勝利への道は、努力と辛苦の日にあり 野村忠宏(Nextend代表取締役/ ミキハウススポーツクラブGM) 阿部一二三(パリ2024オリンピック 柔道男子66㎏級金メダリスト/パーク24所属)

柔道男子60㎏級で前人未到のオリンピック3連覇の偉業を成し遂げ、現役引退後は自身がプロデュースする柔道教室「野村道場」を開催する等、国内外にて柔道の普及活動に力を尽くしている野村忠宏氏。その野村氏を目標に努力を重ね、東京2020オリンピック、パリ2024オリンピック柔道男子66㎏級で2連覇を果たした阿部一二三氏(パーク24所属)。世界の舞台で厳しい勝負を勝ち抜いてきたお二人が語り合う、辛苦を乗り越え、人生の勝利を掴む要諦とは――。

真剣な努力を続けた未来の自分に期待することが大事です

野村忠宏
Nextend代表取締役

〈野村〉 
阿部選手がパリ2024オリンピックで金メダルを獲得してから、ちょうど1年ですね。東京2020オリンピックに続く2連覇達成は本当に誇るべきことですし、何より見事な戦いぶりでした。

しかも、東京大会がコロナ禍で1年延期になって、パリまで3年しか準備期間がありませんでしたから、選手たちにとってはすごく難しい大会だったと思います。

〈阿部〉 
準備に関してはしっかりできたと思います。ただ東京とパリでは気持ちの面で大きな違いがありました。初めてのオリンピックだった東京大会は、自分は挑戦者だから思い切っていこうという感じでした。

でもパリ大会では、そんな感情は全くなく、何が何でも勝ち切らなくてはいけないという緊張感で試合に臨んでいました。

というのも、パリ大会で負けてしまえば、尊敬する野村さんが達成したオリンピック3連覇はおろか、その先の4連覇の夢が途絶えてしまうからです。この緊張感は相当なものでしたが、その中で勝ち切ることができたのは自分にとって大きな成長となりました。

また、東京大会で一緒に金メダルを獲得した妹の詩(うた)がパリでは先に負けてしまったことで、もうやるしかないと気持ちが吹っ切れたのも大きかったですね。

妹が勝つと、それもやはりプレッシャーとして降りかかってきますから。

〈野村〉 
あの時は、詩さんが負けて動揺して力が発揮できないのではないかという声も一部ありましたが、その後の試合を見ると、阿部選手はそんな脆い選手じゃないことがすぐに伝わってきました。

自分の物語は自分自身で創っていくしかありません

阿部一二三
パリ2024オリンピック 柔道男子66㎏級金メダリスト

〈野村〉
阿部選手と初めてお会いしたのは、阿部選手がまだ高校生の時でしたが、当時から技の切れや力強さ、勢いには目を見張るものがある一方、勝負どころでちょっと弱気になったり、闘い方や技が大雑把なところがあったりしたんです。

でも、それがオリンピック3連覇、そして4連覇を目標にして経験を重ねていく中でしっかり改善され、特に東京大会でチャンピオンになった時から柔道に自信と風格が出てきたように感じます。

そしてパリ大会の闘いぶりを見て本当に強くなった、名実共に絶対王者に相応しい柔道家になったと思いましたね。

高校生の頃から阿部選手の成長を見てきた私としては、本当に嬉しい限りです。

〈阿部〉 
私も2連覇を達成することができて、野村さんの3連覇のすごさが前よりもよく分かるようになりました。

2連覇でもものすごく大変なのに、それからまた4年間、どうやって体、特に気持ちを組み立てていったのだろうと。

ですから、まだまだ野村さんに教えていただきたいことがたくさんありますし、次の3連覇を目指して、もっと努力しなければいけないと思っているところです。

本記事の内容 ~全10ページ~
◇数々の戦いを経て風格ある絶対王者へ
◇女の子に投げられた悔しさをバネに
◇憧れる人を持つ―投げて勝つ柔道を目指す
◇未来の自分を信じ真剣な努力を続ける
◇一本が取れる柔道を―転機となった父の教え
◇限界は自分自身の心が決めている
◇決断した道を正解にするのは自分
◇諦めない気持ちが勝利を引き寄せる
◇苦難を乗り越えた先に新たな世界が待っている
◇真剣な挑戦に無駄なことは一つもない
◇努力の継続は天才を超える

本対談では世界の頂点を極めた野村さんと阿部さんに、柔道を通じて得た強くなる秘訣、自らの運命を切り拓いていく極意を語っていただきました。

プロフィール

野村忠宏

のむら・ただひろ――昭和49年奈良県生まれ。祖父が設立した豊徳館で3歳から柔道を始める。平成9年天理大学卒業。11年奈良教育大学大学院卒業後、ミキハウスに入社。柔道男子60kg級でアトランタオリンピック、シドニーオリンピック、アテネオリンピックで柔道史上初、また全競技を通じてアジア人初となるオリンピック3連覇を達成。平成25年に弘前大学大学院で医学博士号を取得。27年に40歳で現役引退後は、自身がプロデュースする柔道教室「野村道場」を開催する等、国内外にて柔道の普及活動を展開。スポーツキャスターやコメンテーターとしても活動する他、鍼灸接骨院とピラティススタジオを併設したコンディショニングラボ「Nom-Lab.(ノムラボ)」を設立し、ウェルネス事業にも取り組む経営者としても活躍している。

阿部一二三

あべ・ひふみ――平成9年兵庫県生まれ。6歳の時に地元の兵庫少年こだま会柔道部に入り柔道を始める。中学2年、3年時に全国中学校柔道大会で優勝。26年の講道館杯、全日本体重別選手権を史上初めて高校2年生(神港学園神港高校)で制し、早くから注目を浴びる。28年日本体育大学に進学。現在はパーク24所属。国内外の数々の大会で実績を残し、東京2020オリンピック、パリ2024オリンピック男子柔道66㎏級で2連覇を達成。


編集後記

アトランタ、シドニー、アテネとオリンピック柔道男子60キロ級で3連覇という偉業を成した野村忠宏さん。東京大会に続いてパリ2024オリンピック柔道男子66キロ級でも金メダルに輝き、2連覇を達成した阿部一二三さん。世界の頂点に立ったお二人が語り合う「成功への道のり」や「成長し続ける要諦」には、分野を超えた普遍性があります。何が勝敗を分けるのか、勝ち続ける人はどこが違うのか――学びが詰まったトップ対談です。

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