一流への道はかくして拓かれた 坂井宏行(ラ・ロシェル店主) 後藤雅司(シャトー ラ・パルム・ドール オーナーシェフ)

言わずと知れたフランス料理界の巨匠で、83歳のいまも現役を貫く「ラ・ロシェル」店主の坂井宏行氏。独立して46年になる。その坂井氏に憧れ、伝説の人気番組「料理の鉄人」でかつて対決した経験を持つ後藤雅司氏、63歳。三重県津市に「シャトー ラ・パルム・ドール」を構え、今年開業25周年を迎えた。20歳の差はあれど、修業時代に徹底して腕を磨き、数々の得難き出逢いに恵まれ、不退転の覚悟で絶体絶命の窮地を乗り越え、長く愛される名店を築き上げてきた道のりには驚くほど共通点が多い。一流のオーナーシェフはどこが違うのか。お二人の人間学談義に学ぶ。

人との縁や恩を大事にする。そういう姿勢がないと、その先にあるチャンスや運を掴み取っていくことはできません

後藤雅司
シャトー ラ・パルム・ドール オーナーシェフ

〈坂井〉 
後藤さん、お元気そうで!何年ぶり?

〈後藤〉
おそらく10年ぶりくらいですね。きょうは長年愛読している『致知』で、憧れのムッシュと対談の機会をいただき、喜び勇んで三重からまいりました。

〈坂井〉 
僕もこの本はずっと読んでいて、勉強になるところはいつもスタッフにも共有しています。

後藤さんと初めてお会いしたのは「料理の鉄人」での対決でしたから、もう長いですよね。

〈後藤〉 
あれは1997年なので、29年前です。ただ実はその10年前に、ムッシュのお店に仲間と一緒にランチを食べに行ったことがあるんです。ムッシュが45歳で、私が25歳の時。

〈坂井〉
ああ、そう。全然覚えていない(笑)。

〈後藤〉 
そりゃあそうですよ。僕らみたいな駆け出しの若い料理人が挙って見学に来ていたでしょうからね。いまでも忘れられないのはムッシュ自ら厨房を案内してくださったこと。20歳下の僕にすごくフランクに接してくれ、その懐の深さに感銘を受けると同時に、料理人の人間性がお皿にも現れることをつくづく感じました。

「夢は見るものではなく、達成するもの」。夢を達成するためには自分を信じて絶対に諦めないことが必要です

坂井宏行
ラ・ロシェル店主

〈坂井〉
僕は上下関係をつくるのがあまり好きじゃなくて、みんな仲間だと思っているので、「どうぞ、どうぞ」って。また、急にお客さんが入ってきても大丈夫なようにきちんと整理整頓して、綺麗にしておく。キッチンを見せられないようではダメだといつも言っているんですよ。それは当時もいまも変わりません。

〈後藤〉 
「料理の鉄人」で対決したのはまだ独立する前で、当然レベルが違ってボロ負けでしたけど、ムッシュはその時に手長エビのビスクをつくられました。それ以来、「ムッシュよりおいしいビスクをつくらなあかん」と思って試行錯誤を重ね、いまなお当店の定番になっているんです。

それと、対決した翌年の初めにムッシュから直筆の寒中見舞いが届きましてね。ものすごく達筆で「これから料理人として励んでください」という激励のメッセージをいただいて感動しました。

〈坂井〉
その後も、半年に1回くらい仕事で三重に行く機会があったので、何度か後藤さんのお店に足を運びましたね。

〈後藤〉
ディナーに2回来ていただきました。僕は手書きでメニュー表を書かせてもらっているんですけど、1回目はそれを持って帰られて、2回目はたまたま忘れられたんだと思います。見ると、メニュー表の余白に一つひとつの料理の感想が書かれてあったんです。この姿勢にも心を打たれました。

〈坂井〉
僕はどんなお店に行っても余計な観察はしないで素直に食べさせてもらうんですよ。その中で「これはいいな」と感じたことは自分の料理にもどんどん取り入れていく。特に若い人に積極的に投資をして、無の状態で味わうようにしています。……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容 ~全10ページ(約13,000字)~
◇料理人の人間性がお皿にも現れる
◇50年と25年、それぞれ欠かさない習慣
◇反骨心が1%の可能性を花開かせた
◇料理人以外の職業を考えたことは一度もない
◇修業時代の圧倒的な努力と心掛け
◇「物を大切にしなさい」2人の師から学んだこと
◇ひたむきにやっていれば必ず誰かが引き上げてくれる
◇苦難の時に支えとなった吉田松陰の覚悟
◇逆境の時に腐らず、順境の時に浮かれず
◇縁と恩を大切にする人が運やチャンスを掴む
◇「1000分の1」になる人の3つの共通点

プロフィール

坂井宏行

さかい・ひろゆき――昭和17年鹿児島県出水市出身。中学卒業後、17歳でフランス料理の世界へ。ホテル新大阪に入社し、働きながら夜は辻調理師専門学校に通う。19歳で単身オーストラリアに渡り、帰国後は銀座「四季」で3年間修業。「西洋膳所ジョンカナヤ麻布」などでシェフを務め、55年独立。南青山小原会館に「ラ・ロシェル」を開業。平成元年渋谷に移転。11年「ラ・ロシェル南青山」、14年「ラ・ロシェル福岡」、22年「ラ・ロシェル山王」をオープン。17年フランス共和国より農事功労章「シュヴァリエ」受章。

後藤雅司

ごとう・まさし――昭和37年三重県津市生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、四日市都ホテルや名古屋ヒルトンなどを経て、平成2年に単身渡仏。フランス各地のレストランで約2年修業。帰国後、三重県青山町の「リゾートパラデューム」で総料理長を務める。13年津市に「ラ・パルム・ドール」を開業。27年に移転し、結婚式場を備えた「シャトー ラ・パルム・ドール」をオープン。31年にパティスリーとブーランジェリーも併設。


編集後記

特集の巻頭を飾るのは、坂井宏行さんと後藤雅司さん、二人の一流フレンチシェフ対談です。共に長年にわたる『致知』の愛読者で、いま話題沸騰の弊社刊『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』にもそれぞれ記事が掲載されています。テレビ番組による大ブレイクに浮かれず、一方でバブル崩壊やコロナ禍に耐え、まさに順逆を越えてきた人ならではの風韻や品格に感銘を受けました。

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