シンクタンクの社長から養蜂家へ 世界一のハチミツをつくる船橋康貴さん

「ハニー」さんの愛称で知られる養蜂家、船橋康貴さんは、もとはシンクタンクの社長を務められていたそうです。51歳にして地位や名誉、財産をすべてなげうって、つなぎ姿で日の出とともに仕事場に向かう生活に入りました。日本では養蜂家としてなかなか目が出なかったことから、一念発起して一路ハチミツの本場パリへ。そこで待ったいたのは、まるで映画のシナリオのような出来事でした。

シンクタンクの社長から養蜂家への転身

長年シンクタンクの社長を務められていた船橋さん。転機となったのは、女生徒たちの切実な声でした。

「ある環境問題の講演後に若い女の子が僕の前に来て、『先生、私たち、子供を産まないほうがいいですよね』って話し掛けてきたんです。彼女には未来への希望の代わりに絶望しかなく、『こんなに生きづらい世の中で、しかも環境までめちゃめちゃなのに、これから子供を産み出すってことは、その子に苦労を強いることですよね』って。それも一人じゃなく、何人かに言われました。

 同じ時期に中学二年生の女の子が、環境問題についてインタビューをしたいと訪ねてきたことがありましてね。環境問題って、結局は人間の話になるんですけど、話の途中でその子が急に泣きじゃくりながら、『船橋さん、生きるって何ですか? 人生って何ですか? 私の周りの友達がみんな下を向いて病気になっていきます。私たちを助けてください』って叫ぶように訴えてきたんです」

自分の無力さを痛感した船橋さんを待っていたのは、ある養蜂家との出会いでした。

「その直後に、たまたま知人に誘われたのがきっかけである養蜂家を訪ねました。実際にミツバチを見たり、75歳の養蜂家にミツバチが危機的状況に置かれていることなど聞いているうちに、僕は稲妻に打たれたような感覚に襲われて、ハッと気づいたんです。そうか、ミツバチを先生にして教えてもらったら、きっとすべてが解決するだろうって」

こうしうて、それまでの地位や名誉のすべてを捨てて、船橋さんは養蜂家の世界へと飛び込んでいったのでした。

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パリの奇跡

ところが、ハチミツづくりに自信のあった船橋さんですが、思ったようにハチミツが売れません。そこで一念発起してハチミツの本場、パリへと旅立ちました。

「パリに着いたらすぐにシェフやパティシエ、ハチミツ専門店の方々に会いに行きました。すると口々に『これは世界一のハチミツだ』と言ってくれましてね。ある店では、『すぐに四千個持ってきてくれ』って頼まれました。そればかりか、まるで水戸黄門の印籠のように、僕がハチミツを持っていくと、ビックリするくらいもてなしてくれるんです」

次々と不思議なことが船橋さんの身に起こりますが、それにはちゃんと訳がありました。

「これは後で知ったことですが、向こうでは「ハチミツの味は、つくり手の人生そのもの」という考え方があって、『世界一おいしいハチミツをつくる君は、世界一の人間だ』となる。それでどこに行っても、僕をVIPのように扱ってくれたんです」

 パリに行く前に、船橋さんは三つの目標を立てていましたが、その一つが屋根裏で養蜂を行っていることで有名なオペラ座を訪ねることでした。もちろん、なんの前触れもなく訪れるわけですから、門前払いをされても仕方がありません。ところが持ち前の度胸で警備員のいる入口を満面の笑みですり抜けていった船橋さん。ついにたどり着いたのは……

「その騒ぎを聞きつけて、警戒感露わに現れたのが、俳優のリチャード・ギアのようにオーラのある人物で、ひと目で総支配人だと僕には分かりました。ただ、ここであれこれ言ったところで放り出されると思ったので、ハチミツの蓋を開けて、彼の口元に持っていったんです。屋根裏で養蜂をやっているくらいですから、彼は僕のハチミツにも興味を持った。ひと口食べてくれたその瞬間でしたね、彼の態度がガラッと変わり、『大変失礼いたしました。どうぞこちらへ』って丁重に総支配人室へと案内されたのは(笑)。

こうして、パリでの出来事をきっかけに、養蜂家として地位を確立した船橋さん。インタビューでは養蜂家として子供たちを対象にした「ハチ育」についてや、ミツバチの生き方から私たちは何を学ぶべきかについてたっぷりとお話しいただきました。

(本記事は『致知』2018年7月号 特集「人間の花」より一部抜粋したものです。全文は7月号をご覧ください)

◇船橋 康貴(ふなはし・やすき)

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昭和35年愛知県生まれ。中京大学卒業後、信販会社に就職。平成13年環境シンクタンクを設立。名古屋工業大学大学院で産業戦略工学専攻。51歳で養蜂家の道に入る。24年一般社団法人ハニーファームを設立、代表理事を務める。

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