二宮尊徳の記憶を現代に蘇らせる時 北 康利(作家)

江戸末期、小田原藩領の農家に生まれ、困窮の中から身を起こし、生涯に600余の荒廃した村々を復興させた二宮尊徳。松下幸之助や稲盛和夫といった名経営者が仰いだその教えは、現代日本で忘れ去られつつある。このほど、本誌で17回にわたり連載され人気を博した評伝「二宮尊徳 世界に誇るべき偉人の生涯」を弊社より装い新たに上梓した北康利氏に、その偉功を紐解いていただいた。

遠きをはかる者は富み、近きを謀る者は貧す

二宮尊徳
〔今井爽邦作/尊徳記念館所蔵〕

尊徳の生き方を学べば、解決できない課題などこの世にはない

北 康利
作家

過去に松下幸之助や稲盛和夫の評伝を書いてつくづく思ったのは、彼らは〝経営の神様〟と呼ばれただけあって、経営においても人生においても一つの真理を悟った人だということであった。真理を悟ると応用が利く。松下幸之助が言うところの〝天然自然の法〟である。

ところがこの〝天然自然の法〟という言葉は松下のオリジナルではない。松下や稲盛が崇拝してやまない人物が口にしたものだ。それが二宮尊徳であった。

話はそれだけにとどまらない。私は安田善次郎も渋沢栄一も書いているが、彼らもまた二宮尊徳の信奉者だった。

銀行王として巨万の富を築いた安田の人生には、尊徳の教えに忠実であろうとした痕跡が濃厚に残っている。彼は富田高慶著の『報徳記』を何冊も常備しており、来客の土産として渡していたほどだ。これは安田の評伝を書いた後に知った事実で、どうして自分はもっと早く二宮尊徳を徹底的に研究しなかったのかという焦りにも似た感情を抱いた。

そして調べれば調べるほど、二宮尊徳は日本史上、いや人類史上、屹立(きつりつ)した巨人であることがわかってきた。

極めつけが、拙著の冒頭に掲げている武者小路実篤の言葉である。時空を超えた先達から活を入れられた気持ちがした。

〈二宮尊徳はどんな人か。かう聞かれて、尊徳のことをまるで知らない人が日本人にあったら、日本人の恥だと思ふ。それ以上、世界の人が二宮尊徳の名をまだ十分に知らないのは、我らの恥だと思ふ〉

残念でならないのは、
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(続きは本誌にて)

~本記事の内容~(全3ページ)
 ◇新著『二宮尊徳』に込めた思い
 ◇いかにして尊徳は世界に誇るべき人物となったか
 ◇尊徳が貫いた不動心と一円融合
 ◇〈すぐれた者の魂〉に学ぶことの意味

プロフィール

北 康利

きた・やすとし――昭和35年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券業務企画部長等を歴任。平成20年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に『白洲次郎占領を背負った男』(講談社、第14回山本七平賞受賞)『思い邪なし 京セラ創業者 稲盛和夫』(毎日新聞出版)など多数。最新刊に『二宮尊徳 世界に誇るべき偉人の生涯』(致知出版社)がある。


編集後記

月刊『致知』誌上で足掛け1年半にわたって連載され、大反響となった「二宮尊徳 世界に誇るべき偉人の生涯」。読者待望の単行本化がこのほど実現し、そこに込めた思いを著者本人に綴っていただきました。「二宮尊徳は、どんな人物か?」……稀代の作家・武者小路実篤は、こう問われてまるで答えられないようでは「日本人の恥だと思う」と言っています。さらに、その名を世界の人から十分に知られていないのは「我らの恥」だとも。かつては学校の校庭によく見かけ、誰もが名前は知っているような日本の偉人。その生き方をどれだけ知っているか。まだ、何も知らないという方にこそ、この記事と本を通して、尊徳の生き方に触れていただきたいと願います。

2026年1月1日 発行/ 2 月号

特集 先達に学ぶ

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