“刑事魂”で人々の幸せを守り抜く——元刑事の異色コンサルタント・森 透匡の挑戦

2011年3月12日。東日本大震災発生の翌日、広域緊急援助隊の中隊長として赴いた被災地の惨状を目の当たりにした刑事の森 透匡さんは「人生はこんなにも簡単に終わってしまうのか……」と茫然自失。自分の使命を求め始めた先に辿り着いたのは、それまでに培ってきた技術を人のために活かすことでした。現在「刑事塾」を主宰し、その聴講者から驚きと感謝の声が上がり続ける森さんの半生をお話いただきました。

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46歳、経験ゼロからのスタート

困っている人を助けられる立派な仕事に就きたい――幼い頃から人一倍正義感が強かった私は、昭和59年、高校卒業と同時に千葉県警へ奉職しました。勉強を重ねて試験を次々に突破し、通常より5~6年早い23歳で刑事に。知能・経済犯を扱う捜査二課に配属され、詐欺や贈収賄などの事件を担当し、35歳で警部になりました。

様々な人物の捜査や取り調べに携わり、経験を重ねていく日々は非常に充実したものでした。しかし立場が上がるにつれて組織の壁にぶつかることも多くなり、

「自分の思うように仕事ができたらもっと能力を発揮できるのではないか……」

そんなことをぼんやりと考えるようになっていたのです。

そのような中で、人生の転機となったのは平成23年の東日本大震災でした。地震発生後、私は災害対応のために組織された広域緊急援助隊の中隊長として派遣され、福島県浪江町で避難誘導をしていたのですが、突然「原発が爆発しました!」という報せが飛び込んできたのです。

放射線から身を守る防護服などもなく、とにかく部下たちと着の身着のまま避難するだけで精いっぱいでした。

そして避難先の南相馬市で目の当たりにしたのは、津波で犠牲となった何の罪もない人々のご遺体でした。それまで刑事として数々の事件を担当し、死を覚悟して仕事に向き合ってきたつもりでしたが、人の命がいとも簡単に奪われる現実に衝撃を受けました。

「人生はこんなにも簡単に終わってしまうのか……。生きているうちにやりたいことに挑戦しないといけない」

世の中のために自分にできることは他にないのだろうかと、独立への思いを強くしていったのはこの頃です。被災地での任務を終えると、同僚に内緒で起業セミナーに参加、志高い仲間との出逢いに刺激を受け、独立への思いは日に日に強まっていきました。

そして震災から1年半が経った平成24年8月、私は警察を辞め、独立。その当時私は46歳、妻と2人の子供がおり、勇気の要る選択でしたが、元刑事の自分にしかできないこと、伝えられないことがあるはずだという自信がありました。

取り調べの際、嘘をついている犯人は必要もないのに口元や髪を触ったり、そわそわして足を組み替えたりする傾向があります。こうした何気ない仕草から相手の本心を見抜いていく刑事の技術は、日常のコミュニケーションや経営にも役立つのではないかと考えたのです。そうして思い至ったのが、私が刑事として培った経験・技術を広く一般に伝える「刑事塾」でした。

経営者は誰にも言えない「人の悩み」を抱えている

その第1回目は、受講料3,000円、「元刑事が教えるウソの見抜き方」と題して千葉県内で開催し、知人を中心とした約十五名の受講者からは好意的な反応が返ってきました。その後も各地の交流会で名刺を配ったり、SNSで情報を拡散したりして認知度を高め、受講者を集めていきました。

しかし、諸々の経費を差し引いた講座1回の手取りは5万円ほどで、最初は興味本位で来てくれても2回、3回とリピートしてはくれません。

これでは食べていけないと危機感を覚え、マーケティングをはじめ様々な本を読み漁り、貪欲に勉強しました。独立から数年間は苦しい日々が続きましたが、ある講師派遣業社とご縁を得たことで、商工会議所や銀行、保険業界などから徐々に仕事をいただけるようになっていったのです。

その中で気づいたことがあります。それは、特に中小企業経営者の多くが人材の育成や採用、社員の不正防止など「人」に関する問題を誰にも相談できずに抱え込んでいるという事実でした。

経営者の方から相談を受け、社員や商談相手の些細な言動から嘘を見抜き、本心を確かめる質問方法や、相手が欲しているものを見抜くポイントを伝えてあげると、「社員や商談相手が考えていることがよく理解できるようになった」などと非常に喜んでいただけたのです。

その後も多くの経営者の悩みに寄り添う中で、元刑事としての経験が「人」に関する問題解決の助けになることを実感し、これこそ自分の果たすべき使命なのだという確信を深めていきました。おかげさまで現在は年間200件近い講演を行い、経営者や幹部向けの研修・セミナーにも多くの方に参加いただいています。

独立当初は苦しい時期もありましたが、そのような時に心の支えになったのは、プロ野球オリックス元監督の故・仰木彬さんの座右の銘“信汗不乱”という言葉です。流した汗は決して自分を裏切らない――どんな状況でも決して諦めず必死の努力を続けていれば、結果は必ず返ってくるというのが私の実感です。

いまの私の目標は、警察で刑事塾を開講し、現職の警察官、刑事に自分が培ってきた経験を伝えることです。

実は人の心理の見抜き方を体系的・実践的に教える場は、警察にはありません。彼らに自分の経験や技術を伝えることによって、捜査や取り調べの質が向上し、ひいては治安の向上にも繋がっていくはずです。そして、それが自分を育ててくれた警察への最大の恩返しになると思うのです。

また、日本では高齢者や企業を狙った詐欺など、人の善意につけ込んだ犯罪が多発しています。皆が安全・安心して暮らせる社会を実現するために、これからも“刑事魂”を失わず、人の心を見抜く技術を一人でも多くの方に伝えていければと願っています。


(本記事は月刊『致知』2019年6月号 連載「致知随想」から一部抜粋・編集したものです

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◇森 透匡(もり・ゆきまさ)
刑事塾 塾長/経営者の「人の悩み」解決コンサルタント

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