日本を守った豊臣秀吉の一念 平川 新(東北大学名誉教授)

天下統一を成し遂げ、戦乱の世を平和に導いた豊臣秀吉。しかし晩年には15万を超える大軍を率いて無謀ともいえる朝鮮出兵を行うなど、その人物の評価はいまだ毀誉褒貶相半ばである。長年日本史を研究してきた東北大学名誉教授の平川新氏に、秀吉の実像、日本を西洋の植民地化の脅威から守った知られざる外交戦略について紐解いていただく。

平和を構築するには平和を守るだけの力が必要である――。

秀吉、あるいは家康から、これからの日本の平和を守る国防、外交のあり方を考えていくこともまた私たちに与えられた歴史の教訓であると思います

平川 新
東北大学名誉教授

織田信長の意志を継ぎ、天下統一を成し遂げた豊臣秀吉。日本人であれば誰もが知っている戦国の英傑です。しかし、15万を超える大軍を動員した朝鮮出兵(文禄・慶長の役)については、「秀吉の狂気・耄碌(もうろく)・誇大妄想」「海外領土獲得を目指す膨張主義」などと解釈され、多くのドラマや小説でも狂気に陥った秀吉による異常な行為として描かれてきました。

本当にそうなのか――。日本史の研究者である私がその解釈に疑問を抱くようになったのは、仙台市史編纂で「慶長遣欧使節」を担当したことがきっかけでした。

慶長遣欧使節とは、仙台藩主・伊達政宗がメキシコ貿易のために、1613年に支倉常長を大使としてスペイン・ローマに派遣した使節です。その使節派遣に至るいきさつを追いかけていくと、どうしても前史である徳川家康、さらには、豊臣秀吉時代の外交関係を調べざるを得なくなったのです。

その中で秀吉は朝鮮出兵を行う以前に、既に中国の明、南蛮(スペイン領フィリピン)、天竺(ポルトガル領インド)の征服構想を抱いていたことが分かりました。単に領土拡張を目的とするならば、まず近隣の朝鮮征服構想が出てこなければなりません。また秀吉は朝鮮出兵前後、当時フィリピンを植民地にしていたスペインのフィリピン総督に日本への服属要求の書簡を送り、インドを支配していたポルトガル副王にはキリスト教布教の禁止を通告していました。

なぜ朝鮮出兵にスペインのフィリピン総督やインドのポルトガル副王が関係しているのか。文献に記されたこれらの事実を丹念に紐解いていくことによって、従来の解釈とは異なる秀吉の実像、朝鮮出兵の真意が明らかになっていきました。

本記事の内容 ~全4ページ~
◇朝鮮出兵の真実を追い求めて
◇戦国日本を取り巻く世界情勢の現実
◇イベリア半島勢力による日本征服計画
◇西洋人の狙いを見抜いていた秀吉
◇朝鮮出兵は西洋に対する対抗と挑戦である

なぜ豊臣秀吉は朝鮮出兵を行ったのか。平川さんが紐解く歴史の真実に興味は尽きません。ぜひご覧ください。

プロフィール

平川新

ひらかわ・あらた――昭和25年福岡県生まれ。法政大学文学部卒業。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。宮城学院女子大学助教授、東北大学教授などを経て、平成17年より東北大学東北アジア研究センター長。24年より東北大学災害科学国際研究所所長。26年より宮城学院女子大学学長。同年東北大学名誉教授。令和4年より宮城県慶長使節船ミュージアム(サン・ファン館)館長。著書に『戦国日本と大航海時代』(中公新書/第31回和辻哲郎文化賞受賞)などがある。


編集後記

「耄碌したからだ」「領土欲からだ」など否定的に語られることが多い豊臣秀吉による朝鮮出兵。しかし、歴史家の平川新さんが描き出す戦国日本が直面していた国際情勢を通じて、秀吉の知られざる外交戦略、リーダーの器量が見えてきます。秀吉が後世に残した歴史の教訓が満載です。

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