2017年09月18日
奈良県天理市に佇む日本最古の神社の一つ、
石上(いそのかみ)神宮。
宮司の森正光さんと村上先生のお話からは、
日本の歴史の懐の深さがじんわりと伝わってきます。
森 正光(石上神宮宮司)×村上 和雄(筑波大学名誉教授)
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※『致知』2017年10月号
※連載「生命のメッセージ」P116
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【村上】
そもそも日本人の精神の中に、
そういった神話の世界が生きていると私は思います。
例えば、「おかげさま」という言葉がありますが、
これは外国語には訳せない。
「おかげさまで」と言うと、
外国人は「何のおかげですか?」と聞いてくるんですよ。
でも我われにしてみれば、神様でもご先祖様でも、
自分を少し越えたような存在を感じていればそれでいいんです。
「おかげ」というのは影なんですね。
表じゃない。これは陰と陽の世界にも通ずる話であって、
現れた現象の後ろにあるものに対して、
我われ日本人は「おかげさま」と言う。
それから「もったいない」という言葉も訳せないんですよ。
単に「節約する」という意味ではなくて、
その物をつくってくれた人への感謝の念が表されている。
こういった日本の精神的伝統というのは、
それこそ何千年と続いてきているわけで、
そう簡単には消えるものではないと私は思っています。
【森】
人間、目に見えるものばかりじゃなくて、
見えないものもやはり大切にしてほしいですね。
よく言われているじゃないですか、
「いまの世の中は心を大切にする時代だ」
って。確かにそうかもしれませんが、
私は物も大切にすべきだと思うんです。
というのも、いまは何でも使い捨てになってしまいましたが、
物を大切に扱う姿勢というのは、そのまま先生がおっしゃるように、
「おかげさま」「もったいない」の精神にも通じますからね。
心を大切にするとは、本当はそういったことだと思うんです。