2 月号ピックアップ記事 /対談
明治を創ったリーダーたち~日本甦りへの道~ 藤原正彦(お茶の水女子大学名誉教授) 中西輝政(京都大学名誉教授)

厳しい国際情勢の中で漂流を続ける日本。保守論壇の重鎮である藤原正彦・中西輝政両氏は、日本人がいま範として立ち返る原点は、近代日本を力強く切り開いた明治人の生き方にこそあると説く。武士道精神に基づく見識や気骨を体した先達の姿勢は、現代に生きる私たちの魂を鼓舞し、本来あるべき人生への処し方を示してくれる。

「国家と民の一体感」、「進取の気性」、「武士道精神」。
この3つは明治の大きな特徴と言えるでしょう
藤原正彦
お茶の水女子大学名誉教授
〈中西〉
きょうの対談は明治の先達がテーマなのですが、私は歴史を捉える場合、歴史を大きく掴むことが大事だと考えています。歴史には後世に重大な影響を与えたという意味でいくつかのポイントとなる結節点があり、日本が欧米列強の強い圧力にさらされ、大きく揉まれながらも新しい時代を懸命に模索していった幕末維新は、まさに結節の時代だったと言えるのではないでしょうか。
そこには同じ激動の時代を生きる現代の私たちが学ぶべき多くの教訓があり、明治という時代やその時代を築いた先達に光を当てる意義はとても大きいと思っているんです。
〈藤原〉
ええ。私も全く同意見です。明治人の生き方に学ぶことは、日本人が本来の美質を取り戻す上で決して欠かせないというのは私の一貫した主張ですから。
〈中西〉
藤原先生が明治に関心を抱かれたのは、いつ頃のことでしたか?
〈藤原〉
藤原家は江戸時代、諏訪高島藩(現在の長野県諏訪地方)の足軽だったんですね。水戸の浪士が京都に上ろうとするのを下諏訪で迎え撃ってこてんぱんにやっつけたという話などを子供の頃からよく聞かされて育ちました。母方の祖母は明治の生まれなのですが、明治38年1月、日露戦争における旅順陥落の日、茅野の山間部の小さな集落でも提灯行列が行われ、小学生の祖母も参加したという話などを聞くにつれて、いつしか明治という時代に興味を持つようになったんです。

日本が立ち上がるためにも、明治という時代、とりわけその時代を導いた「日本の心」について深く考える時ではないかと思うのです
中西輝政
京都大学名誉教授
〈藤原〉
中西先生の明治との出合いはどういうものでしたか?
〈中西〉
私の父親は明治44年の生まれで、1歳半で明治から大正に変わったのに、「わしは明治の生まれだ」というのが亡くなるまで自慢の種でした。父親はどちらかというと洋風趣味で、いわゆるモダンボーイでしたが、明治というものに対しては特別な思いを持っていたんです。とりわけ、明治天皇への尊崇の念はとても深いものがありましたね。戦後生まれの私も若い頃、例えば司馬遼太郎の『坂の上の雲』などの文学作品などをきっかけに明治という時代の魅力に取りつかれ、その後、明治は探求のテーマともなっていきました。
学者になって日本の文明史を研究し気づいたのは、維新後、日本が西洋列強に伍して近代化を成し遂げ、私の父親のような一般庶民までが死ぬまで自慢するような日本史上の「輝ける時代」になったその土台には、それ以前、つまり江戸時代に育まれた日本文化の大いなる遺産がある、ということでした。
そこからさらに年齢を重ねて、いまの日本と明治を重ね合わせ、〝経済大国〟などといいながら、もはや手放しでは喜べない体たらくのこの現状を見るにつれて、現代人は明治を「永遠の模範」、自らを映す「時代の鏡」としてしっかり対峙していかなくてはいけない。その上で「日本かくあるべし」という議論を重ねなくてはいけない、という思いを強く持つようになりました。
〈藤原〉
おっしゃるように明治人が近代化を成し遂げたのは、江戸時代の文化の土台があったからであり、優れた日本独自の文化を育む上では鎖国というシステムがとてもよかったんです……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全10ページ~
◇父親に躾けられた武士道精神
◇江戸の文化が明治人の気骨を育んだ
◇日本人はなぜ根無し草になったのか
◇惻隠の方だった明治天皇
◇明治の基礎を築いた〝三太郎〟
◇武士道精神を体現した福澤諭吉
◇国家と民との一体感
◇学生たちの意識はなぜ変わったのか
◇いまこそ日本で文芸復興を
◇明治人に倣い祖国への誇りを取り戻す
プロフィール
藤原正彦
ふじわら・まさひこ――昭和18年旧満州新京生まれ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。理学博士。コロラド大学助教授などを経て、お茶の水女子大学教授。現在は同大学名誉教授。53年に数学者の視点から眺めた清新な留学記『若き数学者のアメリカ』(新潮文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。ユーモアと知性に根ざした独自の随筆スタイルを確立する。著書に290万部の大ベストセラー『国家の品格』(新潮新書)の他、『国家と教養』(同)『スマホより読書 本屋を守れ』(PHP文庫)『名著講義』(文春文庫)『藤原正彦の代表的日本人』(文春新書)など多数。令和7年菊池寛賞受賞。
中西輝政
なかにし・てるまさ――昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)『アメリカ外交の魂』(文藝春秋)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)等多数。近刊に『シリーズ日本人のための文明学2 外交と歴史から見る中国』(ウェッジ)。
編集後記
内憂外患で混迷を極める日本が、新たな未来を切り拓くために立ち返るべき原点がある。それは明治の先達に学ぶことである─。トップ対談にご登場いただいたお茶の水女子大学名誉教授・藤原正彦さんと、京都大学名誉教授・中西輝政さんの共通した思いです。明治天皇をはじめ福澤諭吉、新渡戸稲造、桂太郎、児玉源太郎、小村寿太郎など、お二人が語り合う武士道精神に貫かれた気骨ある明治人の生き方は、誇り高き日本人としての覚醒を促してくれます。

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