天から梯子が下りてくる生き方

追悼 渡部昇一先生~知の巨人が遺した教え~

 

 

 
オックスフォードへの留学など、輝かしいキャリアを歩んできたかのように思われる渡部昇一先生。しかし、その道のり、節目節目には運、偶然があったといいます。その運と偶然をいかに必然に変え、仕事や人生をよりよき方向に好転させていくか――。渡部先生に語っていただきました。

■天から梯子が下りてくる

6年以上、誰からも褒められずぽつらぽつらやっていて、ゆうべ見た単語が出された。これは確率では説明できません。一つひとつの地道な努力が、不思議な具合に偶然繋がって生きてくるんですよ。

まぁ、天から梯子が下りてきたような感じなんですな。天というのは不思議でね、一度梯子を下ろすと、下ろす癖がつくんです。

それで天から下りてくる梯子ですけど、ただコツコツ勉強をやればいいというのでは、不十分だと思うんですね。それで付け加えれば、虫のいいことを考えなさいと。

コツコツやると憂鬱になる人がいるんです。神様はね、憂鬱な人が嫌いなんですよ。だから、虫のいいことを考えてね、好きなことをコツコツやりなさいと。

しかし、自分の仕事をさぼっては駄目だ。普通の仕事は人一倍やりながら、内発的にやるものがあったならば、やりなさいよと言っているんですね。やっぱり虫のいいことを考えると、勉強していても、人相がよくなるんです。

そうすれば人付き合いもよくなるしね。それはほとんど法則と言っていいほど当たります。

■潜在意識は現実に作用する

私は若い頃、マーフィーという人が書いた潜在意識に関する本を読みました。人間は意識的に他人と交流したりする一方で、意識できない潜在意識のほうも知らない形で他人、そして世界とも繋がっているという学説があるんですね。

だから、潜在意識で起こったことは、どういう結果になるかは事前に分からないにせよ、現実として現れる。それを非常に通俗的に説明したのがマーフィーという人でした。

 私は西ドイツに行って、イギリスにも行きました。当時西ドイツは敗戦国ですよ。負けた国から行ったら、なぜか戦勝国のイギリスのほうが暗い雰囲気なんです。その頃は労働党が政権を握っていて万事物質的に不自由でした。その時に、マーフィーが言っていたことが分かった気がしたんですよ。

 彼の本は、簡単に言えば虫のいいこと、自分の好きなことをやりなさいと。そして虫のいいのが潜在意識に通じて、現実に影響を及ぼしていくという話です。アメリカはどうかというと、ケネディが出る前の、それこそ輝かしい国でね。人が内発的に、勝手に夢を抱いて努力する国でした。西ドイツもそうだったんです。

ところがイギリスはそうではない。要するに、私は社会主義は駄目だと実感しました。一人ひとりが好き勝手に夢を抱いて、コツコツやれる世界、これが自由の世界であって、栄える世界であると分かったんですよ。

■自分を高めることが大事

私が『致知』と縁があったのは三十年以上前ですね。「人間学」というのは、まさに何に対して自分を高めるかですよ。言い換えれば、それは自分が虫のいいことを考えたほうに近づけることなんですね。

ただ、それが大泥棒だったりしたら困るので、そこには立派な思想がなければならない。そこですね、『致知』のいいところは。

自分を高める――。そんなことを言うと、いかにも努力みたいですけど、それは虫のいいことを目指してコツコツやることなんですね。それに尽きるんですよ。そうすると天から梯子が下りてくるんです。その梯子は一回下ろせば、下ろし続けてくれるんです(笑)。

そういうことを勧められたら、決して損はしないであろうことを私の八十数年の体験から断言したいと思います。

※(本記事は『致知』2014年2月号掲載記事の一部を抜粋したものです)

【著者紹介】

◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)

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昭和5年山形県生まれ。30年上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c.平成13年から上智大学名誉教授。

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