知の巨人・渡部昇一が「年に一度は読み返した」運を引き寄せる方法——幸田露伴の人間学

明治から大正、昭和にかけて活躍した文豪・幸田露伴。数々の小説のみならず『努力論』や『修養論』など、人生修養――自らを高め、人生を発展させる秘訣を説いた随想も書き残していることで知られています。故・渡部昇一先生は生前、そんな露伴の『努力論』を座右の書とし、自己を鼓舞してきたといいます。知の巨人が掴んだ「運を引き寄せる生き方」に迫ります。

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失敗を自分のせいにする

〈渡部〉
私はいま(掲載当時)、齢八十六を数えました。『努力論』はいまも私の座右にあり、年に一度は読み返しています。そこに示されている人生の要訣は常に私の思いを新たにし、その実践に向かわせます。

露伴は人生における運を大切に考えています。運というと他に依存した安易で卑俗な態度のように思われがちです。だが、露伴の言う運はそんなものではありません。その逆です。

露伴は人生における成功者と失敗者を観察し、一つの法則を発見します。露伴は言います。

「大きな成功を遂げた人は、失敗を人のせいにするのではなく自分のせいにするという傾向が強い」

物事がうまくいかなかったり失敗してしまった時、人のせいにすれば自分は楽です。あいつがこうしなかったからうまくいかなかったのだ――あれがこうなっていなかったから失敗したのだ――物事をこのように捉えていれば、自分が傷つくことはありません。悪いのは他であって自分ではないのだから、気楽なものです。

運命を引き寄せる二本の紐

だが、こういう態度では、物事はそこで終わってしまって、そこから得たり学んだりするものは何もありません。

失敗や不運の因を自分に引き寄せて捉える人は辛い思いをするし、苦しみもします。しかし同時に、「あれはああではなく、こうすればよかった」という反省の思慮を持つことにもなります。それが進歩であり前進であり向上というものです。

失敗や不運を自分に引き寄せて考えることを続けた人間と、他のせいにして済ますことを繰り返してきた人間とでは、かなりの確率で運のよさがだんだん違ってくる、ということです。

露伴はこのことを、運命を引き寄せる二本の紐に譬えて述べています。

一本はザラザラゴツゴツした針金のような紐で、それを引くと掌は切れ、指は傷つき、血が滲みます。それでも引き続けると、大きな運がやってきます。だが、手触りが絹のように心地いい紐を引っ張っていると、引き寄せられてくるのは不運であるというわけです。

幸運不運は気まぐれや偶然のものではありません。自分のあり方で引き寄せるものなのです。

「失敗をしたら必ず自分のせいにせよ」

露伴の説くシンプルなこのひと言は、人生を後悔しないための何よりの要訣です。


(本記事は月刊『致知』2016年10月号 特集「人生の要訣」より一部を抜粋・編集したものです)

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 【著者紹介】
◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c.。平成13年から上智大学名誉教授。著書は専門書の他に『日本の活力を取り戻す発想』『歴史の遺訓に学ぶ』など多数。最新刊に『渡部昇一一日一言』(いずれも致知出版社)。

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