2018年06月05日
昔から「書は人なり」と言われ、人物の実像はその人の各文字にはっきり表れるとされてきました。40年近く筆相の研究に取り組んできた森岡恒舟さんに、歴史上の人物から、現代を生きる著名人の事例を交え、筆相と運命の関係について伺いました。
筆跡は変化させることができる
(森岡)
ここまでご紹介した実例を通じて、筆相とその人の人物像や運命との関連性を多少なりとも感じていただけたことと思います。
では、もし筆跡に好ましくない傾向が表れていたとすれば、それは改めるべきでしょうか。
文明は大河の流域で発達しました。河の氾濫を防ぎ、大河の水を引いて農業用水路をつくり、その恩恵で生活が豊かになり、文化が花開いたのです。
溢れる箇所があれば水をはかせ、堤防をつくり、水が不足するところは水路を引く治水のように、人間の行動も自然のままに任せるのではなく、よりよい建設の努力があってしかるべきでしょう。
筆跡は人間の行動の一つの特徴です。同じ行動が繰り返されることにより、ある形に収束していまの筆跡ができあがっています。
しかし筆跡は決して成り行きで固まってしまうものではなく、灌漑のように意図的に変化させることも可能です。そして、筆跡を変えればそれとセットになっていた性格や行動傾向も変わります。それは無意識下の深層心理が変わるからです。
治水工事が大きな困難を伴うように、筆跡を変えることも大きな努力を要します。しかし、いまの書き方に不都合があれば、それを直す努力をするのとしないのとではその後の人生も大きく違ってくると思います。
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書く習慣が変われば、行動が変わる
粘りのない人に対して「粘り強くなれ」といくら口で言い聞かせても、深層心理が変わらなければその人の行動も変わりません。
逆に口で言われなくても、筆跡を変え、手の行動習慣を通じて深層心理を変えてゆけば、抵抗なく行動を変えることができるのです。
冒頭で、「口」という字の下の締まりが悪い人は、実生活においても集中力が続かず、無責任な傾向があると記しました。同様に「子」という字の下をはねない場合、最後のところで力が入らないため、やはり粘り強さや根性に欠け、非行に走ったり不登校に陥るケースが非常に多いのです。
しかし、病気の原因である栄養不足をサプリメントで補うことで病気が改善するのと同様に、文字の締まりをよくしたり、最後でしっかりはねたりすることは、半年も訓練を重ねればだいたい新しい習慣として身についてきます。
文字を書く時におしまいまでしっかり力を入れて書く習慣が身につくと、他の行動まで変わってくるのです。
その人の行動習慣とそのもとになっている深層心理を、自然の成り行き任せにするのではなく、筆跡をコントロールすることを通じて理想的な状態に改善していく。
私はこの発見を、治水文明ならぬ「治筆文明」と名付けてさらに研究発展させていきたいと考えています。
(本記事は『致知』2011年9月号特集「生気湧出」より一部抜粋したものです。全文は本誌をご覧ください)
森岡恒舟(もりおか・こうしゅう)
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昭和8年香川県生まれ。34年東京大学文学部心理学科卒業。会社勤務を経て、50年書道学院設立。55年頃より筆跡学研究に没頭。60年警視庁嘱託筆跡鑑定人。平成4年より筆跡診断士育成活動を推進。現在、相藝会書道教育学院学院長、相藝会筆跡鑑定研究所所長を兼務。著書に『ホントの性格が筆跡でわかる』(旬報社)、『第三の発見 筆跡の科学』(相藝会)などがある。