7 月号ピックアップ記事 /対談
我が修行に終わりなし 柳澤眞悟(大峯金峯山回峰大行満) 宮本祖豊(比叡山十二年籠山行満行者)

1,300年の歴史を持つ大峯修験道。柳澤眞悟師(写真右)は、記録に残る限りこの歴史の中で初めて大峯山千日回峰という苛酷な修行を満行した行満である。柳澤師の特筆すべきは、百日回峰行を2回満行後、自身の心境に納得せずさらに厳しい千日回峰行に挑むという、妥協を許さぬ求道心である。この度、弊社より『積徳のすすめ』を上梓した比叡山十二年籠山行満行者・宮本祖豊師(写真左)と共に、これまでの修行人生や修行を通して得た人生の知恵を語り合っていただいた。

修行したからといって願うことは叶わないかもしれません。
しかし、1%でも希望があればそれに向かって努力することが大切
柳澤眞悟
大峯金峯山回峰大行満
〈柳澤〉
きょうは遠路、奈良・吉野まで足をお運びいただきありがとうございます。宮本さんが新しく出された『積徳のすすめ』(致知出版社)も大変興味深く読ませていただきました。
〈宮本〉
恐れ入ります。柳澤さんは修験道で知られる吉野山・金峯山寺の百日回峰行を2回、続けて大峯山修験道1,300年の歴史で初めて千日回峰行を満行された行満でいらっしゃるわけですが、かねがねその求道心の強さには心から敬服しているんです。きょうは久々にお会いできることを楽しみに、比叡山のほうからまいりました。
〈柳澤〉
いや、私などまだまだです。むしろ、厳格な規律を守られ修行された宮本さんの僧侶としての姿勢にいつも圧倒させられているのは私のほうですよ。
こうして親しくお話しするようになったのは確か5年ほど前からですね。天河弁財天で当時、瀧口宥誠・善光寺貫主が導師を勤められた弁財天浴酒供という密教の法要がありまして、そこに宮本さんも出仕されていました。宮本さんの『覚悟の力』(同)という本をいただいたのも、その時かと。
〈宮本〉
ええ。よく覚えております。
〈柳澤〉
その後、天台宗に伝わる密教の供養法、阿弥陀供毘沙門天の供養法を伝法いただいたりと、今日までお付き合いいただいているわけです。

何をするにも一つひとつを丁寧に誠心誠意やっていく。
置かれた環境で一日一日それを積み重ねていく。
よき人生はそのことに尽きる
宮本祖豊
比叡山十二年籠山行満行者
〈宮本〉
柳澤さんは若くして百日回峰行に臨まれますが、これがどのような修行なのか、『致知』の読者にぜひご紹介ください。
〈柳澤〉
ひと言で申し上げますと、吉野山・金峯山寺の蔵王堂から大峯山頂の本堂まで片道24キロ、標高差1,355メートルの道のりを100日間往復するというものです。もっとも前半の50日間は足慣らしの意味もあって片道の24キロだけを歩いて頂上の宿坊に泊まることになります。
起床は午前1時頃。滝に打たれた後、鈴懸という修験独特の装束を整えて2時くらいに蔵王堂を出発します。山中の25か所でお経を唱え、上りは6時間半、下りは5時間半ほどを歩くでしょうか。蔵王堂に戻るのはだいたい午後の3時くらいです。
私がこの大峯百日回峰行を行ったのは1975年、26歳の時のことですが、90日目くらいに消化不良でご飯が食べられなくなったことがありました。水すら飲めない。3日間ほど断食しながら歩いて、とうとう山中で倒れてしまったんです。行の失敗は許されませんから、携行する貝の緒で首を括ることも考えました。
そういう時、1時間ずらして出発し登ってこられたもう一人の回峰行者が、そんな私を見て「眞悟さん、どうしたんですか。行きましょう」と一喝してくれました。ふっと我に返って起きあがり、足を一歩踏み出しました。もう一歩足を出したら歩けるのではないかと互い違いに足を出していたら不思議に歩けるようになり、3時間ほど遅れましたが、無事に山上本堂に辿り着くことができました。
山上の宿坊では、ご飯は食べられなかったのですが少しだけお茶を飲めたんですね。そこから少しずつ調子を取り戻して、何とか100日を満行させてもらったんです。
〈宮本〉
まさにご自身の限界を超えた境地に至られたのですね。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全9ページ~
◇苛酷な〝動の行〟〝静の行〟を満行して
◇生死を超えてこそ真の修行
◇10年真剣に修行をして半歩、一歩進む
◇百日回峰行を2度発願した理由
◇700日目で起きた心の転換
◇限界は自分がつくる
◇命が尽きるぎりぎりまで自分を高め続ける
◇一隅を照らすとはポストにベストを尽くすこと
◇非難を浴びても信じる道をひたむきに
◇自分自身を見つめて生きる
プロフィール
柳澤眞悟
やなぎさわ・しんご――昭和23年長野県生まれ。家業の農業を経て25歳で金峯山修験道・金峯山寺の門を叩き当時の管領・五條順教師に師事。昭和50年から二度にわたり大峯金峯山百日回峰行を満行。59年には8年をかけて千日回峰行、同年秋に四無行を満行する。現在、金峯山修験本宗総本山金峯山寺長﨟、金峯山寺塔頭成就院住職、北野修験道場行蔵院住職。
宮本祖豊
みやもと・そほう――昭和35年北海道生まれ。59年出家得度。平成9年好相行満行。21年比叡山で最も厳しい修行の一つである十二年籠山行満行を果たす(戦後6人目)。比叡山延暦寺円龍院住職、比叡山延暦寺居士林所長などを経て現在は観明院住職、叡山文庫文庫長を務める。著書に『覚悟の力』、最新刊に『積徳のすすめ』(共に致知出版社)。
編集後記
大峯修験道1,300年の歴史の中で初めて大峯山千日回峰行を満行された柳澤眞悟さん、比叡山十二年籠山行を満行された宮本祖豊さん。常人には想像もできない過酷な行を成し遂げた修行僧でありながら、そのお人柄はとても穏やかで謙虚でした。心身共に限界の中、目の前の行に一つひとつ打ち込み壁を乗り越えていく生き方には、人生で苦境に立たされた時のあるべき姿を教えられます。

特集
ピックアップ記事
-
対談
我が修行に終わりなし
柳澤眞悟(大峯金峯山回峰大行満)
宮本祖豊(比叡山十二年籠山行満行者)
-
対談
一念の積み重ねこそ経営の真髄なり
大倉忠司(エターナルホスピタリティグループ社長CEO)
貫 啓二(串カツ田中ホールディングス会長)
-
対談
日本復活への道──日本精神をいかに取り戻すか
荒谷 卓(国際共生創成協会 熊野飛鳥むすびの里 代表)
ジェイソン・モーガン(麗澤大学准教授)
-
対談
希望の一念を燃やして生きる ~苦難の先に見えたもの~
浦田理恵(元ゴールボール女子日本代表)
姫野ナル(プロテニスプレーヤー)
-
エッセイ
日本を守った豊臣秀吉の一念
平川 新(東北大学名誉教授)
-
エッセイ
信念は偉大な夢を成し遂げる
榎本雅大(流通経済大学付属柏高等学校サッカー部監督)
-
インタビュー
「感動農業」への飽くなき挑戦
澤浦彰治(グリンリーフ社長)
-
インタビュー
「生命の根源」を求め続けて
神農 巌(陶芸重要無形文化財「青磁」保持者)
-
インタビュー
骨髄バンクと共に──粛々と歩み続けて37年
大谷貴子(全国骨髄バンク推進連絡協議会 副会長)
好評連載
バックナンバーについて

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます
過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。
定期購読のお申込み
『致知』は書店ではお求めになれません。
電話でのお申込み
03-3796-2111 (代表)
受付時間 : 9:00~17:30(平日)
お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード