11 月号ピックアップ記事 /対談
苦難は事業の基なり 河邉哲司(久原本家グループ本社社長) 中岡生公(鈴懸社長)

素材のよさを引き出した調味料・食品ブランド「茅乃舎」で知られる久原本家グループ、行列が絶えない和菓子店として有名な鈴懸。いずれも福岡を拠点に、全国に多くのフアンを持つ優良企業である。共に百年以上の歴史を誇る老舗だが、河邉哲司氏、中岡生公氏が家業に入った頃は、経営に全く明るさが見出せない状況だった。お二人は厳しい環境の中で、どのように道を切り拓いてきたのか。その努力の道のりから学ぶべきことは多い。

70年の人生を振り返っても、偶然みたいに思っていた出来事が実は必然だったというケースがたくさんありました。
苦労や出会いがなかったら、タレの製造や明太子の自主ブランド、そして「茅乃舎だし」へと事業を発展させることはなかったと思うんです
河邉哲司
久原本家グループ本社社長
〈中岡〉
河邉さんは青年会議所時代からの大先輩でいらして、いまもロータリークラブの例会などでお会いしている親しい間柄ですから、改めて対談となるとどことなく面映ゆいというか(笑)。
〈河邉〉
確かにね(笑)。だけど、私は中岡さんと接していてとても教えられることが多いんです。
年齢的には私が10歳以上上ですが、中岡さんがやっているビジネスモデルは、私が目指そうとしている理想のビジネスの姿ととても近い。
それに、福岡という地方の一企業のブランドを引っ提げて東京に進出し、全国的な認知度を高めてきたところや、4代目、3代目という立場から新しい道を開拓してきたという似たような点もあります。
そういうことから私は中岡さんを非常にリスペクトしているわけです。
〈中岡〉
ありがとうございます。大変もったいないお言葉を頂戴しましたが、私こそ河邉さんを尊敬しているんです。
我々が23年前に東京に出ていくことができたのも、河邉さんが先に道をひらいてくださっていたおかげですから。東京に進出したばかりの頃は厳しいご意見もいただいたものですが、そういう時は特に河邉さんの存在は大きな力になりましたね。
〈河邉〉
鈴懸(すずかけ)さんは和菓子、私どもはダシに明太子と、業種が全く違うことも切磋琢磨というか、楽しく刺激し合える要因でしょうね。だから、鈴懸さんが店を出したと聞くと楽しみに見に行きましたよ。「どんな店づくりの工夫を、今度はしよるんやろうか」と。
〈中岡〉
それはお互い様ですよ。

ただお客様においしいと喜んでほしいという一心だけで無我夢中で走ってきて、振り返ると結果としては確かに苦労はあったのでしょうが、それを苦労とは感じなかった。
むしろ楽しかったのかもしれない。それがいまもまだ続いています
中岡生公
鈴懸社長
〈中岡〉
そういえば、久原本家さんは数年前から北海道での事業に力を入れられているようですね。
〈河邉〉
そうですね。我々は上質な素材を厳選してつくったダシなどを取り扱う「茅乃舎(かやのや)」を現在全国に32店舗展開し、11月には銀座に出店を予定しています。ブランドというものを強く引き出しながら他社との差別化を図ってきたわけですが、店舗展開もいずれは限界が来ます。
そこで、長年お世話になってきた北海道への恩返しの思いを込めて、北海道の素材で北海道のブランドをつくるという取り組みをスタートさせました。1つの柱は流通ブランドの「北海道くばら」、2つ目の柱はDtoCブランドの「北海道食品庫」です。
北海道にはまだまだ知られていない、埋もれた素晴らしい素材がありますからね。羅臼や利尻や函館の昆布は有名ですが、例えば函館の誰々さん生産のこだわりの昆布というものを見つけて、表に出して差し上げることでより価値が高まります。
〈中岡〉
ええ。その地域の誰々というところまで見極めてこそ、本物の素材がお客様に提供できる。それは私も全く同感ですし、その姿勢を今日まで貫いてきました。……(続きはこちら)
本記事の内容 ~全10ページ~
◇切磋琢磨する福岡の有名企業
◇昔ながらの和菓子をいまに再現
◇永続こそが企業の第一条件
◇醤油一本が売れることの喜び
◇頼まれ事は何事も「イエス」
◇無名の和菓子店が東京の百貨店に
◇高品質のダシはこうして生まれた
◇徹底した品質へのこだわり
◇「モノ言わぬモノにモノ言わすモノづくり」
◇感謝できる人が成長する
◇苦しんだ出来事もすべて必然
プロフィール
河邉哲司
かわべ・てつじ――昭和30年福岡県生まれ。福岡大学商学部卒業後、家業の久原調味料入社。4代目社主を継いでからはタレや調味料のOEM事業に着手。平成2年には明太子で初の自社ブランド「椒房庵」を立ち上げる。17年、自然食レストラン御料理茅乃舎を開業。その後、ブランド「茅乃舎」を立ち上げ店舗展開を図る一方、令和元年に久原本家北海道を設立するなど北海道での事業にも力を入れる。
中岡生公
なかおか・なりまさ――昭和44年福岡県生まれ。大阪の和菓子店で2年間修業後、家業の鈴懸に入社。平成10年、福岡岩田屋百貨店に「鈴(りん)」開店。14年、伊勢丹新宿店にて「鈴懸新宿伊勢丹店」開店。19年、福岡市博多区上川端町に和菓子を販売する菓舗に、かき氷や和風パフェも楽しめる茶舗を併設した「鈴懸本店」を開店。22年、3代目代表取締役に就任し、現在に至る。
編集後記
久原本家グループと鈴懸といえば、地元・福岡だけではなく、全国的に知られた老舗企業です。それぞれの社長を務める河邉哲司さんと中岡生公さんは共に低迷した家業を立て直し、地道な努力で優良企業への道を切り拓いてこられました。利に目を奪われず、頑なに本物の技術や商品を追求し続けるお二人の姿勢を通して、経営の王道とは何たるかを教えられます。

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