12 月号ピックアップ記事 /対談
人生の悲愁を越え命を見つめて生きる 鈴木秀子(文学博士) 本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)

8人もの児童の命が奪われた大阪教育大学附属池田小児童殺傷事件から24年が経過した。小学2年生だった愛娘の優希さんを失った母・本郷由美子さんはいま、東京下町を拠点に、人生の苦しみや悲しみを抱える人たちに寄り添う活動を続けている。人は悲しみに直面した時、それにどう向き合っていけばよいのか。悲しみと共に生きたこれまでの人生を踏まえながら、本誌でお馴染みの文学博士・鈴木秀子先生と語り合っていただいた。

生きていて、どうしようもなく辛く悲しい出来事に遭遇した時、大切なことはやはり涙を流すことなんですね。
泣くだけ泣いて胸の中が空っぽになると、そこから新しい考えが浮かび、自分を導いてくれるんですね
鈴木秀子
文学博士
〈鈴木〉
本郷さん、きょうお会いできるのをとても楽しみにしていました。
〈本郷〉
私こそお会いできて光栄です。鈴木先生とこうして対談できるなんて、私にとっては本当に夢のようなことなんです。
私の叔母が以前、鈴木先生と親交があり、先生は池田小事件の後、優希をはじめ亡くなった8人の子供たちのために都内で静かにミサを挙げてくださいました。
また、事件の2年後に私が出版した手記『虹とひまわりの娘』を読んで、叔母宛にとても心のこもったお手紙をくださったのですね。叔母はこの手紙をすぐに私に届けてくれたのですが、私にとっては再生の扉への招待状であり、いまも大切なお守りなんです。きょうはそれをお持ちしました。
〈鈴木〉
ああ、この手紙ですね。由美子さんの叔母様とは講談社の野間佐和子さん(元社長)を介して知り合い、親しくさせていただいていましたけど、20年以上前の手紙をいまもこのように大切に持っていてくださるなんて、とても感激しています。
〈本郷〉
この手紙に「由美子さんは意識していないでしょうが、この本は深く深く心に傷を負った人がその傷を自ら受け止め、癒しつづけ恵みに変えていくすばらしい人間性があふれています」と書いてくださっています。私の悲しみと生き方を心から受け止め、その後の人生の支えとなってくださった先生の存在抜きに、いまの私はなかったかもしれません。
〈鈴木〉
いまでもよく覚えていますけれども、事件の後、本郷さんの叔母様が私を訪ねてきて、当時の状況をとても丁寧に話してくださいました。「きょうはお祈りをお願いにきました」とおっしゃって、その日以来、私はずっとお祈りを続けてきています。
祈る度に皆様のことを思い出すので、きょう初めて本郷さんにお会いしたのに、まるで昨日もお会いしたかのような親しみを感じているんです。

悲しみに自分なりに折り合いをつけると、悲しみの根源にある愛に気がつき、いつしか悲しみの涙の質が変わってきて、安らぎを得た温かい涙として流れてくるようになります
本郷由美子
グリーフパートナー歩み代表
〈鈴木〉
池田小事件が起きたのは2001年6月のことでした。この事件を知って私も大変なショックを受けましたけど、あれから24年の歳月が流れたのですね。
〈本郷〉
ええ。24年という歳月の流れが長かったのか短かったのか、正直自分でもよく分からないのです。流れをどのように感じているかというと、残酷でもあり、寛容でもあった24年だったと思います。
二次被害的なことも含めて傷つくことが多くありましたし、一方では悲しみと向き合い続ける中で、悲しみを通したからこそ人の温かさを知ることもできました。見えてくるものにも変化があり、いままでにない物事の捉え方もできるようになり、心が柔軟になれたなとも思っています。
〈鈴木〉 
当時小学2年生でいらした優希ちゃんが生きていたらいまおいくつですか。
〈本郷〉 
31歳です。改めて振り返ると、優希と過ごした7年間は、毎日毎日が記念日でしたね。同じ日は二つとしてなかったということに失って初めて気づきました。
思い出は歳月の流れと共に少しずつ薄れてしまうものです。ですが、優希という存在はいまも私の中に息づいていて、瞬きする瞬間も愛おしいと思えるくらい、いつも輝き続けているんです。
〈鈴木〉 
優希ちゃんはいつ、どんな時も由美子さんの傍にいる。そのことを私も強く確信しています。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全10ページ~
◇再生の扉への招待状
◇命を見つめる優希ちゃんの眼差し
◇最後の力を振り絞って歩いた六十八歩
◇傷ついているからこそ人は神の愛を自覚できる
◇なぜ犯人の立場に思いを馳せられたのか
◇一人ひとりの命を輝かせる
◇深い悲しみを含んだ温かい涙
◇悲しみを受け入れた時人は立ち直ることができる
◇涙の質は変わっていく
◇幸せは心の奥深くに隠れている
プロフィール
鈴木秀子
すずき・ひでこ――東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本にエニアグラムを紹介。本誌連載をもとにした『名作が教える幸せの見つけ方』(致知出版社)など著書多数。新刊に共著『「思考は現実化する」を量子力学で解く』(ビジネス社)。
本郷由美子
ほんごう・ゆみこ――群馬県生まれ。平成13年大阪教育大学附属池田小児童殺傷事件で愛娘を失う。17年精神対話士の資格を取得。その後上智大学グリーフケア研究所で専門スピリチュアルケア師の認定を受け、同研究所で非常勤講師を務める。現在は、事件や事故の被害者、東日本大震災の被災者や身近な人を亡くした悲しみに寄り添う活動のほか講演活動に邁進。著書に『虹とひまわりの娘』(講談社)『グリーフケアとアウトリーチ かなしみを受け入れて生きて行くということ』(方丈社)など。
編集後記
8人の尊い児童の命が奪われた大阪教育大学附属池田小事件。24年経ったいまなお、私たちの記憶に焼きついています。当時2年生だった本郷優希さんも犠牲者の一人。母親の由美子さんを支え続けてきたのは、今回対談いただいた文学博士・鈴木秀子さんからの一通のお便りでした。自ら悲しみと向き合ってきたからこそ語れる由美子さんのひと言ひと言が、涙と共に心に深く沁み入ります。

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