人間ではなく仕事を前に出せ 河内國平(刀匠)

鎌倉・室町時代以来、約500年間技法が途絶えていた「乱れ映り」を現代に再現し、刀剣界最高峰の賞である「正宗賞」を受賞した刀匠・河内國平氏、84歳。刀鍛冶の道一筋60年の歩みと実践は、まさに「是の処即ち是れ道場」そのものである。氏が体験から掴んだ言葉の数々に、一道を極めていく心構え、何歳になっても成長・深化し続ける要諦を学ぶ。

僕は本当の技術や精神の伝承は、一つでもいい仕事を残すことだと思っているんです。何歳になっても努力を続け、後世の人が「河内はここまでつくったんか」と言って挑んでくれる刀を一振りでも残せれば本望です

河内國平
刀匠

――河内さんは代々刀鍛冶の家にお生まれになったそうですね。

〈河内〉 
確かに河内家には、初代や二代目がつくった日本刀が残っているのですが、いつから刀鍛冶をしていたのか、本当のところは分かりません。というのは、父(第十四代刀匠河内國助)曰く、明治の廃刀令で生活が苦しくなった時に、家系図やらなんやら売ってしまったんです。だから、代々刀鍛冶の家に生まれたとは、自分からは言わないようにしています。

それに僕はどこに生まれたかどうかは、腕(実力)に関係ないと思っているんです。伝統芸能の世界でも、代々の家に生まれなくても上手な人はたくさんいるでしょう? 職人ならば、どこそこに生まれたと威張るんじゃなく、日々努力を重ねて、自分の仕事、作品にものを言わせるのが大事だという思いで僕はやってきました。

――ああ、生まれは関係ない。

〈河内〉 
また、僕が子供の頃は、戦後のアメリカの占領政策によって日本刀をつくることが禁止されていました。父も「刀の時代は二度と来ない」とはっきり言って、包丁をつくっていたのですが、これが全く売れなくて、明治の世になった時と同じく、戦後しばらくは明日の食事にも事欠くような貧乏生活でした。だから、父は家業を継げとは言いませんでしたね。

むしろ5人の子供のうち一人くらいは企業に就職して偉くなってほしいというのが父の夢で、次男の僕も勤め人になるつもりで地元の関西大学法学部に進学しました。……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容 ~全6ページ~
◇「仕事が好き」より「仕事場が好き」
◇運命に導かれ刀鍛冶の道へ
◇修業とは〝構〟をつくること
◇さらなる進化を求めて貪欲に学び続ける
◇幻の技法「映り」に挑む
◇本当の伝承とは、一流の仕事を残すこと

プロフィール

河内國平

かわち・くにひら――昭和16年大阪府生まれ。関西大学在学中から、考古学者の末永雅雄氏に師事。卒業後、刀匠・人間国宝の宮入昭平(のち行平)氏に入門し、相州伝を習う。47年に独立、奈良県東吉野村に鍛錬場を設立。59年刀匠・人間国宝の隅谷正峯氏に入門、備前伝を習う。61年日本美術刀剣保存協会会長賞、62年文化庁長官賞など受賞多数。62年無鑑査認定。平成22年卓越技能者表彰(現代の名工)。技法の途絶えていた「乱れ映り」を再現したことなどが評価され、26年刀剣界最高峰の「正宗賞」受賞、同年黄綬褒章受章。令和元年旭日双光章叙勲。


編集後記

2010年に卓越技能者「現代の名工」に選ばれ、2014年には刀剣界最高峰の賞である「正宗賞」を受賞するなど、日本を代表する刀匠である河内國平さん。取材は奈良県吉野の山深くにある河内さんの鍛錬場「無玄関」にて行われましたが、84歳とは思えない肌艶と溌剌としたエネルギーに圧倒されました。刀鍛冶の道一筋60年の体験から掴んだ仕事の極意が鏤められています。

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