「料理の鉄人」が語り合う、世に出る人の〝修業時代〟の過ごし方

〝和の鉄人〟道場六三郎さん、〝フレンチの鉄人〟坂井宏行さん。かつて「料理の鉄人」としてメディアに出演し、名だたる料理人から挑戦を受けてきたお2人ですが、その若き日の修業時代のお話は、多くの成功者に共通する仕事の心得を説いて余りあります。齢を重ねてなお、仕事に熱い情熱を傾ける鉄人の言葉――。

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仕事だけは鬼にならなきゃダメ

〈坂井〉
料理の世界に入られてみて、いかがでしたか。

〈道場〉
先輩やオヤジさん(親方)から非常にかわいがってもらえて、別段辛いことってなかったですね。

僕は調理場でもなんでも、いつもピカピカにしておくのが好きなんです。例えば鍋が煮こぼれしてガスコンロに汚れがつく。時間が経つと落とすのが大変だから、その日のうちに綺麗にしてしまう。そういうことを朝の3時、4時頃までかかっても必ずやりました。

それで、オヤジさんが来た時に「お、綺麗やなぁ」と言ってもらえる。その一言が聞きたくて、もうピカピカにしましたよ。だからかわいがってもらえたんですね。

それと、毎日市場から魚が入ってくるんですが、小さい店ですから鯛などは1枚しか回ってこない。でも僕は若い衆が大勢いる中で、その1枚を自分でパッと取って捌(さば)きました。そうしないと、他の子に取られてしまいますから。

ただ最初のうちはそういうことを、嫌だなぁと思っていたんです。というのも、「いいものは他人様に譲りなさい」と親に言われて育ってきましたから。

半年ぐらい随分悩んだんですが、でもそんなことばかりをやっていたら、自分は負け犬になってしまう。だから僕も、まだ青いなりに「仕事は別だ」って思ったんですよ。仕事だけは鬼にならなけりゃダメだ、と。そう思って、パッと気持ちを切り替えたんです。

〈坂井〉
厨房でただのお人好しというのでは仕事になりませんからね。

〈道場〉
結果的にそういう姿勢が先輩や親方からも認められ、それからはもう、パッパ、パッパと仕事をやるようになりました。

〈坂井〉
我われの世界というのは、AとBという人間がいたら、やっぱり要領がよくて、先輩たちにかわいがられる人のほうが仕事を与えてもらえますからね。

だから道場さんがおっしゃったように、先輩たちが仕事をしやすいように調理場を綺麗にしておくとか、魚の鱗を引いておくとか。そういうことを日々重ねていくと、先輩たちにかわいがられるし、あいつは仕事を任せても大丈夫だと思ってもらえ、次の仕事も早く覚えられるようになるんですね。

使われやすい人間になれ

〈道場〉
僕の若い頃には「軍人は要領を本分とすべし」とよく言われたものです。要領、要するに段取りでしょうな。

だから要領の悪い奴はダメなんですよ。そうやって先輩に仕事を教えていただくようにすることが第一。仕事場の人間関係でも一番大事なのは人に好かれることで、もっと言えば「使われやすい人間になれ」ということでしょうね。あれをやれ、これをやれと上の人が言いやすい人間になれば、様々な仕事を経験でき、使われながら引き立ててもらうこともできるんです。

ただし、ダラダラと働いても仕事って覚えられないんですよ。自分でテーマをつくらないと。僕の場合は若い頃から、今年は何と何と何と何とを覚えようと、必ずノートに書くようにしてきました。

〈坂井〉
なるほど、1年のテーマを。

〈道場〉
そしてそれをなんとか仕上げるよう努力していく。今年は何をする、そして1年が過ぎる。来年は何をする、俺ができないのはなんだ? と。それを探して、今年はこれとこれだけは覚えようということで、一つずつ自分の課題をこなしてきました。

結局のところ、ものを覚えるというのは、覚えるべきことを自分で探すことから始まるんじゃないですか? 教わろうという気のある者は、自ら盗むようにして学び、吸収していく。人から言われて嫌々やっていたのでは、いつまで経っても成長しませんね。

例えばだし巻きのつくり方なんかを覚えるのでも、いまここに置いてあるようなタオルをだし巻きの形にして空の鍋に入れ、上手に返す練習をする。そんなふうにいろいろなものを使ってよく訓練をしました。

〈坂井〉
僕もジャガイモのシャトー剥きというのをやるのに、玉子で練習したりしていましたね。

また当時の僕は、きょう与えられた仕事はきょう中にやってしまう、クリアする、明日に延ばさないということを常に心掛けていました。

我われの修業時代は石炭ストーブの時代ですから、朝、火をおこすのに結構時間がかかってしまうんです。だから前の晩に炭を全部掻き出しておき、先輩たちが来られた時に、すぐ仕事ができるような段取りをしておく。

とにかく自分は料理人として生きていくんだという自負の中で、早く仕事を覚えたいという思いがあった。そして5年後にはシェフになるぞ、10年後には店を持つぞというように、自分の目標を5年先、10年先、20年先と持って、それをクリアするために、きょう何をしなくちゃいけないかをいつも考えていました。

要は人よりいかに早く手を動かして早く仕事を覚え、自分の料理を出せるようになれるかということです。


(本記事は月刊『致知』2012年4月号 特集「順逆をこえる」より一部抜粋したものです)


王貞治氏、稲盛和夫氏、井村雅代氏、鍵山秀三郎氏、松岡修造氏など、各界トップリーダーもご愛読! あなたの人生、仕事、経営を発展に導く珠玉の教えや体験談が満載、月刊『致知』のご購読・詳細はこちら各界リーダーからの推薦コメントはこちら

●道場六三郎さんから『致知』へのメッセージ●父の想い出の中に、いつも枕元に修養書が有りました。今、私の枕元には『致知』が有ります。『致知』のおかげで安心して日送りが出来ます。
私は店の者にも子供にも、『致知』は「人生航路の羅針盤」、また、どこへ流れて居るのか不安な時の「凧の糸」とも伝えています。風の流れ、世の流れ、何処に流れるのか、糸を手操れば足元に帰ります。料理の世界も同じ事。世界で泳ぎ基本に帰る。温故知新。人間の常識本、それが『致知』です。

●坂井宏行さんから『致知』へのメッセージ●この本に出会い、昔からの教え「温故知新」の大切さをあらためて感じることができました。そして経営者としてぶれない軸を持つための教科書となっています。これからも多くの人々の指針であり続けてください!!

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