逸話に見る森信三師 小学校時代の恩師

小学校時代に最も印象的な感化を受けたのは、松井立身先生でした。
松井先生は旧刈谷藩の武士だった方で、藩主の学友に選ばれただけあって実に気品があり、しかも優しい人柄でした。
松井先生に教わったのは、小学の一、二年の二か年だけでしたが、森先生の人生に、一つの大事なものを種子蒔かれたようです。

松井先生は「修身」の授業の折、楠公父子の訣れの桜井の駅の話をされるたびに落涙されました。
白皙(はくせき)のお顔が、少し紅くなったかと思うと、やがて一筋の光るものが先生の頬を伝って流れました。
それをいつも真っ白なハンカチで静かに拭かれつつ、「これでも昔は二本指したものだから、他人事とは思われんで――」と、いつも話されました。

この松井先生から、信三少年の作文はよく褒められました。
そのためか、少年の頃から作文を書くことは随分好きで、楽しかったようです。

(寺田一清編著『森信三小伝』より)