偉人の父親学――ベートーヴェンを大成させたもの

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子供たちの成長に大きな影響を与えるのは、身近にいる母親ばかりではありません。父親の考え方や生きる姿勢もまた、その成長に少なからぬ影響を及ぼします。評論家の木原武一さんは、優れた業績を残した偉人たちの才能を育んだ父親の姿を研究してこられました。ここではパスカルの父親と、それとは対照的なベートーヴェンの父親の2人を取り上げてみたいと思います。

我が子を学校に行かせなかったパスカルの父親

「人間は考える葦である」の名言で知られる哲学者パスカル。彼が生きたのは17世紀、王政時代のフランスです。父親は社会的地位の高い徴税官(いまの日本の国税庁の役人に相当する)でしたから、家庭も富裕でした。姉が記した伝記によれば、パスカルは物心ついた頃から大変聡明だったようです。何かを質問されると的を外さない返答をしたり、物事の本質に迫る質問を発したりして周囲を驚かせたというエピソードも残しています。

 そんなパスカルを大切に育てたのが教育熱心な父親でした。では、どんな父親だったのか。木原さんはこう述べています。

 彼(父親)は多くの有名な学者と交際があり、学問全般に通じた教養豊かな人物であった。我が子の並外れた能力に驚嘆した彼は、徴税官の職を辞し、土地をすべて売り払って利子生活を営みながら、我が子を学校に行かせず自ら教育したのである。

父親の決断が功を奏し、パスカルは後に哲学者、自然哲学者、物理学者、思想家、キリスト教神学者と交わり、多方面にわたりその才能を遺憾なく発揮したが、最初に開花したのは数学の才であった。彼はわずか十六歳にして「円錐曲線論」という数学史上に残る論文を発表し、アルキメデス以来の天才と称賛された。

さらに18歳の時には、現代のコンピュータの礎となる計算機を発明した。なお、現在の気象観測で用いられているヘクトパスカルという気圧単位は、パスカルが自ら考案した測定器具によって高度による気圧変化を最初に証明したことに因むものである。

パスカルを学校に通わせず、自ら仕事を辞めて我が子の教育に人生を懸けたほどですから、その熱の入れようは半端ではなかったはずです。しかし、そのマンツーマン教育が決して特異なものではなく極めて常識的だったことは、パスカルに対する以下の教育方針を見ればよく分かります。

1、どんな場合でも、実力以上の勉強はさせないこと

2、理解できると見てとったあらゆることについて語ること

3、なぜそれを学ぶ必要があるのか、十分に理解させること

●「お父さん、お母さんのルーツ」など、WEBchichi教育記事はこちら

遊びたい盛りに無理にピアノに向かわせたベートーヴェンの父親

パスカルの父親と対照的なのが大作曲家・ベートーヴェンの父親でした。宮廷音楽家の一族に生まれたものの才能に恵まれず、大酒飲みで素行も悪かったようです。ベートーヴェンが幼い頃から才能を発揮し始めると、家庭での居場所を失いかけていた父親は、「自分が追い抜かれるのではないか」と、いつしか我が子に嫉妬心を抱き、才能を抑え込むようになるのです。木原さんは語ります。

当時の音楽家に重んじられたのは即興演奏であったが、父親はピアノの得意なベートーヴェンが即興的に演奏をしようとすると、そんなことをしてはいけないと叱りつけ、作曲に取り組もうとすると、まだ早いと息子の意欲を挫いたりもした。しかたなく、ベートーヴェンは父親が不在の間にピアノの練習や作曲をしたという。

その一方で父親は、ベートーヴェンが遊びたい盛りに無理やりピアノに向かわせたりもした。嫌がる息子に体罰を与える父の姿は、近所でも度々目撃され有名だったという。ベートーヴェンは後に故郷のボンを離れてウィーンへ出たが、以来一度も帰郷したことがなかった。彼が幼少期に、父親との関係でいかに辛い思いをしていたかが窺われる。

木原さんはさらに「皮肉なことではあるが、ベートーヴェンがそれを見事に乗り越えて大成したのは、幼い頃、自分を虐げる父親を通じて、苦境に耐える力が養われたことも大きいのではないかと思う。」とも述べています。

 同じ偉人であっても、その才能を花開かた環境や条件は様々。知られざる逸話に興味が尽きることはありません。

 (本記事は『致知』2018年6月号の記事を一部抜粋したものです。全文は『致知』最新号「父と子」をご覧ください)

 木原武一(きはら・ぶいち)

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昭和16年東京生まれ。東京大学文学部ドイツ文学科卒業。著書に『大人のための偉人伝』『続 大人のための偉人伝』『天才の勉強術』(いずれも新潮選書)『あの偉人たちを育てた子供時代の習慣』(PHP研究所)などがある。

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王貞治 氏

福岡ソフトバンクホークス球団会長

『致知』と出会ってもう10年以上になる。人は時代の波に振り回されやすいものだが、『致知』は一貫して「人間とはかくあるべきだ」ということを説き諭してくれる。人生において、そうしたぶれない基軸を持つということがいかに大事であるか、私のような年代になると特に強くそう感じる。最近では若い人の間にも『致知』が広まっていると聞く。これからは私も『致知』に学ぶだけでなく、その学びのお裾分けを周りの方にしていきたいと考えている。