箸よく盤水を回す 村上尚美(防衛省防衛医科大学校臨床心理士)

心理技官として、航空自衛隊横田基地で隊員のメンタルケアに尽力してきた村上尚美さん。現在は防衛医科大学校で関係者の相談業務に当たっている。元々は企業の会社員として働くも、「人の悩みに寄り添いたい」という一念で、心理士へ異色の転向。その後、メンタルクリニック、自衛隊と新たな環境に飛び込み、多くの人々の心に寄り添ってきた。村上さんは、心理士の仕事は一本の箸で大きな盥(たらい)の水を回すようなものだと語る。人の心を支えることは容易ではなく、時に無力感にも襲われる。それでも地道に、目の前の人に心を尽くし続ける。その生き方は、一途一心に歩む力を私たちに教えてくれる。

「箸よく盤水を回す」という言葉を大切にしています。自分の持ち場で、できることをコツコツ行う。
それがやがて大きな力になると信じて、目の前の人や仕事に丁寧に向き合います

村上尚美
防衛省防衛医科大学校臨床心理士

――村上さんは航空自衛隊で隊員の方々のメンタルヘルスに尽力されてきたと伺いました。

〈村上〉
2012年から航空自衛隊横田基地の臨床心理士として、隊員のカウンセリングや職場復帰支援、ストレスマネジメントのお手伝いなどをさせていただきました。2025年の5月からは防衛医科大学校の臨床心理士として、主に学生や教員、大学関係者、併設されている病院の職員などのカウンセリング等に携わっています。

――心理士になる前は一般企業に勤めていらっしゃったそうですね。

〈村上〉
はい。大学を卒業後、広告代理店に入社しました。現在の仕事とは無縁の日々を送っていましたが、人事部に配属された際に、社員から相談を受ける機会が増えたんですね。

仕事や家庭のことなど様々な相談を受ける中で、こちらの話の聞き方によって相手の満足度が違うことに気がつきました。その経験から「傾聴」について学びたいと思い、産業カウンセラーの資格の勉強を始めたのがこの道に入ったきっかけです。……(続きは本誌にて)

~本記事の内容~
◇会社員から心理士への転向
◇基礎となった恩師の教え
◇「できる男は心のメンテナンスをするんだ」
◇カウンセリングで大切な心得
◇レジリエンス・トレーニングの浸透に邁進

プロフィール

村上尚美

むらかみ・なおみ――昭和36年東京都生まれ。大学卒業後、広告代理店に入社。仕事の傍ら大学院に通い、臨床心理士の資格を取得。平成18年メンタルクリニックに転職し、心理士として臨床に携わる。24年航空自衛隊横田基地に心理技官として入隊。30年北里大学大学院医療系研究科博士課程修了。現在は防衛医科大学校の臨床心理士・公認心理師として主に相談業務に携わる。


編集後記

盥に目いっぱい注がれた水を大きく動かすことは容易ではない。しかし水の真ん中に一本の箸を立てて、静かに小さな円を描き続けると、やがてはうねりとなって大きく回り出す――。心理士の仕事もまさに同じことだと村上さんは語ります。これは心理士に限らず、万事に通ずる真理なのではないでしょうか。目の前の人や事に心を尽くすことの重要性を教えられるインタビューです。

2026年1月1日 発行/ 2 月号

特集 先達に学ぶ

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