12 月号ピックアップ記事 /対談
喜びも悲しみも、すべてを人生のギフトに 大山峻護(元総合格闘家) 官野一彦(パラサイクリング選手)

世界の強豪ひしめく総合格戦技界で長く活躍し、引退後は企業向け研修「ファイトネス」の普及や絵画の制作など、多方面で人々の幸福実現のために力を尽くしている大山峻護氏。事故による頸椎損傷という苦難にも屈せず、2016年のリオデジャネイロパラリンピックにて日本車いすラグビー史上初の銅メダルを獲得し、現在はパラサイクリング選手として飽くなき挑戦を続ける官野一彦氏。人生の様々な山坂を経験してきたお二人が語り合う、勝利への道、人を生かし自らを生かす道とは――。

人に喜んでもらう、それを人生軸にしていけば、何事もうまくいく、誰もが幸せな人生を送ることができると私は本気で思っています
大山峻護
元総合格闘家
〈大山〉
お互い普段からよくお会いしていますけれども、これまでこうした対談の機会はなかったので、きょうはとても楽しみでした。そもそも官野君とは、最初どんなご縁でお会いしたんでしたっけ?
〈官野〉
共通の友人の紹介で、2020年にお会いしました。コロナ禍でしたから、Zoomでお話しさせていただいたんです。
〈大山〉
ああ、そうでしたね。友人から「車いすラグビーで日本初のパラリンピック銅メダルを獲得したすごい人がいる」と紹介されたのが出逢いのきっかけでした。
〈官野〉
僕は大山さんが活躍された総合格闘技イベント「PRIDE」がとても好きで、よく見ていましたから、Zoomの画面越しにお目にかかった時、「あのPRIDEの大山峻護だ」と感激でした(笑)。
〈大山〉
私も官野君とZoomで初めてお話しした時、すごく自信に溢れ輝いて見えました。ご自身の障がいのことも含めすべてを受け入れている人だという印象を受けたんです。すごい男だなと。
〈官野〉
そう言ってくださって嬉しいのですが、明るく振る舞ってはいたものの、その時期の僕はすごく辛い状況でした。
2016年のリオデジャネイロオリンピックで銅メダルを獲得した後、東京2020パラリンピックの金メダルを目指し、勤めていた役所を退職して競技に専念することにしたんです。よりよい環境を求めて、アメリカに2年間留学するなど努力を重ねたのですが、結果的に日本代表に選ばれることはなかった……。
何よりも苦しかったのは、ふと後ろを振り返ると、自分について来てくれる人、応援してくれる人が誰もいなかったことでした。
〈大山〉
周りに応援してくれる人がいない……一番辛いですよね。

人のために一所懸命頑張ったことは、何倍にもなって自分に返ってくる。
人を喜ばせる道は自分を幸せにする道なんです
官野一彦
パラサイクリング選手
〈官野〉
アスリートですから、他の人を振り落としてでも、活躍の場を掴まなくてはいけない現実は確かにあります。でも、自分の言動の積み重ねがいまの孤独な現状をつくったのだと思うと、これまで頑張ってきたことは何だったんだろうと虚無感に襲われ、焦りと不安から鬱状態になったんです。
そんな時、大山さんとZoomでお会いしたのですが、いろいろお話しする中で、大山さんはこうおっしゃってくださいました。
「官野君がこの先、どんなにすごいことを成し遂げても、誰も喜んでくれなければ虚しいんだ。人は誰かが喜んでくれるからこそ自分も嬉しいんだよ。だから、官野君、人のために走りなさい」
この言葉を聞いて全身が震え、これまでとは違う世界がパーッと開けたのをいまも覚えています。
〈大山〉
私も格闘家時代、自分さえよければいいと思っていた時期があって、いろいろうまくいかずもがいてきました。でも自分のエゴではなく、皆を喜ばせたいという思いにフォーカスしてリングに上がった時、不思議とよいパフォーマンスを発揮できて、勝った時の充実感も全然違ったんですね。
その体験を悩んでいる官野君に伝えることで、自分のためではなく人のために頑張る大切さに気づいてほしいと思ったんです。
〈官野〉
大山さんの言葉をきっかけに、僕は人のために走るってどういうことだろう、人を喜ばせるために自分に何ができるだろうと考えました。最終的に出した結論は、誰もついてこない中でも、自分を支えてくれている家族や数少ない友人がいる、彼らを裏切らないため、喜ばせるためにこれからも挑戦し続けることだったんです。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全10ページ~
◇人のために走りなさい 人生を変えた言葉
◇人生のまさかは予告なしにやってくる
◇絶望から立ち上がる力をくれた母の愛
◇母を悲しませないその一心を力に
◇偶然の出逢いが新たな道を開く
◇ヒーローになりたい 柔道からプロ格闘家へ
◇試練が自分を鍛え成長させてくれた
◇「あなたの夢を目標に変えられますか」
◇目標が踏み出すべき次なる一歩を示してくれる
◇強烈な願望は現実となって現れる
◇誰かのために その思いが勝利を引き寄せる
◇喜びも悲しみもすべてをギフトに
本記事では世界の舞台で戦ってきたお二人に、勝負の世界で結果を出す心の持ち方、周りから応援される人生、仕事を実現する要諦を語り合っていただきました。
プロフィール
大山峻護
おおやま・しゅんご――昭和49年神奈川県生まれ。5歳から柔道を始め、中学2年生で講道学舎に入る。平成5年作新学院高等学校卒業、9年国際武道大学卒業。10年第28回全日本実業柔道個人選手権大会・男子81kg級優勝。13年柔道選手からプロ格闘家に転身。22年「マーシャルコンバット」ライトヘビー級タイトルマッチ王座獲得、24年初代ROAD FCミドル級王座獲得。26年現役引退。現在は格闘技を応用した研修プログラム「ファイトネス」を通じて、教育機関や企業などでチームビルディング、メンタルタフネスに尽力している。また、令和2年に一般社団法人You-Do協会を立ち上げ、アスリートと児童養護施設等の子供たちを繋ぐ活動にも取り組む。著書に『ビジネスエリートがやっているファイトネス』(あさ出版)などがある。
官野一彦
かんの・かずひこ――昭和56年千葉県生まれ。野球の強豪・木更津総合高校にスポーツ推薦で入学し、1年生からレギュラーで活躍。卒業後はサーフィンを始めるが、平成16年22歳の時にサーフィン中の事故により頸椎を損傷し、車いす生活となる。18年車いすラグビーを始め、ロンドン、リオデジャネイロと2大会連続でパラリンピックへ出場。リオでは日本車いすラグビー史上初の銅メダルを獲得。令和2年車いすラグビーから引退し、現在はダッソー・システムズ株式会社所属のパラサイクリング選手としてロサンゼルスパラリンピックを目指している。同2年TAGCYCLE株式会社を設立し、様々な活動を通じて社会に貢献している。
編集後記
人生のまさかは突然やってくる─難病であるアミロイドーシスを宣告された元総合格闘家の大山峻護さん、サーフィン中の事故で障がい者となったパラサイクリング選手の官野一彦さん。共に予期せぬ苦難に直面しても絶望することなく、それを前に進む力にしてきました。お二人の実感の籠もった体験談には、悲哀の涙を喜びの涙に転じ人々に感謝される生き方、明るい未来を掴むヒントが満載です。

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