杉原千畝より前に、数万人のユダヤ難民を救った樋口季一郎中将の決断

日本史をひとたび紐解けば、感動せずにはいられない有名無名の偉人たちに出逢うことができます。ここでご紹介するのは、30年以上にわたって日本の偉人たちに向き合ってきた横浜市公立中学校教諭の服部剛さん。「命のビザ」で多くのユダヤ人を救い、近年映画化もされた杉原千畝(すぎはら・ちうね)、それより前に数万人のユダヤ人難民を救った日本軍人がいたといいます。樋口季一郎中将――知られざる偉人の感動エピソードを語っていただきました。

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ユダヤ人難民を巡る歴史の真実

〈服部〉
……ぜひ語り継ぎたいのが、日本人とユダヤ人難民を巡る歴史の真実です。「命のビザ」を発給し、迫害された多くのユダヤ人難民を救った外交官・杉原千畝のことは、教科書でもよく取り上げられていますので、皆さんご存じだろうと思うんです。

ただ、取り上げられ方が非常に一面的でしてね。多くの教科書には、同盟国のナチス・ドイツに配慮しユダヤ人を助けようとしない日本政府に抗して、杉原千畝の一存で助けたかのように書かれていますが、事実ではありません。

でもよく考えてみると、もし本当に日本政府がドイツに配慮してユダヤ人を助けない方針だったなら、日本に亡命してきたユダヤ人を入国拒否、強制送還しているはずです。しかし、実際には亡命してきたユダヤ人をほぼすべて受け入れているんですね。

そもそも、当時の日本がことある毎に言っていたのは「八紘一宇」という言葉です。この言葉は現在では軍国主義的な意味合いに誤解されていますが、本来は人類皆兄弟、人種平等という意味で使われていました。つまり、日本人は人種差別をしない正義の国なんだと。

その「八紘一宇」の言葉、精神からも、日本政府がユダヤ人を受け入れなかったということはあり得なかったと分かるはずです。

知られざる樋口中将のユダヤ人救出

それで杉原千畝の「命のビザ」より少し前、一説に2万人ともいわれるユダヤ人難民を救った日本人がいたんですね。それは陸軍中将・樋口季一郎です。この樋口中将の先例があったから、杉原千畝もユダヤ人を救う決断ができたのではないかと私は思います。

樋口中将がどのようにユダヤ人難民を救ったかというと、それは昭和13年3月、樋口中将が満洲国に駐留していた関東軍のハルビン特務機関長を務めている時のことでした。満洲国と国境を接するソ連のオトポール駅で、ナチス・ドイツの迫害から逃れてきたユダヤ人難民たちが、満洲国に入国できず立ち往生しているという情報が飛び込んできたんです。

そこで樋口中将は「ユダヤ人難民を助けましょう。私が引き受けます」と、ユダヤ人難民を助けることを決断し、即座に南満洲鉄道の松岡洋右総裁に電話で特別列車の運行を要請。事態の深刻さを理解した松岡も快諾して、13本の特別列車ですべてのユダヤ人をハルピンまで送り届けたんですね。

このあとがまた、すごいんです。ユダヤ人救出に対し、ドイツ政府から抗議が来ると、関東軍司令部は樋口中将を呼び出すわけです。しかし、樋口中将は「ドイツは同盟国であり、私も日独の友好を望んでいます。

しかし、そのやり方がユダヤ人を死に追いやるものであるなら、それは人道上の敵です。日本はドイツの属国ではありません!」と堂々と答えたのです。それで日本政府も「当然なる人道上の配慮によって行ったものだ」と抗議を一蹴しました。

樋口中将は、弱い者や虐げられた者を放っておけない、心の優しい方だったことが様々なエピソードから伝わってくる方ですが、ご本人は「自分がユダヤ人を救った」とか、周囲にあまり語らなかったそうです。先日お話を聴く機会のあった樋口中将のお孫さんも、「お祖父さんは、本当に自分のやったことを語らない人だった」とおっしゃっていました。そういうところも偉いというか、男らしくてかっこいいなと思います。


(本記事は『致知』2018年4月号 特集「本気・本腰・本物」より一部抜粋したものです)

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【著者紹介】
◇服部剛(はっとり・たけし)
昭和37年神奈川県生まれ。学習塾講師を経て、平成元年より横浜市公立中学校社会科教諭となる。元自由主義史観研究会理事、現・授業づくりJAPAN横浜(中学)代表。著書に『先生、日本ってすごいね』(高木書房)『感動の日本史』(致知出版社)などがある。

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