11 月号ピックアップ記事 /特別講話
生きる力 千 玄室(茶道裏千家第十五代・前家元)

弊誌も深いご縁を賜ってきた茶道裏千家第十五代・前家元の千玄室氏が、去る8月14日に102歳でお亡くなりになった。先の大戦で九死に一生を得て、戦後は茶道の普及に邁進。日本の心を世界へ発信し、真の平和実現に向け、与えられた命を捧げ尽くしてきたその功績は計り知れない。
本年1月18日に開催された弊社新春特別講演会にご登壇いただいた千氏は、1時間立ったままで熱弁を振るい、100歳を越えた年齢を感じさせない若々しさで会場に感動の渦を巻き起こしたが、図らずもそれが壇上に見る最後の雄姿となった。『致知』読者へ、そして日本人へ、千氏が遺した最後のメッセージをここに紹介する。

「お先にどうぞ」とお茶碗をちょっと回す心で、日々の生活を省みる。
日本人には、そういう生活をもう一度取り戻していただきたい
千 玄室
茶道裏千家第十五代・前家元
皆さん、ごきげんよう!
ただいまご紹介にあずかりました、千玄室でございます。おかげさまで、今年の4月で102歳になります。(拍手)
藤尾先生はすごい人だと思います。私みたいな人間を、もう本当に何とも言えないような魅力で、この致知出版社の新年の大切な大会に引っ張り出してくださった。実は私、いまは東京の道場で新年の稽古始めの真っ最中でありますけれども、藤尾先生から呼び出された以上断るわけにはいきません。ちょっと失礼して稽古始めを抜け出してきました(笑)。おかげさまで皆さん方にお目にかかれたことを、本当に有り難く、嬉しく思っております。
さて、昨年は元旦から能登のあの大地震、そしてまた豪雨とか、大洪水とか、日本列島は様々な大きな試練を受けました。たくさんの我われの同朋が、お亡くなりになったり、家を失われてこれからどうやって生きていこうかと途方に暮れていらっしゃったりするわけであります。
そういう方々のために、私たちは何かをして差し上げなくてはいけない。
それは誰かに強制されてやることではありません。求められるのは、人間の本能に根ざした、心の底からの思いやり。私ね、その大本となる人間力を高めようと申し上げたい。
人間力を高めるというのは、人間の存在価値というものをどれだけ認識できるか。そして自分の知性ですね。ナレッジ(知識)、ウィズダム(知恵)、こうしたものがすべて知性に入るわけですが、この知性をいろんな経験を重ねて磨き上げることによって、自分自身を高めていくことが大事です。
皆さん方は、そういう自分自身の存在価値、これをどのように考えていらっしゃるか。そこが大事なところだと私は思います。……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全6ページ)
◇人間力を高めましょう
◇お互いが身を引けば衝突は起こらない
◇伝統を失った民族は国を滅ぼす
◇お辞儀もできなくなった日本人
◇本当に大切なのは心の豊かさ
◇人間をつくり上げてくれた戦前の教育
◇この日本をもう一度素晴らしい国に
◇「和敬清寂」の心を持って皆で手を繋ぎ合おう
プロフィール
千 玄室
せん・げんしつ――大正12年京都府生まれ。昭和21年同志社大学法学部卒業後、米・ハワイ大学で修学。39年千利休居士15代家元を継承。平成14年長男に家元を譲座し、千玄室大宗匠を名乗る。文学博士、哲学博士。外務省参与、ユネスコ親善大使、日本・国連親善大使、公益財団法人日本国際連合協会会長等を歴任。文化勲章、レジオン・ドヌール勲章コマンドール(フランス)、大功労十字章(ドイツ)、独立勲章第一級(UAE)等を受章。令和7年逝去。
編集後記
2009年の初開催以来、いまや弊社の恒例行事となっている新春特別講演会。その講演終了後に拍手喝采で会場が総立ちになったのは、今年1月に登壇された茶道裏千家前家元の千玄室さんが初めてのことでした。間もなく102歳を迎えるとは思えない矍鑠たる姿で、1,300名の聴衆に留まらず、すべての日本人に託す遺言のような渾身のメッセージを賜りました。弊誌はそのご遺志を受け継ぎ、富国有徳の国づくりに向けて邁進していく所存です。

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