたからね。
 
松陰は戦後、何か狂信的なイメージで捉えられてきました。しかし、本当は大きな視野とバランス感覚と人間観察力が組み合わさった優れた指導者だったことは間違いありません。


(本記事は月刊『致知』2017年7月号特集「師と弟子」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇童門冬二
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どうもん・ふゆじ――昭和2年東京生まれ。東京都庁にて広報室長、企画調整局長を歴任後、54年に退職。本格的な作家活動に入る。第43回芥川賞候補。平成11年勲三等瑞宝章を受章。著書は代表作の『小説上杉鷹山』(学陽書房)をはじめ、『人生を励ます太宰治の言葉』『楠木正成』『水戸光圀』(いずれも致知出版社)『歴史に学ぶ成功の本質』(ロングセラーズ)『歴史に学ぶ「人たらし」の極意』(青春出版社)など多数。

◇中西輝政
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なかにし・てるまさ――昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。平成2年石橋湛山賞。9年毎日出版文化賞、山本七平賞。14年正論大賞。著書に『賢国への道』(致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)など多数。

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