逸話に見る森信三師 養父母の愛情
森家の養父は種吉、養母ははるといい、ともに律義で実直な人でした。 これは先生にとって何よりの救いであり、終生の感謝でした。 晩年、『幻の講話』の巻頭には、「この書を恩愛深かりし養父母に捧ぐ」という献辞が記されております。 また最晩年、養父母のことを語るたびに涙ぐまれ、講演の最中でも感極まって、しばしば絶句されるほどでした。
実際、隣近所の人たちから「ほんとうの子だったら、とてもあんな大事にはできまい」といわれ、まるで「落胤」でも育てるように大事にされたようです。 例えば、幼い先生のために鶏を飼い、ドジョウを捕ってきては食べさせたり、アレルギー体質のうえに喘息気味だったので、長期間にわたり医者に連れていくなど、貧しい生活にもかかわらずできる限りのことを尽くしてくださったのでした。
(寺田一清編著『森信三小伝』より)