7 月号ピックアップ記事 /インタビュー
「生命の根源」を求め続けて 神農 巌(陶芸重要無形文化財「青磁」保持者)

琵琶湖を一望できる滋賀県大津市の高台にアトリエを構える陶芸家・神農巌氏。学生時代から青磁に魅せられ、以来、「雨過天青」と呼ばれる究極の色を探究する中で、氏独自の「堆磁技法」を編み出していった。40年以上、陶芸の道一筋に黙々と歩み続け、昨年人間国宝に認定された神農氏の陶芸家としての執念に迫る。

どれだけ精魂込めて時間をかけて制作しても陶芸は火を潜る芸術ですから、最後の最後に自分の手が届かない領域があるんです。
失敗した時、私は炎の女神から試されたと受け止めます。そこでサッと気持ちを切り替える。
またそのことが自分を磨く精神修養になるんです
神農 巌
陶芸重要無形文化財「青磁」保持者
(撮影/齊藤文護)
――神農さんのアトリエからは、琵琶湖を一望できますね。
〈神農〉
美しいでしょう? 私は琵琶湖の西側に窯を築いて38年になりますけれども、物づくりをする上ではフィールドが大事だと思っているんです。
琵琶湖は400万年前から存在する、世界で3番目に古い古代湖なんですね。そこに思いを巡らせていった時、心に浮かんだのは「生命の根源」という言葉でした。
眼下に広がる琵琶湖、湖の生命の源である「水」。そこから生命を育む存在としての「女性」、さらに「植物の種子」という発想が生まれ、これらを作品の中に盛り込んできました。
私は若い頃から青磁への憬れが人一倍強いんです。「雨過天青」(雨が過ぎ去った後の、しっとりとした穏やかな空の青)と呼ばれる青磁の最高の色が琵琶湖の碧や空の青とも重なり、それもまた「生命の根源」を彷彿させてくれます。
――陶芸家として「生命の根源」を探究することが神農さんのライフワークなのですね。
〈神農〉
ええ。もう一つ、東日本大震災の後から私が強く意識するようになったのが「祈り」です。
この滋賀という地は、字が水を慈しむと書くように水を大切にする土地柄ですし、近くには比叡山という祈りの聖地があります。大切な人を亡くした時や苦しい時、あるいは感謝の念で人は自然に手を合わせますけれども、それは人間が至純になる瞬間です。
この至純な手の合わさる様は、かたちとして美しく、その崇高な精神性を表現したものが「祈り」作品です。人間のDNAに組み込まれた一つのかたちが祈りなのだと思います。
祈りの制作も私にとっては「生命の根源」を表現するものです。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全4ページ~
◇琵琶湖を通して得た陶芸家としてのテーマ
◇人生を決めた偶然の出会い
◇雨過天青の再現に精魂を傾けて
◇独自の堆磁技法はこうして編み出された
◇成功も失敗もコツコツ積み重ねる
プロフィール
神農 巌
しんのう・いわお――昭和32年京都府生まれ。近畿大学経営学部を経て京都市立工業試験場窯業本科・専攻科修了、京都府立陶工職業訓練校卒業。清水焼窯元で5年間修業し、62年琵琶湖湖畔にアトリエを構えて独立。平成25年、滋賀県指定無形文化財保持者、令和6年重要無形文化財(青磁)保持者(人間国宝)に認定される。第58回日本伝統工芸展日本工芸会会長賞、紫綬褒章など受賞、受章多数。
編集後記
40年以上、青磁の美を追い求め、2024年、人間国宝に認定された神農巌さん。よき人とのご縁に導かれるように、堆磁技法という自身の陶芸を確立した神農さんの飽くなき探究心に、心を打たれます。

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