11 月号ピックアップ記事 /インタビュー
パリで和の心を伝承する 秋吉雄一朗(「茶懐石 秋吉」オーナーシェフ)

フランス初の茶懐石料理店として開業し、約1年でパリミシュラン一ツ星を獲得した「茶懐石 秋吉」。オーナーシェフを務める秋吉雄一朗氏は10代の頃から老舗料亭「瓢亭」で修業を積み、異国の地で日本料理の伝承に心血を注いでいる。氏を突き動かすものは一体何か――。山坂を乗り越えてきた歩みと日本料理に懸ける思いを伺った。
【写真=茶懐石は、茶の湯の席で出される食事として日本で古くから親しまれてきた懐石料理。日本の美や芸術を集約した総合芸術ともいわれている©TaisukeYoshida】

やはり、辛酸を舐める経験が人間を大きく成長させると思います。
ぬるま湯に浸かっているような環境に身を置いていては、決して成長しない。
窮苦は、次のステージに進むために欠かせないステップではないでしょうか
秋吉雄一朗
「茶懐石 秋吉」オーナーシェフ
©Shiro Muramatsu
――2年連続パリミシュラン一ツ星の獲得、おめでとうございます。
〈秋吉〉
ありがとうございます。「茶懐石 秋吉」はフランス初の茶懐石料理店として2023年にオープンした16席の小さな店ですが、いまでは1か月先まで予約が埋まるようになりました。
和食が無形文化遺産に登録され、ヨーロッパでも日本食に対する関心が高まっているとはいえ、まだまだ懐石料理は知られていないのが現状です。それでも、日本の素晴らしさを伝えたいという一心で挑戦を重ねてきた僕にとって、ミシュランに評価されたことは大変嬉しく、光栄に思っています。
――現地の人々を惹きつける魅力を教えていただけますか。
〈秋吉〉
大きな特徴は、和の心を感じる空間です。料理がおいしいだけではお店の雰囲気を変えることは難しい半面、空間で料理の感じ方を変えることはできる。だからこそ、空間づくりには徹底的にこだわりました。
パリの街並みで異彩を放つ数寄屋造りの木造建築は、釘を1本も使っていません。佐賀の職人さんに依頼し、寸法を測って日本で組み上げた後、一度パーツをばらして船で運び、パリで組み立て直してもらいました。
さらに掛け軸や和紙のライティング、神棚のオブジェなどを揃える。細部まで日本の文化を散りばめることで、引き戸を開けた瞬間、まるで日本に飛び越えてきたかのような感覚を味わうことができるんです。
――和の心を伝えるために、創意工夫を重ねている。
〈秋吉〉
料理に関しても、フランスの食材はもちろん、専門の輸入業者から取り寄せた日本の食材を使用し、向付から煮物、焼物、炊き合わせ、強肴、箸洗い、締めの和菓子と薄茶の点前まで、本格的な茶懐石料理を堪能できます。フランス人の好みに合わせすぎず、季節ごとの素材本来の味を生かした味つけを心懸けてきました。……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全4ページ)
◇2年連続パリミシュラン一ツ星を獲得
◇伝統を守りつつ新しいことに挑戦する
◇転機となったパリ大使公邸料理人の経験
◇起死回生の一打となった4・5坪の立ち食いラーメン店
◇強い信念さえあれば何があっても挫けない
プロフィール
秋吉雄一朗
あきよし・ゆういちろう――昭和59年福岡県生まれ。平成15年高校卒業後、瓢亭にて10年間修業。25年在パリOECD(経済協力開発機構)大使公邸料理長に就任。29年外務大臣表彰受章。帰国後、令和3年JR博多駅ホームにラーメン店「明鏡志水」オープン。5年パリに「茶懐石 秋吉」を開業。6年パリミシュラン一ツ星を獲得。以来2年連続で一ツ星に選出。
編集後記
『致知』の読者でもある秋吉さんの取材は、来日中の8月4日(月)致知出版社にて行われました。弊誌の質問一つひとつに丁寧に言葉を紡ぎ出される姿が印象的でした。日本料理への恩返しという信念を燃やし、パリで日々奮闘する秋吉さんの生き方から、窮苦を乗り越える秘訣を学びます。

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