7 月号ピックアップ記事 /対談
希望の一念を燃やして生きる ~苦難の先に見えたもの~ 浦田理恵(元ゴールボール女子日本代表) 姫野ナル(プロテニスプレーヤー)

ここに二人の女性がいる。ゴールボール女子日本代表としてパラリンピック四大会に連続出場、世界一を掴んだ浦田理恵さん(写真左)。離島・種子島でテニスに魅了され、国内外に活躍の場を広げる姫野ナルさん(写真右)。お二人の共通点は突然、不治の難病に侵されるも、自分の人生を諦めることをよしとせず、前進してこられたことだ。絶望の底で見出した希望の光、いま胸に燃やす一念とは。

「自分の人生を決して人任せにしない」
命は自分が使える時間。その使い方は自分でコントロールできます。
日々忙しくて思考が止まりそうになるけれど、いつも自分の感性を発動して生きたいです
浦田理恵
元ゴールボール女子日本代表
〈姫野〉
浦田さん、初めまして。姫野ナルと申します。
〈浦田〉
あっ、姫野さん。浦田理恵と言います。私はお顔が見えないんですけど、入ってこられた時の声や温度感で、素敵な笑顔の方だって分かりますよ。
〈姫野〉
とんでもないです。浦田さんは、熊本のご出身と伺いました。私、鹿児島の種子島なんです。
〈浦田〉
種子島! 九州っていうだけで、親近感が湧きますよね。
〈姫野〉
はい。お隣同士なので、とても楽しみにしてきました。普段は福岡にいらっしゃるのですか?
〈浦田〉
そうです。簡単に自己紹介させていただくと、いまはパラリンピック正式種目のゴールボールのチームと、シーズアスリートという組織に所属しています。
ゴールボールとは姫野さんがまだ小さい2004年に出合って、パラリンピックには東京2020まで四大会連続で出場しました。シーズアスリートは、私たちパラアスリートが現役時代に限らず、仕事と競技を両立して生涯社会で活躍するためのサポートをしてくれる組織で、2022年に競技を引退してからは後輩の育成、そして学校や企業、団体での講演会や競技体験会をさせてもらっています。
選手時代はプレーで元気を届けようと思っていましたけども、いまは言葉でたくさんの人に元気を届けたい。その思いで年間約70件お話しに伺っています。

「自分の人生の主導権は誰にも譲らない」
いまは一日一日、この一錠で生きていくんだって、自分の命が目に見えて分かるようになりました。
誰よりも一日一日のかけがえのなさ、一試合、一球の重みを理解している自信があります
姫野ナル
プロテニスプレーヤー
〈姫野〉
ああ、70回も。実は私も今年、講演依頼をいただくようになりまして、浦田さんはその意味でも大先輩です。きょうはたくさん勉強させていただきます。
〈浦田〉
私のほうこそ。まず「ナル」というお名前が素敵ですよね。
〈姫野〉
よく、芸名ですかと聞かれるんですが、本名です。スペルは「NALU」、ハワイ語で「波」を意味する言葉です。
サーフィン好きな両親の「人生で打ち寄せる数え切れない波を、自分で選び、あなたらしく乗ってほしい」という願いが込められています。海外の人にも覚えてもらって、世界で活躍できるようにという思いもあったようです。両親に感謝ですね。「ナルちゃん」って呼んでください(笑)。
〈浦田〉
名前は人生で最初にもらうプレゼント。ご両親からの最高の贈り物ですね。私も自分の名前が好きです。理恵って呼んでください。ナルさんは普段、どちらに?
〈姫野〉
私はいま種子島を出て、母の地元・大阪府守口市を拠点に、プロテニス選手として世界を目指して戦っています。自分が活躍することで種子島の魅力を世界に伝えたい、地元の皆さんに喜んでもらいたい気持ちが強いんです。
〈浦田〉
地元の皆さんの応援って、すっごく力になりますよね。
〈姫野〉
はい。いつも着るウエアには、プロとして籍を置き、活動を支えていただいている種子島医療センターさん、パッチ契約を結んでいただいた鹿児島銀行さんのロゴが入っています。後でお話しすると思いますが、3年前に難病を発症して、思うようにプレーができない時期があり、ようやく国際大会に挑めるようになりました。
種子島と鹿児島、地元の名前を背負うことにとても重みを感じていますし、力をもらっています。感謝でいっぱいです。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全10ページ~
◇九州から世界へと羽ばたいて
◇愛する家族を一番に頼れなかった
◇見えなくなって初めて見えたもの
◇自分が勝てば大切な人を笑顔にできる
◇平均20年、寿命が短くなる難病
◇自分の人生は自分が動かす
◇薬を断てば命を失う
◇人生の主導権は誰にも譲らない
◇眠っていた力が目覚める時
◇笑顔に開いた天の花
◇決死の覚悟で挑んだ海外遠征
◇誰かが一歩踏み出すきっかけになりたい
プロフィール
浦田理恵
うらた・りえ――昭和52年熊本県生まれ。20歳の時「網膜色素変性症」と診断され、徐々に視力を失う。福岡県の視力センターでゴールボールを始め、平成20年北京パラリンピックで五輪初出場、21年シーズアスリートに所属。24年日本代表副主将としてロンドンパラリンピックに出場し、金メダルを獲得。令和3年東京パラリンピックで銅メダルを獲得し、現役を引退。自身初の著書『一歩踏み出す勇気』を6月下旬、致知出版社より発刊予定。
姫野ナル
ひめの・なる――平成13年大阪府生まれ、鹿児島県種子島で育つ。11歳でテニスを始め、中学時代に鹿児島県ジュニアで優勝。相生学院高等学校では全国選抜高校テニス大会で団体2連覇を果たす。31年4月より種子島医療センター広報企画課所属。令和2年1月よりプロ転向、4年に指定難病「下垂体性成長ホルモン分泌亢進症」、翌年「下垂体前葉機能低下症」「成人成長ホルモン分泌不全症」を発症する。大阪を拠点に国内外のツアーを周り、グランドスラムを目指す。
編集後記
ゴールボール元日本代表の浦田理恵さんとプロテニス選手の姫野ナルさんは共に、夢に向かい走っていた20歳頃、不治の難病に侵され、絶望に襲われます。初対面ながら郷里が近く境遇も似ており、すぐに打ち解けたお二人のお話は、受け入れ難い現実をどう捉え、生きる力に変えるかの妙諦を示すものでした。絶望が深い分、深い人生の真理を汲み取り、一念を抱いて歩む姿に勇気をいただきました。

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